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遠慮はいらない
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目を開けると、目の前に端正な顔立ちの男性がいた。
「気がつきました?」
男性はにっこりと笑った。邪気のない、子供みたいな笑い方だった。
まだぼんやりしている頭で私は聞いた。
「貴方はだれ……」
「死刑執行人ですよ」
「!」
その言葉に跳ね起きた。「わ、私、しょ、処刑! ……え? 首、くび、つながってる……?」
「貴方の首が落とされる前に僕が助けました。公開処刑広場にはダミーを置いてきたからしばらくは大丈夫です」
助けた? 私は目を見開く。
「ここは僕の隠れ家です。実験室ともいうかな。王城の近くなんですけど、絶対見つからないから大丈夫ですよ」
男性は私より少し上くらい……十八歳くらいに見えるが、小さな男の子がえへん、とでもするように、腰に手を当てて得意げに胸をそらした。なるほど、フードは外しているが確かに死刑執行人の黒いローブを身に纏っている。
隠れ家、と聞いてまわりを見ると、石造りの割と大きな部屋だった。大きな壺や、壁につるした動物の皮、棚に積まれた大量の本などが目に入る。
お尻がひんやりすると思ったら、私は今まで、石で出来た台の上に寝かされていたのだ。
「ベッドがなくて申し訳ないです。さあ、お手をどうぞ」
男性が優しく右手を差し出した。だけど私はその手を取るのをためらう。
「ど、どうして死刑執行人の貴方が私を助けるの? 何の目的が?」
「その答えは後ろですよ」
男性は私の背後を指さした。
私は反射的に後ろを振り向く。
「!」
そこには、石の台の上に仰向けに寝かされたアルベールがいた。手足と胴体を拘束された上に猿ぐつわをされ、目を大きく見開き、恐怖に顔を歪めている。
それもそのはず。
彼の視線の先……天井からは大きな刃がぶら下がっているのだから。
「アルベール……!」
私は色々な意味で驚いた。
なぜ彼がここに?
なぜ拘束されて?
しかもギロチンにかけられているのか。
アルベール……、私の元婚約者。無実の罪で私を死刑に追いやった張本人。
処刑される私をせせら笑った男。
私の中でふつふつと怒りが込み上げてきた。
死刑執行人はそんな私に優しく微笑んだ。
「カトリーヌ、貴方は櫓の上で僕の足を踏んで、こう言いました。ごめんなさいね、わざとじゃないのよ」
どこかうっとりするような調子で言う。可愛らしい笑い方だけど、ずっと見ているとどこか深い穴の中に引きずり込まれてしまいそうな笑い方だ。
「そう言ったときの貴方の目に、僕は、心を奪われました! あれほど復讐を望む憎しみに満ちた目は、今だかつて見たことがない! カトリーヌ、貴方の目を見た瞬間、僕は恋に落ちたのです」
死刑執行人は頬を赤らめ、私の両手を取った。
一人でべらべら喋っているが、とうてい理解が追い付かない。私に恋したって、どういうこと……。
「僕は貴方の復讐に協力します。断頭台に首を乗せたとき、それが最後の言葉でいいんですか、このまま終わっていんですか、って聞いたでしょう?」
あれは貴方の声だったの……。
「魔法で貴方の心に直接問いかけたんですよ。そうしたら貴方は」
「いいわけないでしょ……」私は思わず言葉を漏らした。そう、あのとき私は確かに答えた。
「そうです、いいわけない。だから僕は……」
「おい! マルク! 貴様、どういうつもりだ! これを解け!」
死刑執行人の言葉を遮って、背後からアルベールの怒鳴り声がした。
「あらら、猿ぐつわが外れたか。サルがうるさいや」
死刑執行人……マルクというらしい、はアルベールの近くに移動する。私にもこっちへおいでと手招きした。
「マルク、貴様は我が国の専属魔導師のくせに、俺をこんな目に遭わせて、いったいどういうつもりだ!」
アルベールは私が目に入ってないのか、マルクだけを責めた。
マルクはどこ吹く風だ。面白そうにアルベールを眺めている。
「あのね、アルベール殿下? 言っておきますけど僕は国に就職はしたけど忠誠とかは誓ってないんですよ? ただ処刑した人の首をくれたり、魔法の実験に都合がいいから専属になってただけ。貴方の国はけっこうエグイこと平気でやるからね、手に入りにくいものが手に入る」
マルクは魔法を使う魔導師だったのか。それで私をあの場から助けたりアルベールを拘束できたのね。
「死刑執行人やってたのも新鮮な首が即欲しかったから。国に警戒されないように平凡な魔導師演じてたけど、実は僕けっこう魔力強いからさ、覚悟してねアルベール殿下」
マルクは私に向き直ると、合図するようにウインクした。
「さあ、愛しのカトリーヌ、存分に復讐するといいですよ、遠慮はいらない」
「気がつきました?」
男性はにっこりと笑った。邪気のない、子供みたいな笑い方だった。
まだぼんやりしている頭で私は聞いた。
「貴方はだれ……」
「死刑執行人ですよ」
「!」
その言葉に跳ね起きた。「わ、私、しょ、処刑! ……え? 首、くび、つながってる……?」
「貴方の首が落とされる前に僕が助けました。公開処刑広場にはダミーを置いてきたからしばらくは大丈夫です」
助けた? 私は目を見開く。
「ここは僕の隠れ家です。実験室ともいうかな。王城の近くなんですけど、絶対見つからないから大丈夫ですよ」
男性は私より少し上くらい……十八歳くらいに見えるが、小さな男の子がえへん、とでもするように、腰に手を当てて得意げに胸をそらした。なるほど、フードは外しているが確かに死刑執行人の黒いローブを身に纏っている。
隠れ家、と聞いてまわりを見ると、石造りの割と大きな部屋だった。大きな壺や、壁につるした動物の皮、棚に積まれた大量の本などが目に入る。
お尻がひんやりすると思ったら、私は今まで、石で出来た台の上に寝かされていたのだ。
「ベッドがなくて申し訳ないです。さあ、お手をどうぞ」
男性が優しく右手を差し出した。だけど私はその手を取るのをためらう。
「ど、どうして死刑執行人の貴方が私を助けるの? 何の目的が?」
「その答えは後ろですよ」
男性は私の背後を指さした。
私は反射的に後ろを振り向く。
「!」
そこには、石の台の上に仰向けに寝かされたアルベールがいた。手足と胴体を拘束された上に猿ぐつわをされ、目を大きく見開き、恐怖に顔を歪めている。
それもそのはず。
彼の視線の先……天井からは大きな刃がぶら下がっているのだから。
「アルベール……!」
私は色々な意味で驚いた。
なぜ彼がここに?
なぜ拘束されて?
しかもギロチンにかけられているのか。
アルベール……、私の元婚約者。無実の罪で私を死刑に追いやった張本人。
処刑される私をせせら笑った男。
私の中でふつふつと怒りが込み上げてきた。
死刑執行人はそんな私に優しく微笑んだ。
「カトリーヌ、貴方は櫓の上で僕の足を踏んで、こう言いました。ごめんなさいね、わざとじゃないのよ」
どこかうっとりするような調子で言う。可愛らしい笑い方だけど、ずっと見ているとどこか深い穴の中に引きずり込まれてしまいそうな笑い方だ。
「そう言ったときの貴方の目に、僕は、心を奪われました! あれほど復讐を望む憎しみに満ちた目は、今だかつて見たことがない! カトリーヌ、貴方の目を見た瞬間、僕は恋に落ちたのです」
死刑執行人は頬を赤らめ、私の両手を取った。
一人でべらべら喋っているが、とうてい理解が追い付かない。私に恋したって、どういうこと……。
「僕は貴方の復讐に協力します。断頭台に首を乗せたとき、それが最後の言葉でいいんですか、このまま終わっていんですか、って聞いたでしょう?」
あれは貴方の声だったの……。
「魔法で貴方の心に直接問いかけたんですよ。そうしたら貴方は」
「いいわけないでしょ……」私は思わず言葉を漏らした。そう、あのとき私は確かに答えた。
「そうです、いいわけない。だから僕は……」
「おい! マルク! 貴様、どういうつもりだ! これを解け!」
死刑執行人の言葉を遮って、背後からアルベールの怒鳴り声がした。
「あらら、猿ぐつわが外れたか。サルがうるさいや」
死刑執行人……マルクというらしい、はアルベールの近くに移動する。私にもこっちへおいでと手招きした。
「マルク、貴様は我が国の専属魔導師のくせに、俺をこんな目に遭わせて、いったいどういうつもりだ!」
アルベールは私が目に入ってないのか、マルクだけを責めた。
マルクはどこ吹く風だ。面白そうにアルベールを眺めている。
「あのね、アルベール殿下? 言っておきますけど僕は国に就職はしたけど忠誠とかは誓ってないんですよ? ただ処刑した人の首をくれたり、魔法の実験に都合がいいから専属になってただけ。貴方の国はけっこうエグイこと平気でやるからね、手に入りにくいものが手に入る」
マルクは魔法を使う魔導師だったのか。それで私をあの場から助けたりアルベールを拘束できたのね。
「死刑執行人やってたのも新鮮な首が即欲しかったから。国に警戒されないように平凡な魔導師演じてたけど、実は僕けっこう魔力強いからさ、覚悟してねアルベール殿下」
マルクは私に向き直ると、合図するようにウインクした。
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