【完結】ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

文字の大きさ
76 / 77

76 帰宅

しおりを挟む
 お風呂をすませ、あとは寝るだけとなった樹は、リュックに荷物をつめて明日の帰り支度をしていた。
 少しの間だけ部屋に飾っていた薔薇の花束も、持ち帰りやすいように紙袋にそっとしまう。

「樹」
「ん? どうしたの迅くん?」

 迅に名前を呼ばれた樹は手を止めて振り返る。

「ちょっといいか?」
「うん」

 樹は立ち上がると、迅のもとへ歩み寄った。何度かスマホをチェックしていた迅は、パッと顔を上げたかと思うと、満面の笑みで告げる。

「誕生日おめでとう」
「あ!」

 そう、樹の誕生日は10月25日。時計を見ると、針は2本とも真上を指していて、ちょうど日付が変わったところだった。

「ありがとう」
「これを――」

 そう言って迅が渡してきたのは、手のひらサイズの薄い袋だった。中央には植物のイラストが描かれており、上部にはその植物の名前が印字されている。

「アップルミント――の種?」

 植物名を声に出して読んだ樹は、迅を見上げた。

「ああ、俺と一緒に育てないか? 成長したミントは料理に使えればと思って」
「え! すごくいいねそれ!」

 一緒に植物を育てる。その提案が嬉しくて、樹の顔には、まるで花が咲いたような明るい笑みがぱっと浮かんだ。

「帰ったら、一緒に鉢植えも探しに行こう」
「うん! 育て方もちゃんと調べないとね!」

 楽しかった旅行もあっという間に終わってしまい、明日には帰宅しなければならない。そのことに少し寂しさを感じていた樹だったが、帰ってからの楽しみを思うと、その気持ちも自然と和らいでいった。


******


「あ、迅。旅行どうだった?」
「とても良かった」

 朋也からの質問に、迅は笑顔で頷いた。思い出すだけで幸せな気分になり、知らず知らずのうちに口元が緩んでしまう。
 途中、思い出したくもない記憶もよみがえってきたが、その部分はすぐに脳から削除した。

「顔みりゃ分かるな。そうとう良かったんだな」
「ああ、すごく」
「とうとうヤッたんだろ? 付き合い始めてから結構立ってるよなー」

 朋也の言葉に、夜の行為のことを思い出した迅は、両手で顔を隠した。本当に良かった。すごく良かった。その言葉しか出てこない。次は、明るい場所で樹と――

 想像してしまった迅は、慌てて鼻の下を確認する。大丈夫だ、何も出てない。

「向こうでコテージに泊ったって言ってたな。いいなー」
「ああ、すごくいい。おすすめだ」

 色々と樹のことを考えていた迅は、スマホを取り出しアプリを開く。

「ん? なんだそれ? 地図アプリ?」
「いや、GPSの確認アプリだ」
「はぁ?」

 樹の場所を示すアイコンは、同じ大学の敷地内ではあるが、理系棟の方なので離れている。

「いや、お前、まさかとは思うが、恋人にGPSつけてんのか?」
「ああ」
「まじかよ!! ありえねえわ! え、さすがに本人は知ってるんだろうな?」
「もちろんだ、誕生日プレゼントで渡したんだ。このブレスレット型でお揃いなんだ」

 手首に着けている黒のブレスレットを触りながら迅が答えると、朋也はドン引きしたような顔で見てきた。意味が分からず、迅は眉を寄せる。

「なんだ? かっこいいだろ?」
「いやいや、そういう問題じゃねえし! は? 彼にちゃんと説明して渡したのか?」
「ああ、一緒にアプリを入れて設定までした」
「まじで!? なんで?」

 意味の分からないことを喚いている朋也を無視した迅は、スマホの画面に視線を落とした。樹の位置を表すアイコン。今、この場所に樹がいるのだ。
 最近、樹と離れているときは、すぐに場所を確認してしまう。一度アプリを閉じても、勝手に指が動き、無意識に開いて確認している。昨夜は、樹が隣にいたにもかかわらず、アプリを開いてしまっていた。
 アイコンが動いてるときは樹のゆっくりとした歩みが脳内に浮かび、止まっているときは、一体何をしているのか気になり考えてしまう。
 アイコンの動きさえも愛おしく感じた迅は、画面を指先でそっとなでた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

【BL】僕(18歳)、イケメン吸血鬼に飼い慣らされる。

猫足
BL
地下室に閉じ込められていた吸血鬼の封印が解け、王族は絶体絶命。このままでは国も危ないため、王は交換条件を持ちかけた。 「願いをひとつなんでも聞こう。それでこの城と国を見逃してはくれないか」 「よかろう。では王よ、お前の子供をひとり、私の嫁に寄越せ」 「……!」 姉が吸血鬼のもとにやられてしまう、と絶望したのも束の間。 指名されたのは、なんと弟の僕(18)で……?! ※諸事情により新アカウントに移行していましたが、端末の不具合のためこのアカウントに戻しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

レプリカント 退廃した世界で君と

( ゚д゚ )
BL
狼獣人×人君がおりなす異種間恋愛物長編 廃墟で目覚めた人の子。そこで出会った、得体の知れない。生き物。狼の頭をした人間。 出会い。そして、共に暮らし。時間を共有する事で、芽生える感情。 それはやがて、お互いにどう作用するのか。その化学反応はきっと予想できなくて。 ――そこに幸せがある事を、ただ願った。 (獣要素強め・基本受け視点のみ・CP固定・くっつくまで長いです pixivでも投稿しています)

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

処理中です...