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私の心
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「カ、カトリーヌだって?」
アルベールが初めて私の存在に気がついたように呟いた。憎らしさが込み上げてくる。
「ごきげんよう、アルベール様」
私は努めて冷静に話しかける。取り乱したりするものか。
「カトリーヌ、貴方の好きなタイミングで僕に命じて下さいね。そうしたら刃をアルベール殿下の首に落としますから」
なるほど。刃は魔法で宙に浮いているのか。魔法ってすごい。
「じゃあ僕は席を外します。積もる話もあるでしょうし。刃を落としたくなったら呼んで下さいね」
マルクは隣の部屋へと去って行った。
マルクの言葉の意味を理解したアルベールは目に見えて青くなった。
頭上にある大きな刃をあらためて見て、がたがた震え出した。
「カトリーヌ……」
「なんですか、アルベール様」
「お、俺は悪くないんだ!」
「はあ?」
思わず品のない声が漏れた。
悪くない? 何を言っているのかこの男は。
手足と胴を鎖できつく固定されているアルベールは、顔だけをこちらを向けて、私に哀願した。
「ジュリア、そうジュリアのせいなんだ。俺はき、君との婚約破棄だけで済ませるつもりだったのに、ジュリアが君のことを消せって……だから、俺は仕方なくああしたんだ。本当は君を処刑なんてするつもりなかった。やりすぎだと思ってたんだ!」
唾を飛ばしながら一気にまくし立てた。助かりたくて必死感が満載だった。
「私のことを少しでも可哀そうに思ってくれてたんですか? 私が櫓に上ったとき」
憎しみで震える声を抑えながら私は彼を見下ろす。アルベールはその問いに笑いたくなるほど高速で何度も頷いた。
「婚約破棄したとはいえ、一度は愛した君だ。いや、今も愛して……」
「私は噓つきは嫌いです」
「嘘じゃない、君を今でも愛してる……」
「マルクー、刃を降ろしてー」
「わああああああああ!! 待った待った待ってくれ!」
「カトリーヌ、呼びました?」
マルクが隣の部屋から顔を出す。マルクはアルベールに近づくと、彼の髪を掴んで引っ張った。
「質問には正直に答えなよ。それと、カトリーヌに言うことはそんなことじゃないだろ?」
にっこりと笑っているのに地の底から響くような凄みのある声に、アルベールは言葉を失う。
「すみませんカトリーヌ、邪魔をしてしまって。どうぞ続けてください」
私は改めてアルベールを見下ろす。独裁国家の第二王子は今や罠にはまって死を待つウサギより哀れだった。
「貴方は私のことをせせら笑いましたね?」
「悪かった、カトリーヌ。許してくれ、俺が悪かった。お、俺はまだ死にたくないんだ」
「私だって死にたくありませんでした。断頭台に首を置いた恐怖、貴方に分かります?」
私は意地悪く言った。言わなくても今の彼には充分に分かるだろう。今まさにギロチンにかけられている彼には。しかも落ちてくる刃の方を向いているのだ。
「分かった、じゅーぶん分かった! 君がどんな気持ちだったか、俺は分かった! だ、だから助けてくれ、カトリーヌ! 助けてくれたらなんでもする、なんでもするから、お願いだ、カトリーヌ」
アルベールはついに泣き出した。それなりに整っていた彼の顔は涙と鼻水と涎で醜く汚れた。
全てが白々しかった。
私への誠実さなんてかけらもない。
今になって私は一縷の望みに縋っていたことに気がつく。腐っても国の王子であるアルベールが、彼なりの誠意を示してくれることを。
わが身可愛さに命乞いするのではなく、正直にお前など俺にとって羽虫も同然と罵ってくれることを。
そうしてくれれば私は……
「マルク、やって」
私は静かに命じた。
「わああああああああ! い、いや、いやだああああ! 助けて、助けてカトリーヌ!」
アルベールは台の上で最後の抵抗とばかりにめちゃくちゃに暴れた。
「いやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない」
部屋の隅で待機していたマルクは石の台に近づくと汚物を見るかのようにアルベールを一瞥しカウントダウンした。
「じゃあ行きますよ、3・2・1……」
アルベール、恨み言の一つも言わないのか。最後まで命乞い。情けない男。
刃が落ちる。
アルベールの絶叫。
「止めて……マルク」
気がつくと私はマルクに縋っていた。
アルベールが初めて私の存在に気がついたように呟いた。憎らしさが込み上げてくる。
「ごきげんよう、アルベール様」
私は努めて冷静に話しかける。取り乱したりするものか。
「カトリーヌ、貴方の好きなタイミングで僕に命じて下さいね。そうしたら刃をアルベール殿下の首に落としますから」
なるほど。刃は魔法で宙に浮いているのか。魔法ってすごい。
「じゃあ僕は席を外します。積もる話もあるでしょうし。刃を落としたくなったら呼んで下さいね」
マルクは隣の部屋へと去って行った。
マルクの言葉の意味を理解したアルベールは目に見えて青くなった。
頭上にある大きな刃をあらためて見て、がたがた震え出した。
「カトリーヌ……」
「なんですか、アルベール様」
「お、俺は悪くないんだ!」
「はあ?」
思わず品のない声が漏れた。
悪くない? 何を言っているのかこの男は。
手足と胴を鎖できつく固定されているアルベールは、顔だけをこちらを向けて、私に哀願した。
「ジュリア、そうジュリアのせいなんだ。俺はき、君との婚約破棄だけで済ませるつもりだったのに、ジュリアが君のことを消せって……だから、俺は仕方なくああしたんだ。本当は君を処刑なんてするつもりなかった。やりすぎだと思ってたんだ!」
唾を飛ばしながら一気にまくし立てた。助かりたくて必死感が満載だった。
「私のことを少しでも可哀そうに思ってくれてたんですか? 私が櫓に上ったとき」
憎しみで震える声を抑えながら私は彼を見下ろす。アルベールはその問いに笑いたくなるほど高速で何度も頷いた。
「婚約破棄したとはいえ、一度は愛した君だ。いや、今も愛して……」
「私は噓つきは嫌いです」
「嘘じゃない、君を今でも愛してる……」
「マルクー、刃を降ろしてー」
「わああああああああ!! 待った待った待ってくれ!」
「カトリーヌ、呼びました?」
マルクが隣の部屋から顔を出す。マルクはアルベールに近づくと、彼の髪を掴んで引っ張った。
「質問には正直に答えなよ。それと、カトリーヌに言うことはそんなことじゃないだろ?」
にっこりと笑っているのに地の底から響くような凄みのある声に、アルベールは言葉を失う。
「すみませんカトリーヌ、邪魔をしてしまって。どうぞ続けてください」
私は改めてアルベールを見下ろす。独裁国家の第二王子は今や罠にはまって死を待つウサギより哀れだった。
「貴方は私のことをせせら笑いましたね?」
「悪かった、カトリーヌ。許してくれ、俺が悪かった。お、俺はまだ死にたくないんだ」
「私だって死にたくありませんでした。断頭台に首を置いた恐怖、貴方に分かります?」
私は意地悪く言った。言わなくても今の彼には充分に分かるだろう。今まさにギロチンにかけられている彼には。しかも落ちてくる刃の方を向いているのだ。
「分かった、じゅーぶん分かった! 君がどんな気持ちだったか、俺は分かった! だ、だから助けてくれ、カトリーヌ! 助けてくれたらなんでもする、なんでもするから、お願いだ、カトリーヌ」
アルベールはついに泣き出した。それなりに整っていた彼の顔は涙と鼻水と涎で醜く汚れた。
全てが白々しかった。
私への誠実さなんてかけらもない。
今になって私は一縷の望みに縋っていたことに気がつく。腐っても国の王子であるアルベールが、彼なりの誠意を示してくれることを。
わが身可愛さに命乞いするのではなく、正直にお前など俺にとって羽虫も同然と罵ってくれることを。
そうしてくれれば私は……
「マルク、やって」
私は静かに命じた。
「わああああああああ! い、いや、いやだああああ! 助けて、助けてカトリーヌ!」
アルベールは台の上で最後の抵抗とばかりにめちゃくちゃに暴れた。
「いやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない」
部屋の隅で待機していたマルクは石の台に近づくと汚物を見るかのようにアルベールを一瞥しカウントダウンした。
「じゃあ行きますよ、3・2・1……」
アルベール、恨み言の一つも言わないのか。最後まで命乞い。情けない男。
刃が落ちる。
アルベールの絶叫。
「止めて……マルク」
気がつくと私はマルクに縋っていた。
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