男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 ミランの切れ長ではしばみ色の目に見つめられ、フェリクスはほんの少しだけたじろいだ。
 顔立ちだけは無駄に端正な第三王子だ。そして、形のいい唇が、こう告げた。

「魔法師団に当てられる予算を私的に使い込んだだろう?」

「!」

 顔には出さないが、フェリクスの心臓は跳ね上がった。なぜそれを知っているのか。

「魔法師団がだらけたアイドル師団になっているのは、仕方ないとして、そんなことがバレたら、君は失職するんじゃないのか? 金を管理しているのは君だろう」

「失礼ながらミラン殿下、何を根拠にそのようなことを」

 冷静な口調で返したフェリクスだが、内心冷や汗をかいていた。
 ミランの言ったことは当たっており、最近、魔法師団に割り当てられた資金がごそっとなくなったのだ。団員の一人が博打に使ったらしい。どう誤魔化そうかと悩んでいる最中だった。

「その金を使い込んだ団員が、私の同級生の兄なんだ。私に何とか誤魔化せないかと相談してきた。国の金のことを私にどうにかできるわけない、と断ったが、まさか、こんなところで使えるとはね」

 ミランは幼い顔に似合わない「悪い顔」を作って見せた。フェリクスは合理的な頭で考えた。
 ここは、王子につき合ってやった方がいいか。

「惚れ薬を作ったら、使い込みの件は黙ってていただけるんですね?」

「もちろんだ。王家に誓おう。こっちも婚約者に惚れ薬を飲ませたなんてことがばれたら具合が悪いしな。交換条件だ」

 それを聞いたフェリクスは、心の中で四回目のため息をつきつつ、目の前の王子をキリリとした表情で見据えた。

「分かりました。その本のとおりに、惚れ薬をお作りします」

「恩に着る! ありがとう!!」

「!」

 ミランはフェリクスが了承した途端、飛びつくように抱きついてきた。あまりに突然のことで、フェリクスは彼を受け止めながら壁に頭をぶつけた。

「あ、ごめん」

 フェリクスが固まっているのに気がついて、ミランはさっと体を放した。

「フェリクス殿、君はいい匂いがするな。何の香水を使っているんだ?」

 さっきまでの王子然とした態度が一変、無邪気な表情だった。

 やっぱりミラン殿下はお気づきになっていないんだな。
 私が女だということに。

 フェリクスは自分がある事情により男装しているということを、ミランに打ち明けるべきか迷っていたが、わざわざ言うこともないだろう、という結論に至った。
 この無邪気な王子は私の性別など気にしていないだろうし、惚れ薬作りを一緒に行うなら、男同士だと思ってくれた方が気楽だ、と考えたためだった。
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