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 どうして殿下がここにいるんだろうと思っていると、突然、ミランが群がる女性の隙間から、フェリクスに向けて、変な踊りを踊り始めた。
 なんとか顔を出そうとぴょこぴょこジャンプしながら、両腕をクロスさせ、髪を持ち上げたりをくり返している。

「ふっ……あはははは……」

 フェリクスはこらえきれずに、笑い出した。変な踊り……! 何やってるの、殿下は!

「おっ。フェリクス君、いいねーその笑顔! やればできるじゃないか! よーし、そのまま、もう一枚いくよー」

「きゃあああ、フェリクス様が声を立てて笑ってるわー」

「可愛いー」

 ミランは途中で貴族女性に存在を気づかれ、慌てていなくなったが、フェリクスはミランの踊りを思い出すと簡単に笑うことができるようになった。
 ――撮影は滞りなく、順調に終わった。
 そのあとインタビューや貴族女性との写真撮影などがあり、すっかり遅くなってから、フェリクスは魔法師団団長室に戻った。
 ドアのノブに、ユリアンの土産と思われる「城下まんじゅう」が掛けられていた。

 次の日。

「おはよう、フェリクス殿!」

 もしかしたらそろそろ来るかも、と思っていたらやっぱり来た。
 フェリクスは金色の長髪をリボンで束ね、きっちりと着こなした魔法師団の制服で、ノックもせずに部屋に入ってきた第三王子を迎えた。

「おはようございます、ミラン王子殿下。あの、ノックして下さいよ、お願いですから」

「君の部屋に連日通っているのがバレると不思議がられるだろう? 今までろくに接点がなかったのに。だから僕は人目がないときを見計らって、さっと入って来てるんだ。悠長にノックしていられない」

 なんだろう、その理屈は。フェリクスは首を傾げざるをえない。
 ミランはそんなフェリクスの思いをよそに、改まった態度で、

「フェリクス殿、昨日は遅くまでご苦労だった。疲れただろう。いつも国のために尽くしてくれて、感謝する。ありがとう」

 と、微笑んだ。
 やっぱり無駄に整ってるなあ、とフェリクスはミランの顔を見て、感心する。マルガレーテ嬢に対して「自分との結婚は悪い話ではないはずだ」と自信過剰になるのもちょっと納得できてしまう。

「いえ、私の方こそ、昨日は助かりました。どうしても笑顔が作れずに、困っていたんです。だけどミラン殿下が踊りで笑わせてくれたから、無事、写真撮影を終えられました。どうもありがとうござ……」

「違ーう! 踊りじゃなーい!」

「え?」

 ミランは改まった態度が一変、顔を真っ赤にして、抗議した。

「あれは、ジェスチャーだ! 僕は『ダメだった』『若い女の金の髪は手に入らなかった』と、遠くから君に伝えたんだ!」

「ええ……?」

「それなのに君ときたら突然笑い出して、なんだ!」
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