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40年後? 2
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杖をついて、よぼよぼしながら王宮の階段を降りてくる。
「リステアード国王陛下」
フェリクスはエルドゥ王国国王に向かって敬礼した。もし国王がよろけて階段を転げ落ちてきても、受け止められるポジションをキープしながら。
リステアードは今から二十年前、父親のあとを継ぎ、エルドゥ王国国王となった。彼が国王になったあとも、エルドゥ王国はもとより、世界的にも平和が続いた。
リステアードは26歳のころと変わらない、サラサラの黒髪をしていた。多分魔法でその髪型を維持しているんだろうとみんな察していたが、思いやりで、誰も口には出さなかった。
リステアードはその黒髪をさっとかき上げながら言った。かき上げながらよろけた。
「40年もエルドゥ王国のためにありがとう。君のおかげで国が活気づくよ、ビアンカ君」
「リステアード陛下、私はフェリクス・ブライトナー、本名フェリシア・ローデンバルトです。ビアンカ様はユリアン殿下の奥様ではないですか」
フェリクスはよぼよぼしているリステアードに向かって、冷静に訂正した。
リステアードはそれを聞くと、杖で自分の体を支えながら「ああ……」と遠い目をした。どこを見ているんだろう、とフェリクスは思った。
「ユリアン……あいつは、いい奴だった……」
「左様でございます。ユリアン殿下ほど、優しい方はおりません」
フェリクスはリステアードに調子を合わせた。
エルドゥ王国第二王子ユリアンは、30年前のある日、王宮の廊下で滑って転倒し、頭を打って亡くなった。
「清掃係を責めるな……床がピカピカな証拠じゃないか……滑った俺が間抜けなだけさ」が彼の最後の言葉だった。
それ以降「エルドゥ王国の優しい第二王子」として30年、語り継がれている。
未亡人となったビアンカ妃殿下は、それ以来、魔法師団の団員ととっかえひっかえ付き合い自由を謳歌しているのをフェリクスは知っていたが、特に公務や魔法師団の仕事に影響が出ているわけではないので、黙認していた。
「ミラン……あいつは、いい奴だった……」
「陛下、お亡くなりになったのはミラン殿下じゃなくて、ユリアン殿下ですってば」
フェリクスがまたもや名前を間違えるリステアードにツッコミを入れたとき、どこからともなく、どしん、どしんという地響きのような音と振動が伝わって来た。
このゾウが闊歩しているかのような振動は……!
フェリクスははっとして、今リステアードが降りてきた階段を見上げた。振動の発生源は、階段の踊り場にいた。
「フェリシア~、おかえり~」
階段の踊り場から、巨大な風船が顔を出した。いや、風船ではない。甘いものの食べ過ぎで、風船のように太った第三王子……現在は王弟となった、ミランだった。フェリクスは下に降りてこようとするミランを慌てて制止する。
「ミラン殿下、それ以上動かないで。床が抜けてしまいます」
それを聞いたミランはふくれっ面をした……つもりだろうけど、はた目にはよく分からなかった。なにせ顔がぱんぱんなのだ。顔だけではなく、突き出たお腹、二の腕、太もももぱんぱんだ。まさに風船だ。
「私が魔法で降ろして差し上げます。階段を転げ落ちたら大変ですよ」
フェリクスは御年58歳の愛しい恋人を見上げて、子供をあやすように微笑んだ。
ミランは独身のまま、今でも魔法師団のマネージャーだ。この40年間、フェリクスを一番近くでずっと支え続けてきてくれた。
結局正式に結婚することはなかった二人だが、二人の愛し合う気持ちは40年間、変わらない。何も知らない国民からは「ミラン殿下とフェリクス団長はもしかしたら、そういう関係なのではないか」と噂されるまでになってしまった。
フェリクスは魔法でミランを何とか浮かせると、自分の正面に運んで降ろした。ミランはものすごく重いので、かなりの魔力と集中力を必要とする。フェリクスは魔力切れでふらりとよろめいた。
「フェリシア!」
ミランが丸太のような腕でフェリクスをがっちりと受け止めた。
「いやあ、マルガレーテ君も歳だなあ。すぐ魔力切れを起こす」
それを見たリステアードがふぉっふぉっふぉっと笑った。
「兄貴、マルガレーテじゃなくてフェリシアだよ、フェ・リ・シ・ア。ったく、まだ66歳なのに、呆けちゃって」
国王に文句を言うミランを、フェリクスは優しく咎めた。
「エルドゥ王国が平和だからですよ。平和はいいことです。それに、王妃陛下がしっかりされているから、大丈夫で……す」
「フェリシア! どうしたの? しっかりするんだ」
フェリクスは自分の体から魔力が抜けていくのを感じた。……ああ、私はもうだめかもしれない。
「リステアード国王陛下」
フェリクスはエルドゥ王国国王に向かって敬礼した。もし国王がよろけて階段を転げ落ちてきても、受け止められるポジションをキープしながら。
リステアードは今から二十年前、父親のあとを継ぎ、エルドゥ王国国王となった。彼が国王になったあとも、エルドゥ王国はもとより、世界的にも平和が続いた。
リステアードは26歳のころと変わらない、サラサラの黒髪をしていた。多分魔法でその髪型を維持しているんだろうとみんな察していたが、思いやりで、誰も口には出さなかった。
リステアードはその黒髪をさっとかき上げながら言った。かき上げながらよろけた。
「40年もエルドゥ王国のためにありがとう。君のおかげで国が活気づくよ、ビアンカ君」
「リステアード陛下、私はフェリクス・ブライトナー、本名フェリシア・ローデンバルトです。ビアンカ様はユリアン殿下の奥様ではないですか」
フェリクスはよぼよぼしているリステアードに向かって、冷静に訂正した。
リステアードはそれを聞くと、杖で自分の体を支えながら「ああ……」と遠い目をした。どこを見ているんだろう、とフェリクスは思った。
「ユリアン……あいつは、いい奴だった……」
「左様でございます。ユリアン殿下ほど、優しい方はおりません」
フェリクスはリステアードに調子を合わせた。
エルドゥ王国第二王子ユリアンは、30年前のある日、王宮の廊下で滑って転倒し、頭を打って亡くなった。
「清掃係を責めるな……床がピカピカな証拠じゃないか……滑った俺が間抜けなだけさ」が彼の最後の言葉だった。
それ以降「エルドゥ王国の優しい第二王子」として30年、語り継がれている。
未亡人となったビアンカ妃殿下は、それ以来、魔法師団の団員ととっかえひっかえ付き合い自由を謳歌しているのをフェリクスは知っていたが、特に公務や魔法師団の仕事に影響が出ているわけではないので、黙認していた。
「ミラン……あいつは、いい奴だった……」
「陛下、お亡くなりになったのはミラン殿下じゃなくて、ユリアン殿下ですってば」
フェリクスがまたもや名前を間違えるリステアードにツッコミを入れたとき、どこからともなく、どしん、どしんという地響きのような音と振動が伝わって来た。
このゾウが闊歩しているかのような振動は……!
フェリクスははっとして、今リステアードが降りてきた階段を見上げた。振動の発生源は、階段の踊り場にいた。
「フェリシア~、おかえり~」
階段の踊り場から、巨大な風船が顔を出した。いや、風船ではない。甘いものの食べ過ぎで、風船のように太った第三王子……現在は王弟となった、ミランだった。フェリクスは下に降りてこようとするミランを慌てて制止する。
「ミラン殿下、それ以上動かないで。床が抜けてしまいます」
それを聞いたミランはふくれっ面をした……つもりだろうけど、はた目にはよく分からなかった。なにせ顔がぱんぱんなのだ。顔だけではなく、突き出たお腹、二の腕、太もももぱんぱんだ。まさに風船だ。
「私が魔法で降ろして差し上げます。階段を転げ落ちたら大変ですよ」
フェリクスは御年58歳の愛しい恋人を見上げて、子供をあやすように微笑んだ。
ミランは独身のまま、今でも魔法師団のマネージャーだ。この40年間、フェリクスを一番近くでずっと支え続けてきてくれた。
結局正式に結婚することはなかった二人だが、二人の愛し合う気持ちは40年間、変わらない。何も知らない国民からは「ミラン殿下とフェリクス団長はもしかしたら、そういう関係なのではないか」と噂されるまでになってしまった。
フェリクスは魔法でミランを何とか浮かせると、自分の正面に運んで降ろした。ミランはものすごく重いので、かなりの魔力と集中力を必要とする。フェリクスは魔力切れでふらりとよろめいた。
「フェリシア!」
ミランが丸太のような腕でフェリクスをがっちりと受け止めた。
「いやあ、マルガレーテ君も歳だなあ。すぐ魔力切れを起こす」
それを見たリステアードがふぉっふぉっふぉっと笑った。
「兄貴、マルガレーテじゃなくてフェリシアだよ、フェ・リ・シ・ア。ったく、まだ66歳なのに、呆けちゃって」
国王に文句を言うミランを、フェリクスは優しく咎めた。
「エルドゥ王国が平和だからですよ。平和はいいことです。それに、王妃陛下がしっかりされているから、大丈夫で……す」
「フェリシア! どうしたの? しっかりするんだ」
フェリクスは自分の体から魔力が抜けていくのを感じた。……ああ、私はもうだめかもしれない。
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