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ホールの上部に張り出した廊下に、ミランの姿があった。廊下の手すりを掴んで、こちらに身を乗り出している。
どうしてこんなホールの上階にいるのだろう。
薄れゆく意識の中、フェリクスは思った。マルガレーテの姿は見えず、ミラン一人だ。
「フェリクス殿! 今助けるぞ!」
ミランの声が響く。蝶は羽ばたき、フェリクスを捉えたまま、ミランに近づいたり遠ざかったりした。
「ミラン殿下、危ない……逃げて」
フェリクスはそう発したつもりだが、喉を締め上げられて声にならない。
「魔物め、覚悟しろ! 僕の友人を放せー!!」
ミランは腰に下げている剣を引き抜くと、手すりを乗り越え、タイミングを見計らって魔物に切りかかった。
ええーー!? 無謀すぎる。この高さ、何階だと思ってるんだ!
フェリクスは青ざめた。
ゴッ!!
ミランの剣は蝶の魔物の目に当たる部分を直撃した。
王子ファッションの一部である剣は、切れるようにできていないので、打撃音が響き渡る。
その打撃が魔物にとってクリティカルヒットだったらしく、魔物は羽ばたくのを止め、動きを止めた。フェリクスの体と首に巻かれた糸も緩む。フェリクスはチャンスを見逃さず、咳き込みながら糸を振り解いた。
「うわーー!?」
魔物に一撃を与えたものの、剣をはじかれた状態となったミランは、魔力を持っていないので、当然そのまま落下する。糸から自由になったフェリクスも一緒に。本当に後先何も考えていない王子である。
「ミラン殿下!」
フェリクスはミランを助けようと、魔力を高めた。もう体に魔力はほとんど残っていないが、無我夢中だった。
ミランに手が届く。しっかり彼を抱きかかえる。浮遊魔法を発動する。間に合うか――。
床に叩きつけられる衝撃を覚悟したフェリクスだが、彼女とミランはふわりと床に抱き合う形で転がった。
「フェリクス団長!」
顔を上げると、団員たちの姿があった。彼らが魔法で助けてくれたらしい。
「団長、よく無事で。あ、あれ? どうしてミラン王子殿下が?」
団員たちはフェリクスとミランを助け起こしながら、戸惑った表情を浮かべた。
当のミランは「わ、私は大丈夫だ。全然大丈夫だからな」と虚勢を張る。
高所恐怖症なので、今になって怖さがこみ上げて来たらしい。外傷はなく、床に転がっていた剣をあたふたしながら腰に戻すと、フェリクスに駆け寄った。
「フェリクス殿、無事か」
「ミラ……殿下」
魔物に魔力を吸われ、魔力切れとなったフェリクスは、精神力も尽き、もうへろへろだった。目が回って、今自分がどこに立っているのかも分からない。そこに、
「フェリクス君! 魔物にとどめを!」
鋭い声が響いた。
リステアードである。
見るとリステアードは魔法で出した鎖で、空中の巨大な蝶を羽ごとぐるぐる巻きにして、動きを封じていた。
エルドゥ王国のため、どこまでも魔法師団の売り込みに熱心なこの王太子は、ここでフェリクスに「お前が決めろ」と命令しているのだ。
無茶苦茶だ。ブラック企業だ。
フェリクスは冷静に考えて、もう魔法攻撃を出すのは無理だと判断した。
魔力は残っていない。すでに頭はぼうっとして、視界は歪んでいる。倒れそうだ。
無理だ。合理的に考えて、もう無理。
「フェリクス殿!」
背後から、ミランの声がした。その声を聞いた途端、一瞬だけ、体の中に魔力が湧き出た気がした。
――ああ、もう!
ミラン殿下のため、エルドゥ王国ため、やってやる――。
フェリクスはなけなしの魔力を振り絞って、攻撃魔法を魔物に叩きこんだ。魔法は魔物に見事命中した。
それを見届けたあと、フェリクスは、意識を失った。
どうしてこんなホールの上階にいるのだろう。
薄れゆく意識の中、フェリクスは思った。マルガレーテの姿は見えず、ミラン一人だ。
「フェリクス殿! 今助けるぞ!」
ミランの声が響く。蝶は羽ばたき、フェリクスを捉えたまま、ミランに近づいたり遠ざかったりした。
「ミラン殿下、危ない……逃げて」
フェリクスはそう発したつもりだが、喉を締め上げられて声にならない。
「魔物め、覚悟しろ! 僕の友人を放せー!!」
ミランは腰に下げている剣を引き抜くと、手すりを乗り越え、タイミングを見計らって魔物に切りかかった。
ええーー!? 無謀すぎる。この高さ、何階だと思ってるんだ!
フェリクスは青ざめた。
ゴッ!!
ミランの剣は蝶の魔物の目に当たる部分を直撃した。
王子ファッションの一部である剣は、切れるようにできていないので、打撃音が響き渡る。
その打撃が魔物にとってクリティカルヒットだったらしく、魔物は羽ばたくのを止め、動きを止めた。フェリクスの体と首に巻かれた糸も緩む。フェリクスはチャンスを見逃さず、咳き込みながら糸を振り解いた。
「うわーー!?」
魔物に一撃を与えたものの、剣をはじかれた状態となったミランは、魔力を持っていないので、当然そのまま落下する。糸から自由になったフェリクスも一緒に。本当に後先何も考えていない王子である。
「ミラン殿下!」
フェリクスはミランを助けようと、魔力を高めた。もう体に魔力はほとんど残っていないが、無我夢中だった。
ミランに手が届く。しっかり彼を抱きかかえる。浮遊魔法を発動する。間に合うか――。
床に叩きつけられる衝撃を覚悟したフェリクスだが、彼女とミランはふわりと床に抱き合う形で転がった。
「フェリクス団長!」
顔を上げると、団員たちの姿があった。彼らが魔法で助けてくれたらしい。
「団長、よく無事で。あ、あれ? どうしてミラン王子殿下が?」
団員たちはフェリクスとミランを助け起こしながら、戸惑った表情を浮かべた。
当のミランは「わ、私は大丈夫だ。全然大丈夫だからな」と虚勢を張る。
高所恐怖症なので、今になって怖さがこみ上げて来たらしい。外傷はなく、床に転がっていた剣をあたふたしながら腰に戻すと、フェリクスに駆け寄った。
「フェリクス殿、無事か」
「ミラ……殿下」
魔物に魔力を吸われ、魔力切れとなったフェリクスは、精神力も尽き、もうへろへろだった。目が回って、今自分がどこに立っているのかも分からない。そこに、
「フェリクス君! 魔物にとどめを!」
鋭い声が響いた。
リステアードである。
見るとリステアードは魔法で出した鎖で、空中の巨大な蝶を羽ごとぐるぐる巻きにして、動きを封じていた。
エルドゥ王国のため、どこまでも魔法師団の売り込みに熱心なこの王太子は、ここでフェリクスに「お前が決めろ」と命令しているのだ。
無茶苦茶だ。ブラック企業だ。
フェリクスは冷静に考えて、もう魔法攻撃を出すのは無理だと判断した。
魔力は残っていない。すでに頭はぼうっとして、視界は歪んでいる。倒れそうだ。
無理だ。合理的に考えて、もう無理。
「フェリクス殿!」
背後から、ミランの声がした。その声を聞いた途端、一瞬だけ、体の中に魔力が湧き出た気がした。
――ああ、もう!
ミラン殿下のため、エルドゥ王国ため、やってやる――。
フェリクスはなけなしの魔力を振り絞って、攻撃魔法を魔物に叩きこんだ。魔法は魔物に見事命中した。
それを見届けたあと、フェリクスは、意識を失った。
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