男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 フェリクスはすんでのところで横っ飛びになんとかかわす。
 魔法でバリアが施してあるのは脱皮した皮の方だ。この蝶本体になら、攻撃魔法が効くはずだ。
 そう考えてフェリクスは三度みたび、魔力を高めた。――が。

「わ、わ、なんだこれ? どうなってんだ? おいフェリシア」

 王族席に座っているはずの第二王子、ユリアンが、おろおろしながらホール中央に現われた。

「ちょ、ちょっとユリアン! なんでここにいるの。貴方はバリア内にいるはずじゃ」

 めずらしく慌てた様子のフェリクスの前で、ユリアンはやや気まずそうに答える。

「腹痛くてトイレ行って戻ってきたら席にバリアみたいなのが張ってあって入れなかったんだよ。なあフェリシア、あのでかいちょうちょ何……」

「ユリアン!」

 蝶がユリアンめがけて糸を吐き出した。フェリクスは咄嗟にユリアンを突き飛ばす。ユリアンは吹っ飛んだだけで済んだが、フェリクスは蝶の糸に体をぐるぐると捉えられてしまった。
 それを見計らったように、蝶がフェリクスを捕らえたまま、空中へ羽ばたいた。ホール内に風が巻き起こる。

「くっ」

 フェリクスが目を開けると、大きな蝶と空中で対峙していた。体に巻き付いた糸は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。
 蝶はフェリクスを弄ぶかのように、羽ばたきながら、空中で旋回した。フェリクスもそれに合わせて右へ左へ振り子のように揺さぶられる。目を回さないように、フェリクスはきつく目を閉じた。

「キャー、フェリクス様が魔物に捕まっちゃった! 大丈夫なの?」

「本当にこれ、演技なのかしら」

 観客たちは、さすがに心配しだした。

 このままじゃ、まずい。
 きっと私が邪魔でリステアード殿下や他の団員は攻撃魔法を放てないに違いない。ここは、私が何とかしなきゃ。
 フェリクスがそう決心したとき、ふいに、体の力が抜けていくのを感じた。体内の魔力を高めようとしても、うまくいかない。

 糸を通して、私の魔力を吸い取ってる?

 フェリクスは愕然とした。
 この魔物、魔力がエサなのかもしれない。自分の魔力を奪われては、反撃できない。

 負けるもんか。

 フェリクスは無理やり体内の魔力を高め、体をよじり、糸から逃れようとした。
 すると、糸が、させまいとするように、フェリクスの首にも巻き付いた。
 ギリギリと締め上げる。

「かはっ」

 い、息が……。はやく逃げなきゃ、ここから。

 フェリクスは糸を引きちぎろうと必死にもがいた。しかし、思った以上に力が入らない。
 魔力を吸い取られ、体の力が不安定になっているのだ。
 力が入らない。
 魔力を出せない。
 なんとかしないと、と気持ちばかりが焦る。

 どうしたらいいの。このままじゃ、私は……。苦しい。苦しいよ。ああ、どうしよう、どうしたらいいの。
 もう、駄目だ。

 誰か。

 たすけて、ミラン殿下……。

「フェリクス殿!」

 フェリクスの耳に、少し子供っぽい、聞き覚えのある声が届いた。

 この声は、ミラン殿下……?

 フェリクスは薄目を開けて、なんとか声のする方を向いた。相変わらず蝶の魔物は羽ばたきながら空中を漂い、フェリクスを翻弄しているが、フェリクスの目はほんの一瞬、ライトブラウンの髪を持つ、小柄な王子の姿を捉えた。 
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