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「僕が……いや、私が、先月成人し、国の決まりに則り、婚約者を発表したことは知っているね? 君もたしか成人の儀には参加していたはずだ」
「ええ」
フェリクスは首肯した。
エルドゥ王国では十八歳をもって成人とし、特に王族は国民に婚約者を成人の儀と同時に発表するのが習わしとなっている。絶対に発表しなければならないということではなく、第一王子……現王太子の成人の儀のときには、発表はされなかった。
初々しく並ぶミラン殿下とその婚約者……たしか、マルガレーテ令嬢だったか、のため、魔法で大量に出した花を二人のまわりに延々と飛ばし続けなければならず、魔法師団とはなんなのだろうと改めて考えさせられる時間だった……。
などど心の中で自嘲していると、ミランが俯き加減で、ぼそりと言った。
「実は、私の婚約者であるマルガレーテが、婚約者なのに、私にそっけないんだ……」
「はあ」
「会話していても遠慮がちで、儀礼的というか、兄上のようにいかない」
兄上、というのは第二王子ユリアン殿下のことだな、とフェリクスは思った。ユリアン殿下と婚約者の相思相愛っぷりは王宮内にとどまらず、国民の間でも有名だ。
「私には、とてもお似合いのお二人に見えましたよ。マルガレーテ様は恥ずかしがっておられるのでは?」
フェリクスは当り障りのないことを言った。ミランは首を振った。
「どうもそういう感じじゃない。私はマルガレーテのことをこんなに愛しているのに」
フェリクスはちょっと引っかかった。
「お二人は同じ貴族学校に今も通われていますよね? そこでお知り合いになってお付き合いされていたのではないのですか」
「いや、付き合っていない。私が一方的に父上に頼んで婚約者にしてもらった」
「えっ」
「マルガレーテの方に相手はいないようだし、私との結婚は悪い話ではないはずだ。なのに、マルガレーテは私に冷たいんだ。だから、魔法師団団長の君に、惚れ薬を作ってもらいたいんだ」
自己中王子め。
フェリクスは心の中で毒づいた。そしてすっかりこの王子のことを蔑んでいた。
マルガレーテ嬢はミラン殿下に好意をもっていないのだ。王命だから、仕方なく従っただけなのだ。王子に見染められ、学校内でにっちもさっちもいかなくなったのかもしれない。
この王子は、これも貴族の務めと割り切ったマルガレーテ嬢に対して、惚れ薬を使おうとしている。
自分を好いてもらいたいなら、自分で努力しろ、軟弱者め――!
――と一喝してやりたいところだが、相手はこの国の王子だ。どんなに婦女子に人気があっても、フェリクスはしがない雇われ魔法師団団長。そんなことはできない。
かといって、わけの分からない薬づくりをさせられて、面倒ごとに巻き込まれたくない……じゃなかった、そんなことは魔法師団団長のプライドが許さない!
どうやって穏便に断ろうかと思案していると、ミランがふいにフェリクスに顔を近づけた。
「ええ」
フェリクスは首肯した。
エルドゥ王国では十八歳をもって成人とし、特に王族は国民に婚約者を成人の儀と同時に発表するのが習わしとなっている。絶対に発表しなければならないということではなく、第一王子……現王太子の成人の儀のときには、発表はされなかった。
初々しく並ぶミラン殿下とその婚約者……たしか、マルガレーテ令嬢だったか、のため、魔法で大量に出した花を二人のまわりに延々と飛ばし続けなければならず、魔法師団とはなんなのだろうと改めて考えさせられる時間だった……。
などど心の中で自嘲していると、ミランが俯き加減で、ぼそりと言った。
「実は、私の婚約者であるマルガレーテが、婚約者なのに、私にそっけないんだ……」
「はあ」
「会話していても遠慮がちで、儀礼的というか、兄上のようにいかない」
兄上、というのは第二王子ユリアン殿下のことだな、とフェリクスは思った。ユリアン殿下と婚約者の相思相愛っぷりは王宮内にとどまらず、国民の間でも有名だ。
「私には、とてもお似合いのお二人に見えましたよ。マルガレーテ様は恥ずかしがっておられるのでは?」
フェリクスは当り障りのないことを言った。ミランは首を振った。
「どうもそういう感じじゃない。私はマルガレーテのことをこんなに愛しているのに」
フェリクスはちょっと引っかかった。
「お二人は同じ貴族学校に今も通われていますよね? そこでお知り合いになってお付き合いされていたのではないのですか」
「いや、付き合っていない。私が一方的に父上に頼んで婚約者にしてもらった」
「えっ」
「マルガレーテの方に相手はいないようだし、私との結婚は悪い話ではないはずだ。なのに、マルガレーテは私に冷たいんだ。だから、魔法師団団長の君に、惚れ薬を作ってもらいたいんだ」
自己中王子め。
フェリクスは心の中で毒づいた。そしてすっかりこの王子のことを蔑んでいた。
マルガレーテ嬢はミラン殿下に好意をもっていないのだ。王命だから、仕方なく従っただけなのだ。王子に見染められ、学校内でにっちもさっちもいかなくなったのかもしれない。
この王子は、これも貴族の務めと割り切ったマルガレーテ嬢に対して、惚れ薬を使おうとしている。
自分を好いてもらいたいなら、自分で努力しろ、軟弱者め――!
――と一喝してやりたいところだが、相手はこの国の王子だ。どんなに婦女子に人気があっても、フェリクスはしがない雇われ魔法師団団長。そんなことはできない。
かといって、わけの分からない薬づくりをさせられて、面倒ごとに巻き込まれたくない……じゃなかった、そんなことは魔法師団団長のプライドが許さない!
どうやって穏便に断ろうかと思案していると、ミランがふいにフェリクスに顔を近づけた。
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