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団長就任式の思い出
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「そういえば、この団長室には、魔法スクリーンがないんだね」
夕方、いつものように魔法師団団長室でくつろいでいたミランが言った。
魔法スクリーンとは、魔力により各地域で配信されている映像を受信するもののことである(テレビだと思って下さい)。
王宮にも王宮内の行事等を配信するシステムがある。
「私の私室にはありますよ。他の団員の部屋にもあります」
フェリシアは私室の方を見やりながら言った。
「えっ。そうだった? 気がつかなかった。君の私室ではいつもいちゃいちゃしてたからかな」
ミランはグラス片手にへらへらしながら言った。
完全に酔っぱらっている。
「ミラン殿下、今日はそろそろ自室に戻られたほうが良いのではないですか」
フェリシアは努めて冷静に言った。
「僕はまだ全然飲めるよ。いいじゃないか、今日くらい。ああ、本当、君に見せたいくらいだったよ、僕の雄姿を」
ミランは今日上機嫌で団長室を訪れた。
フェリシアはミランの得意げな顔を見てすぐに「何かいいことがあったな」と察し、
「何かいいことがあったんですか、殿下」
とミランに聞いた。
聞いてしまったのがそもそも間違いだった。
ミランはよくぞ聞いてくれた、とばかりに胸を反らし、マネージャーの仕事そっちのけで、貴族学校での出来事を話し出した。
話を要約すると「貴族学校の剣術の試合で目の敵にいていた奴に勝った」ということらしいが、ミランは要約せずに、試合の流れを細部にわたって詳細に語った。
なのでかなりの時間を要した。
なんとなく酒を出す雰囲気になり、フェリシアはミランに酒を出してしまった。
また長い長い話がはじまり、あまり飲めないのにミランは酒を飲み続け、今に至る、というわけだった。
しかもその話がもう八回目である。
まだ十九歳なのに、そんなに同じ話ばかり繰り返して大丈夫? とフェリシアは、目の前の恋人に対して不安になる。
何度も何度もそれとなく自室に戻るよう勧めたが、無理のようだ。
今九回目の話が始まろうとしている。
フェリシアはそれを阻止するために、魔法スクリーンの話に飛びついた。この機を逃すわけにはいかない。
「そうだ、私室の魔法スクリーンで、就任式の記録映像を一緒に観ませんか? 実は私、まだ一度も観ていないんです」
「ああ、去年、君が魔法師団団長として、王家に認められたときの?」
「そうです。懐かしいじゃないですか。あのとき、ミラン殿下が助けてくれて、私は……」
フェリシアは意図的に熱いまなざしをミランに向けた。すると酔っ払い王子は、
「君の頼みじゃしょうがないなあ。試合の話はまた今度にしよう」
と酒を放り出して、フェリシアの提案に飛びついた。
「フェリシア、君は普段、魔法スクリーンをあまり見ないの?」
「ほとんど観ません。実家の魔法スクリーンも壊れてましたから」
フェリシアは貴族でも貧乏貴族である。父親が叩いて魔法スクリーンを直そうとしていたが、叩きまくって本格的に壊れてしまった。
今はフェリシアの仕送りで、新しい魔法スクリーンを購入したと、魔法通話で母親が言っていた。これでいつも娘が魔法師団として活躍する姿を観ていると。
フェリシアは私室の魔法スクリーンに就任式の映像を記録したディスクをセットした(DVDみたいなものだと思って下さい)。リステアードが一年前、魔道具として考案して、作ったのだ。
映像を再生する。
ミランは酔いが回って眠ってしまうだろうとフェリシアは思っていたが、思いのほか、ミランはまともな顔をしていた。フェリシアの横に座り、映像が再生されるのを待っていた。
「実は、僕もこの記録映像はまだ観ていないんだよ。国民にはかなり売れたらしいけど」
「魔物が暴れたアクシデントが結果的にとてもうけたと、リステアード王太子が仰っていました」
「君は大変だったよね。魔物に捕まっちゃって。あのころは、僕は君をまだ男だとばかり思っていた」
「そうでしたね」
そう言ってから、フェリシアはちょっと焦った。
この記録映像には当時婚約者だったマルガレーテ令嬢も映っているのだ。
しまった。九回目の長話を阻止するのに必死で、そこまで気が回らなかった。
だけどもう、婚約解消をしてからずいぶん経っているし。
今は、私がミラン殿下の恋人なのだし。
そう思ってちらりとフェリシアはミランの顔を窺った。
夕方、いつものように魔法師団団長室でくつろいでいたミランが言った。
魔法スクリーンとは、魔力により各地域で配信されている映像を受信するもののことである(テレビだと思って下さい)。
王宮にも王宮内の行事等を配信するシステムがある。
「私の私室にはありますよ。他の団員の部屋にもあります」
フェリシアは私室の方を見やりながら言った。
「えっ。そうだった? 気がつかなかった。君の私室ではいつもいちゃいちゃしてたからかな」
ミランはグラス片手にへらへらしながら言った。
完全に酔っぱらっている。
「ミラン殿下、今日はそろそろ自室に戻られたほうが良いのではないですか」
フェリシアは努めて冷静に言った。
「僕はまだ全然飲めるよ。いいじゃないか、今日くらい。ああ、本当、君に見せたいくらいだったよ、僕の雄姿を」
ミランは今日上機嫌で団長室を訪れた。
フェリシアはミランの得意げな顔を見てすぐに「何かいいことがあったな」と察し、
「何かいいことがあったんですか、殿下」
とミランに聞いた。
聞いてしまったのがそもそも間違いだった。
ミランはよくぞ聞いてくれた、とばかりに胸を反らし、マネージャーの仕事そっちのけで、貴族学校での出来事を話し出した。
話を要約すると「貴族学校の剣術の試合で目の敵にいていた奴に勝った」ということらしいが、ミランは要約せずに、試合の流れを細部にわたって詳細に語った。
なのでかなりの時間を要した。
なんとなく酒を出す雰囲気になり、フェリシアはミランに酒を出してしまった。
また長い長い話がはじまり、あまり飲めないのにミランは酒を飲み続け、今に至る、というわけだった。
しかもその話がもう八回目である。
まだ十九歳なのに、そんなに同じ話ばかり繰り返して大丈夫? とフェリシアは、目の前の恋人に対して不安になる。
何度も何度もそれとなく自室に戻るよう勧めたが、無理のようだ。
今九回目の話が始まろうとしている。
フェリシアはそれを阻止するために、魔法スクリーンの話に飛びついた。この機を逃すわけにはいかない。
「そうだ、私室の魔法スクリーンで、就任式の記録映像を一緒に観ませんか? 実は私、まだ一度も観ていないんです」
「ああ、去年、君が魔法師団団長として、王家に認められたときの?」
「そうです。懐かしいじゃないですか。あのとき、ミラン殿下が助けてくれて、私は……」
フェリシアは意図的に熱いまなざしをミランに向けた。すると酔っ払い王子は、
「君の頼みじゃしょうがないなあ。試合の話はまた今度にしよう」
と酒を放り出して、フェリシアの提案に飛びついた。
「フェリシア、君は普段、魔法スクリーンをあまり見ないの?」
「ほとんど観ません。実家の魔法スクリーンも壊れてましたから」
フェリシアは貴族でも貧乏貴族である。父親が叩いて魔法スクリーンを直そうとしていたが、叩きまくって本格的に壊れてしまった。
今はフェリシアの仕送りで、新しい魔法スクリーンを購入したと、魔法通話で母親が言っていた。これでいつも娘が魔法師団として活躍する姿を観ていると。
フェリシアは私室の魔法スクリーンに就任式の映像を記録したディスクをセットした(DVDみたいなものだと思って下さい)。リステアードが一年前、魔道具として考案して、作ったのだ。
映像を再生する。
ミランは酔いが回って眠ってしまうだろうとフェリシアは思っていたが、思いのほか、ミランはまともな顔をしていた。フェリシアの横に座り、映像が再生されるのを待っていた。
「実は、僕もこの記録映像はまだ観ていないんだよ。国民にはかなり売れたらしいけど」
「魔物が暴れたアクシデントが結果的にとてもうけたと、リステアード王太子が仰っていました」
「君は大変だったよね。魔物に捕まっちゃって。あのころは、僕は君をまだ男だとばかり思っていた」
「そうでしたね」
そう言ってから、フェリシアはちょっと焦った。
この記録映像には当時婚約者だったマルガレーテ令嬢も映っているのだ。
しまった。九回目の長話を阻止するのに必死で、そこまで気が回らなかった。
だけどもう、婚約解消をしてからずいぶん経っているし。
今は、私がミラン殿下の恋人なのだし。
そう思ってちらりとフェリシアはミランの顔を窺った。
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