男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 その声にフェリクスが振り返ると、先ほど倒して動かない(フリをしていてくれている)はずの魔物が、暴れながらこちらに突進してくるところだった。

「止まれ、止まれー! どうしたんだよ、いつもはいい子なのに」

 魔物の訓練係と思わしき男性が声を張り上げるが、魔物は静止しない。
 トカゲのような魔物は尻尾を振り回し、魔法師団の団員を次々に薙ぎ払った。不意をつかれた団員たちはあれよあれよと吹っ飛ばされ、床にべしゃりと叩きつけられる。普段魔法の訓練を怠っているから、イレギュラーに対応できないのだ。
 リステアードが急いでホール中央に出てきて、観客席全体に魔法でバリアを張る。さすが魔力が高いだけのことはある。

「リステアード王太子殿下、これもパフォーマンスの一環ですか?」

 フェリクスは隣のリステアードに小声で尋ねる。リステアードは澄ました顔で、

「フェリクス・ブライトナー団長、うまくパフォーマンスに見せて、この場を納めたら、給料二倍だ。よろしく頼む。俺も手伝うからさ」

 黒髪をさっとかきあげ、ウインクした。「二人で攻撃魔法を魔物に叩きこむよ、フェリクス君!」

「は、はい」

 どうやら予想外の展開らしいが、そういうことなら仕方がない。幸い貴族婦人たちはパフォーマンスの続きだと思っているようだ。
 フェリクスは体内の魔力を高め、リステアードと合わせて、攻撃魔法をトカゲの魔物に叩きこんだ。
 しかし、魔物はへっちゃらである。

「しまった、事前に魔物が怪我しないよう、魔法でバリアを施してあるんだ。忘れてたよ」

 リステアードが軽く舌打ちする。

「どうするんですか。皆を避難させますか」

「式を失敗させたくない。このままじゃ、魔法師団のイメージダウンだ」

 他の団員たちは、無敵と化した魔物になすすべもなかった。がむしゃらに魔法を繰り出して魔力切れを起こしたり、パニックに陥って攻撃魔法ではなくて大量の花を出してしまう団員もいた。
 ああ、情けない。普段格好つけることばかり考えて、魔法の訓練をろくにしていないからだ。フェリクスは嘆いた。
 そんなフェリクスの横で、リステアードがキザに指をパチンと鳴らして、言った。

「捕獲しよう。フェリクス君、魔法の鎖、出せるかい?」

「出せます」

「さすが。俺と挟み撃ちでいこう」

 魔法で何かを具現化させるのは難しいが、フェリクスにとってできないことではなかった。リステアードが魔物の反対側にまわったのを確かめてから、フェリクスは再び体内の魔力を高めた。

「ぐおおおおおお」

 突如、魔物が咆哮した。と思うと、背中がばりばりと音を立てて割れだし、中から何か別の生き物が出てきた。

 だ、脱皮した?

 フェリクスは目を剥いた。

 その生き物は、蝶のようだった。ただし滅茶苦茶大きい。魔物だったものの背中から、今まさに飛び立とうとするかのように翼を広げると、五・六メートルぐらいはありそうだった。

 ――あのトカゲの姿は、幼体だったのか。ちょうど成長期だったってこと? だから暴れ出したの? 

 色々考えているうちに、大きな蝶となった魔物が口のような器官から、フェリクスめがけて糸のようなものを吐き出した。
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