【完結】ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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67 ジム

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 迅の陰に隠れながらジムの奥へと進んだ樹は、ベンチプレスらしきものを見つけた。ジムと言えば、このようなものだ。想像していた通りのものを見つけた樹は、駆け寄った。軽いものならできるかもしれない。

「これ、やってみたい!」
「ああ、俺がセットするから、ベンチに横になってくれ」
「うん、ありがとう。一番軽いやつでお願い」

 バーの下をくぐり、ベンチに仰向けになった樹は、迅が一番小さい円形のプレートを左右につけてくれるのを待った。

「よし、いいぞ」

 迅の声に、樹は両手でバーを掴み、ふんっと力を入れるが、全く動かない。

「んんっ、ダメだ……動かない」

 一番軽いものでも動く気配すら感じられず、落ち込んだ樹に、迅は慌てて左右のプレートを外した。

「ほら、これでどうだ」

 重りがついてないただのバーだけならと、樹は再度バーを掴む。歯を食いしばり力を入れるが――バーは一ミリも動かなかった

「…………」
「いや、他にも、ほら、ダンベルとかもあるぞ」
「ううん、ちょっとこのジムは、僕には難易度高かったのかも……」

 諦めて体を起こした樹は、迅の差し出してきたダンベルを断った。そのまま端の方に設置されていた椅子に座る。

「僕、ちょっとここで休憩しておくから、迅くんは運動してきていいよ」
「そ、そうか、じゃあ少しだけ」

 何度か心配そうに振り返りながら壁へと歩いていった迅は、壁の突起を掴む。そのままスルスルと重力など感じさせないほど軽々と上まで登っていった。スポーツウェアではなく普段着のままでも、太く長い尻尾を使いバランスを取りながら、他の利用者と同じように動いている。そんな迅を見ながら樹は大きなため息をついた。


「お待たせ」

 10分ほど経って戻ってきた迅は、晴れやかな顔をしていた。動き回り楽しかったのだろう。最後には、随分と高いところから飛び降りたのに、疲れた様子すらない。

「迅くん、すごいね!」

 ここまでくると、自分と比べることすらできず、樹は素直に口にした。

「まあ、種族的に動くのは得意だからな」


 ジムから出た後、帰り道を手をつなぎながら、ゆっくりと歩いていく。辺りは暗くなっており、歩道に等間隔で設置されている街灯が煌々と光っていた。

「樹」
「ん? どうしたの?」

 家までの道を半分ほど進んだあたりで、迅が立ち止まり、緊張をにじませた声で話しかけてきた。

「その、運動がしたくなったのか? 樹は種族的にも、簡単な物から始めたほうが良さそうだから、えっと、もう少し軽い器具がある場所を探すから、次はそこに行こう。少しずつ鍛えていけば、樹だっていつかは重いものも上げれるようになるから――」

 樹が上手くベンチプレスを持ち上げることができなかったので、励まそうとしているのだろう。手に力を込め、こちらを向きながら真剣な顔で言ってくる迅に、樹は口元を緩めた。

「ううん、運動はそんなに好きじゃないんだ。ただ、最近ちょっと体のお肉が気になっちゃって。体重も2キロも増えちゃったし――お尻も大きいし」

 素直に悩みを打ち明けた樹に、迅は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

「――え、樹はまったく太ってないから、運動なんてしなくていい」
「でも、迅くんはしっかり筋肉ついてるじゃん」
「俺は運動が好きだから勝手についてるんだ。好きじゃないなら運動を無理にする必要はない。それに、今の樹は抱き心地が良くて好きだ」
「抱きごこち……」

 力説してくる迅の言葉を復唱した樹は、頬を赤く染めた。

「――いや、抱き心地はそういう意味じゃなくて触り心地というか、いやこれも違う。その、顔を埋める時の――いや、抱きしめた時の感触が」

 同じく頬を赤く染めて、言葉を詰まらせながら言い募る迅に、樹はつないだ手に力を入れた。

「迅くんが気にしないなら、いいや」
「もちろんだ。たとえ、樹が真ん丸になったとしても、好きだからな」
「ふふっ、僕だって、迅くんが禿げちゃったとしても好きだよ」
「え、俺、禿げてるのか?」

 樹の言葉に、迅は慌てて生え際に手を当てて確認する。そんな迅を見ながら、樹は笑い声をあげた。

「ふふふっ、違うよー、たとえ話!」
「なんだ、そうか」

 胸を撫で下ろした迅は、尻尾を樹に巻き付け自分側に引き寄せた後、繋いだ樹の手を大きく振った。樹も合わせて大きく振り、迅を見あげる。顔を見合わせた2人は、くっついたまま家までの道を歩き出した。


 次の日から、迅がカロリーを抑えた美味しい食事を研究して作ってくれるようになり、休日はお散歩デートをして、樹の体重は無事元に戻った。
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