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朝の訓練を終え、ミランと別れて、フェリクスははっとした。
「しまった……!」
今日は朝から昼にかけて、王城で要人の警護という仕事があったことを、すっかり忘れていた。
フェリクスは魔法師団団長室に戻ると、手早くシャワーを浴び、新しい制服に着替えてすぐに王城へ向かった。
フェリクス達魔法師団は普段王宮内で生活しているが、王城へは、ミランの成人の儀のように、特別な用事がなければ入らない。今回は城内に隣国の重要人物が招かれるので、その護衛を魔法師団が任されていた。
指揮をとらなきゃいけない私が遅刻してしまうなんて……。
王城に入ると、すでに要人は到着しており、各々団員が配置についていた。
廊下で待機していた団員の一人が、フェリクスに気がついてそっと声を掛ける。
「めずらしいですね、団長が遅れるなんて」
「すまない。状況はどうなってるか、分かる?」
「大丈夫ですよー。みんな事前に団長が決めたとおりにちゃんと動いてますから……っと、リステアード王太子!」
団員が突然素早い動きで敬礼した。フェリクスが振り返ると、目の前に、エルドゥ王国王太子、リステアードが厳しい顔をして立っていた。
彼は、漆黒の髪の間から覗く、これまた真っ黒な瞳をフェリクスに向け、威厳のある低い声で言った。
「重要な任務に遅刻の上、おしゃべりとは、たるんでいるんじゃないか? 魔法師団団長フェリクス・ブライトナー君」
フェリクスは反射的に背筋を伸ばし、敬礼した。
「は、申し訳ありません。リステアード王太子殿下」
「王に忠誠を誓った師団がそんなことじゃ困るな。ちょっとこっちへ来たまえ。あ、君はいいから。警備を続けなさい」
リステアードはもう一人の団員をそう言って制すると、フェリクスについてくるよう合図した。
フェリクスは言われるがまま、リステアードについて行くしかなかった。
談話室のような部屋に入ると、リステアードはさっさとソファに腰かけた。入り口付近で姿勢を正して立ったままのフェリクスをちらりと見ると、
「レディーをいつまでも立たせてはおけないな。座りたまえ。フェリシア君」
と言って、ようやく微笑んだ。
「あの……リステアード殿下」
「何度も同じことを言わせないでくれ、フェリシア君。それとも俺の膝の上に座る?」
王妃譲りの綺麗な顔――国王似のミランとはまた違ったタイプの美形だ――に微笑を浮かべ、自身の膝の上をポンポン叩く。
フェリクスは呆れた声で「ソファにさせていただきます」と言って、静かにリステアードの正面に座った。
「安心しなよ、この部屋には給仕の女性もいるから。俺と二人っきりってわけじゃないよ」
「お気遣い感謝します」
「ははは、あの団員の顔見た? 真っ青だったよ。君が叱責されるとでも思ったのかな」
リステアードはさっきまでの厳しい態度が一変、朗らかに笑うと、手を上げて合図をして、奥から給仕にコーヒーを運ばせた。
「彼は今年からの新入団員ですから、私の性別も知りません。そうやってからかうの、やめて下さいよ」
「だってさ、退屈なんだよね、国が平和で暇すぎて。君もでしょ、フェリシア君。魔法師団が戦う場面なんてどこにもないもんね」
まったくそのとおりで、フェリクスは何も言い返せない。黙ってうつむいていると、きゅるるるるると、腹がなってしまった。
「しまった……!」
今日は朝から昼にかけて、王城で要人の警護という仕事があったことを、すっかり忘れていた。
フェリクスは魔法師団団長室に戻ると、手早くシャワーを浴び、新しい制服に着替えてすぐに王城へ向かった。
フェリクス達魔法師団は普段王宮内で生活しているが、王城へは、ミランの成人の儀のように、特別な用事がなければ入らない。今回は城内に隣国の重要人物が招かれるので、その護衛を魔法師団が任されていた。
指揮をとらなきゃいけない私が遅刻してしまうなんて……。
王城に入ると、すでに要人は到着しており、各々団員が配置についていた。
廊下で待機していた団員の一人が、フェリクスに気がついてそっと声を掛ける。
「めずらしいですね、団長が遅れるなんて」
「すまない。状況はどうなってるか、分かる?」
「大丈夫ですよー。みんな事前に団長が決めたとおりにちゃんと動いてますから……っと、リステアード王太子!」
団員が突然素早い動きで敬礼した。フェリクスが振り返ると、目の前に、エルドゥ王国王太子、リステアードが厳しい顔をして立っていた。
彼は、漆黒の髪の間から覗く、これまた真っ黒な瞳をフェリクスに向け、威厳のある低い声で言った。
「重要な任務に遅刻の上、おしゃべりとは、たるんでいるんじゃないか? 魔法師団団長フェリクス・ブライトナー君」
フェリクスは反射的に背筋を伸ばし、敬礼した。
「は、申し訳ありません。リステアード王太子殿下」
「王に忠誠を誓った師団がそんなことじゃ困るな。ちょっとこっちへ来たまえ。あ、君はいいから。警備を続けなさい」
リステアードはもう一人の団員をそう言って制すると、フェリクスについてくるよう合図した。
フェリクスは言われるがまま、リステアードについて行くしかなかった。
談話室のような部屋に入ると、リステアードはさっさとソファに腰かけた。入り口付近で姿勢を正して立ったままのフェリクスをちらりと見ると、
「レディーをいつまでも立たせてはおけないな。座りたまえ。フェリシア君」
と言って、ようやく微笑んだ。
「あの……リステアード殿下」
「何度も同じことを言わせないでくれ、フェリシア君。それとも俺の膝の上に座る?」
王妃譲りの綺麗な顔――国王似のミランとはまた違ったタイプの美形だ――に微笑を浮かべ、自身の膝の上をポンポン叩く。
フェリクスは呆れた声で「ソファにさせていただきます」と言って、静かにリステアードの正面に座った。
「安心しなよ、この部屋には給仕の女性もいるから。俺と二人っきりってわけじゃないよ」
「お気遣い感謝します」
「ははは、あの団員の顔見た? 真っ青だったよ。君が叱責されるとでも思ったのかな」
リステアードはさっきまでの厳しい態度が一変、朗らかに笑うと、手を上げて合図をして、奥から給仕にコーヒーを運ばせた。
「彼は今年からの新入団員ですから、私の性別も知りません。そうやってからかうの、やめて下さいよ」
「だってさ、退屈なんだよね、国が平和で暇すぎて。君もでしょ、フェリシア君。魔法師団が戦う場面なんてどこにもないもんね」
まったくそのとおりで、フェリクスは何も言い返せない。黙ってうつむいていると、きゅるるるるると、腹がなってしまった。
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