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「ま、まずい、兄貴だ。くそっ。もうばれたのか。フェリクス殿、僕は奥に隠れる。何とか誤魔化してくれ」
ミランは小声でフェリクスに耳打ちし、愛のポエム集を懐に入れた。
「えっ。ちょっと、ミラン殿下、誤魔化すって」
「今、僕の手伝いを最後まですると言ったじゃないか。頼むぞ、フェリクス殿」
そう言うと、風のように素早く部屋の奥のカーテンの後ろに隠れてしまった。
さっきまでのシリアスな展開はなんだったんだ。そう思ったフェリクスだが、こうなったら仕方ない。
腹を括って、ドアを開けた。
そこには思った通り、長身で短髪の男性、ユリアンが一人で立っていた。だがミランの盗みに気がついて、フェリクスに彼の所在を聞きに来たにしては穏やかな顔つきである。
いや、穏やかというより、喜色満面にあふれている。
……?
不思議に思ったが、フェリクスは彼を部屋に入れないために、とりあえずこう言った。
「お待たせして申し訳ありません、ユリアン殿下。今午後の撮影の衣装を試着していたところだから、部屋が散らかっていて」
我ながらうまい嘘だと思った。案の定、フェリクスを女だと知っているユリアンは、
「む、そ、そうか。それは間が悪かったな。ごめんごめん。だけど着替えるときは部屋に鍵くらい掛けたほうがいいぞ」
と、ちょっとあたふたし、その隙にフェリクスが部屋から廊下に出て、部屋のドアをさっと閉めたことを何とも言わなかった。
「どうかしたの、ユリアン」
フェリクスが同窓時代の口調で尋ねると、ユリアンは目尻を下げ、だらしない顔つきになって、こう叫んだ。
「フェリシア、ありがとう! お前の助言のおかげだ。ビアンカの様子がおかしかったのは、俺の誕生日ドッキリサプライズを悟られないようにするためだったみたいだ! せっかく貴方を驚かせようと色々用意してたのに……ってむくれる彼女の可愛さったらないぜ!」
は?
なんと?
「しかも、近日中に王太子の婚約者が決まるそうなんだ。そうしたら、俺達の結婚ももうすぐかもしれない。あ、この話はトップシークレットだからな? いやあ、ビアンカに思い切って聞いてみてよかった。全部俺の杞憂だったわけだ、ははは、本当にありがとう、フェリシア!」
「……用件はそれだけですか」
フェリクスはすっかり脱力し、溶けたバターみたいにふやけた顔のユリアンを見上げた。
「ああ、そうだ。お前にちゃんと礼を言いたくてな。実は今からビアンカとお忍びデートなんだ、土産なにがいい?」
この男は、ミラン殿下を探していたんじゃないのか? いや、どう見ても、ビアンカ嬢のことで頭がいっぱいで、ポエム集がなくなったことなんて、一ミリも気がついてなさそうだ。
そうと分かれば退散退散……。
「それは良かったね、ユリアン。ビアンカ様と、どうかお幸せに」
フェリクスは当たり障りのないことを言って、部屋に戻ろうとした。そのとき。
どさっ。
懐に入れていた「惚れ薬の作り方」の書物が、床に落ちた。
ミランは小声でフェリクスに耳打ちし、愛のポエム集を懐に入れた。
「えっ。ちょっと、ミラン殿下、誤魔化すって」
「今、僕の手伝いを最後まですると言ったじゃないか。頼むぞ、フェリクス殿」
そう言うと、風のように素早く部屋の奥のカーテンの後ろに隠れてしまった。
さっきまでのシリアスな展開はなんだったんだ。そう思ったフェリクスだが、こうなったら仕方ない。
腹を括って、ドアを開けた。
そこには思った通り、長身で短髪の男性、ユリアンが一人で立っていた。だがミランの盗みに気がついて、フェリクスに彼の所在を聞きに来たにしては穏やかな顔つきである。
いや、穏やかというより、喜色満面にあふれている。
……?
不思議に思ったが、フェリクスは彼を部屋に入れないために、とりあえずこう言った。
「お待たせして申し訳ありません、ユリアン殿下。今午後の撮影の衣装を試着していたところだから、部屋が散らかっていて」
我ながらうまい嘘だと思った。案の定、フェリクスを女だと知っているユリアンは、
「む、そ、そうか。それは間が悪かったな。ごめんごめん。だけど着替えるときは部屋に鍵くらい掛けたほうがいいぞ」
と、ちょっとあたふたし、その隙にフェリクスが部屋から廊下に出て、部屋のドアをさっと閉めたことを何とも言わなかった。
「どうかしたの、ユリアン」
フェリクスが同窓時代の口調で尋ねると、ユリアンは目尻を下げ、だらしない顔つきになって、こう叫んだ。
「フェリシア、ありがとう! お前の助言のおかげだ。ビアンカの様子がおかしかったのは、俺の誕生日ドッキリサプライズを悟られないようにするためだったみたいだ! せっかく貴方を驚かせようと色々用意してたのに……ってむくれる彼女の可愛さったらないぜ!」
は?
なんと?
「しかも、近日中に王太子の婚約者が決まるそうなんだ。そうしたら、俺達の結婚ももうすぐかもしれない。あ、この話はトップシークレットだからな? いやあ、ビアンカに思い切って聞いてみてよかった。全部俺の杞憂だったわけだ、ははは、本当にありがとう、フェリシア!」
「……用件はそれだけですか」
フェリクスはすっかり脱力し、溶けたバターみたいにふやけた顔のユリアンを見上げた。
「ああ、そうだ。お前にちゃんと礼を言いたくてな。実は今からビアンカとお忍びデートなんだ、土産なにがいい?」
この男は、ミラン殿下を探していたんじゃないのか? いや、どう見ても、ビアンカ嬢のことで頭がいっぱいで、ポエム集がなくなったことなんて、一ミリも気がついてなさそうだ。
そうと分かれば退散退散……。
「それは良かったね、ユリアン。ビアンカ様と、どうかお幸せに」
フェリクスは当たり障りのないことを言って、部屋に戻ろうとした。そのとき。
どさっ。
懐に入れていた「惚れ薬の作り方」の書物が、床に落ちた。
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