【完結】ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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74 朝

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 フワフワとした毛があごのあたりをかすめ、ザリザリとした感触が首筋をなぞっていく。

「――んんっ」 

 深い眠りから呼び覚まされた樹は眉をひそめた。眠りを邪魔するものを押さえようと、片手を伸ばす。

「……ミーくん、やめて」

 かつて飼っていた黒猫の名前を呼びながら、頭を押さえた瞬間――伸ばした指先に痛みを感じた。

「――いたっ」

 はっきりと目覚めた樹が目を開けると、そこには眉を寄せた迅がおり、樹の指先を噛んでいた。

「ミーくんとは誰だ?」
「え?」

 迅が低い声で問いかけてくるが、その意味が分からず、樹は首をかしげる。すると、迅は上げていた眉を下げて悲しみの滲んだ表情になった。樹は慌てて迅の頭を撫でる。

「どうしたの?」
「ミーくんとは誰なんだ? 浮気か?」
「ミーくん?」
「ああ、さっき樹が呼んでいた」

 ようやく言われた意味を理解した樹は、慌てて説明する。

「前に僕が飼ってた猫だよ」
「本当か?」

 疑いのまなざしを向けられた樹は、写真を見せようと体を起こそうとした。迅はその動きに気づき、樹の体の上に伏せていた体を起こしす。だが、樹の体はいつものようにスムーズには動かず、ぎこちない動きで上半身を起こした。

「――いたた」
「どうした? ま、まだ寝ていた方が――」
「スマホに写真があるから」
「俺がとってくるから、寝ててくれ」

 ズボンだけを履いていた迅は、布を押し上げてリビングへと走り去っていった。

 自分の体を確認すると、昨夜の服を着ているし、ローションのベタベタもない。きっと迅が体を拭いて服まで着せてくれたのだろう――もちろんパンツは履いていない。
 昨夜、準備を終えて体を洗い終わった樹は、パンツを片手に脱衣所で悩んでいた。新しいパンツは一昨日に履いてしまっていたので、いつも履いているヨレヨレのパンツしか残っていなかったからだ。悩んだ結果、ズボンだけを履いて待っていたが、結局、暗い中で脱いだためあまり意味がなかったと昨夜は思っていた。しかし、朝に見られる可能性もあったので、これでよかったのだろう。
 意識のないところで着せてもらうことは、ありがたく思う一方で、少し恥ずかしさもあった。

 体をもじもじと動かしながら待っていると、迅が樹のスマホを片手に戻ってきたので、受けとった。画面を操作して写真フォルダを開く。過去の写真へさかのぼると、そこには黒猫ミミの写真がたくさんある。そのうちの1つを表示させた樹は、迅へと見せた。

「ほら、この子がミーくんだよ」

 ベッドの上で正座をして待機していた迅へと見せると、真剣に画面を見つめてきた。

「僕が高校3年生の時に病気で亡くなっちゃったんだ……」
「え……そうなのか」
「よく寝ているときに首元に来ていたんだ。だから間違えちゃったみたい、ごめんね」
「あ、いや、全然。俺も指を噛んで悪かった」

 気まずそうに頭をかきながら誤ってきた迅に、樹は微笑みながら首を振った。噛んだと言われても、甘噛み程度で今は痛くもない。
 迅は過去にアパート近くにいる野良猫に威嚇していたことがあった。もしもミミが生きていれば2人は喧嘩するのだろうか。なんとなく似ているところもあるので、意外と気が合って懐いたかもしれない。その光景を思い浮かべた樹は、フフッと笑ってしまった。


「体は大丈夫か?」
「うん、ちょっと動かしづらいけど、大丈夫だよ」

 迅が先ほど噛んだ指先を撫でながら問いかけてきたので、樹は頷いて返す。

「飲み物を買ってきたから、好きなものを飲んでくれ。飯はもうすぐ到着する」
「うん、ありがとう」

 迅の指さす先を見るとそこはサイドテーブルで、大量のお茶とジュースが置かれていた。既視感のある光景に、口角が上がる。
 樹が体調を崩した時にもたくさんの飲み物を枕元に置いてくれていた。ただ、その時と違い、今回は樹が好きなフルーツジュースの割合が多い。
 リンゴジュースを手に取ると、目を細めながら蓋を開けてゴクゴクと飲む。

「おいしい!」
「そうか、よかった」

 隣に寝そべった迅は、樹の腰あたりに腕を回し抱きしめる。樹はジュースの蓋を閉め、サイドテーブルに戻した後、横になった。迅の方を向くと目が合い、顔が近づいてくる。樹はそっと目を閉じた。

「リンゴの味だ」
「ふふっ」

 ギュッと抱きしめた迅の感想に、樹は思わず笑ってしまった。

「ねえ、迅くん」
「なんだ?」
「迅くんのお腹触ってもいい?」
「――え!?」

 先ほどから気になっていた、迅の腹筋。上半身裸だったため、力が入るたびに浮き出る筋肉たちが見えていた。

「いいぞ」

 フンと力を入れた迅から許可が出たので、樹はドキドキしながら手を伸ばす。

「わぁー、硬い!」

 自分とは全然違うその硬い感触に、樹は夢中で触った。

「――も、もう、そろそろ」
「あ、ありがとう」

 樹がお礼を言いながら顔を上げると、そこには頬を染めた迅がいた。つられて赤くなった顔を隠すため樹は顔を下げた。
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