16 / 94
16
しおりを挟む
――カメラのフラッシュが眩しい。
そう思っても、フェリクスは顔をしかめたり、背けたりせずに、カメラの方を向いていた。
ちなみにカメラとは、レンズで捉えた被写体をそっくりそのまま写真という静止画にする、魔道具である。
魔道具というのは魔力をエネルギーにして動く道具のことだ。エルドゥ王国だけでなく、この世界中に存在している。
魔力はエネルギー源として、魔道具以外にも、この世界ではさまざまなことに活用されている。多くの人間は体内に魔力をほとんど持たないが、少数の人間は体内に魔力を持ち、様々な魔法を使える資質を持つ。
その中でも高い魔力を持つエリート集団が「魔法師団」なのだ。
エルドゥ王国に忠誠を誓い、いざというときには命をかけて、国のために戦い、国民を守る、屈強な男達で構成された誇り高き一団――。
のはずが――。
「フェリクス様ー、こっち向いてー!!」
フェリクスは声の方に向かって、軽く手を振った。途端にその方向から歓喜の悲鳴が上がる。
午後のフェリクスの仕事。それは、他の団員達と、王宮が発行する女性向け月刊誌「魔法師団通信」の写真撮影をすることだった。
王宮の中庭でその撮影は行われている。厳正な抽選のもと選ばれた、貴族女性のファンたちが、まわりをぐるりと取り囲み、それぞれが推しの団員に、黄色い声を投げかける。
去年、男装して魔法師団入りしたときは、魔法師団のアイドル化した実態に驚かされたものだが、もう慣れた。
それはフェリクスだけじゃない、みんなそうなのだ。新入団員は、その実態に、みんな染まっていく。
学生だった頃、フェリクスは魔法師団の存在は知っていたものの、興味がなかったので、当時魔法師団団長だった今の王太子が女性たちにもてはやされてモテまくっていたのも知らなかった。
まさか今自分がその「魔法師団団長」のポストにいるとは。
「フェリクス君、もっと自然に笑ってー。表紙なんだからー」
カメラを向ける男性が、気さくな声で言った。フェリクスは言われたとおり、口の端を上げた。
「フェリクス君、それじゃガン飛ばしてるよー。もっと優し気に」
「うう……やってるんですけど」
団長であるフェリクスは、これでちゃんと戦えるのかと思えるほど耽美的でフリルだらけな制服に、長ったらしいマントを付け、片膝ついてポーズを取らされていた。
「団長、スマイルスマイルー」
「日が暮れちゃいますよー」
フェリクスのまわりを囲むようにして、同じくポーズを決める他の団員が、いつものことだと口々にからかう。
アイドル活動には慣れたが、笑顔だけはフェリクスは苦手だった。自然に笑おうとすればするほど、妖怪じみた顔になる。
「キャーフェリクス様が困ってるー」
「フェリクス様は、クールだものねえ」
「助けて差し上げたいわー」
だったら助けてよ、とフェリクスは写真撮影会場を取り囲むファンの女性たちの方を見た。すると、ずっと向こうに、つい三時間ほど前まで見てた顔があった。
あ、あれは……ミラン殿下?
そう思っても、フェリクスは顔をしかめたり、背けたりせずに、カメラの方を向いていた。
ちなみにカメラとは、レンズで捉えた被写体をそっくりそのまま写真という静止画にする、魔道具である。
魔道具というのは魔力をエネルギーにして動く道具のことだ。エルドゥ王国だけでなく、この世界中に存在している。
魔力はエネルギー源として、魔道具以外にも、この世界ではさまざまなことに活用されている。多くの人間は体内に魔力をほとんど持たないが、少数の人間は体内に魔力を持ち、様々な魔法を使える資質を持つ。
その中でも高い魔力を持つエリート集団が「魔法師団」なのだ。
エルドゥ王国に忠誠を誓い、いざというときには命をかけて、国のために戦い、国民を守る、屈強な男達で構成された誇り高き一団――。
のはずが――。
「フェリクス様ー、こっち向いてー!!」
フェリクスは声の方に向かって、軽く手を振った。途端にその方向から歓喜の悲鳴が上がる。
午後のフェリクスの仕事。それは、他の団員達と、王宮が発行する女性向け月刊誌「魔法師団通信」の写真撮影をすることだった。
王宮の中庭でその撮影は行われている。厳正な抽選のもと選ばれた、貴族女性のファンたちが、まわりをぐるりと取り囲み、それぞれが推しの団員に、黄色い声を投げかける。
去年、男装して魔法師団入りしたときは、魔法師団のアイドル化した実態に驚かされたものだが、もう慣れた。
それはフェリクスだけじゃない、みんなそうなのだ。新入団員は、その実態に、みんな染まっていく。
学生だった頃、フェリクスは魔法師団の存在は知っていたものの、興味がなかったので、当時魔法師団団長だった今の王太子が女性たちにもてはやされてモテまくっていたのも知らなかった。
まさか今自分がその「魔法師団団長」のポストにいるとは。
「フェリクス君、もっと自然に笑ってー。表紙なんだからー」
カメラを向ける男性が、気さくな声で言った。フェリクスは言われたとおり、口の端を上げた。
「フェリクス君、それじゃガン飛ばしてるよー。もっと優し気に」
「うう……やってるんですけど」
団長であるフェリクスは、これでちゃんと戦えるのかと思えるほど耽美的でフリルだらけな制服に、長ったらしいマントを付け、片膝ついてポーズを取らされていた。
「団長、スマイルスマイルー」
「日が暮れちゃいますよー」
フェリクスのまわりを囲むようにして、同じくポーズを決める他の団員が、いつものことだと口々にからかう。
アイドル活動には慣れたが、笑顔だけはフェリクスは苦手だった。自然に笑おうとすればするほど、妖怪じみた顔になる。
「キャーフェリクス様が困ってるー」
「フェリクス様は、クールだものねえ」
「助けて差し上げたいわー」
だったら助けてよ、とフェリクスは写真撮影会場を取り囲むファンの女性たちの方を見た。すると、ずっと向こうに、つい三時間ほど前まで見てた顔があった。
あ、あれは……ミラン殿下?
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる