男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 気がつくと、目の前に人影があった。

 ミラン殿下?

 フェリクスは意識を取り戻す。目の前にいたのは、リステアードだった。

「リステアード殿下……」

 フェリクスは見知らぬ部屋のベッドで、仰向けに寝ていた。上掛けが胸のあたりまで掛かっている。起き上がろうとしたが、思うように体に力が入らない。

「無理をしたらだめだ。魔法自体が精神力を使うし、魔力持ちの人間は魔力切れを起こすと体の調子が不安定になるからね。回復するまで休みなさい」

 リステアードはそう言って、横になったままのフェリクスの隣に腰かけた。

「あの……私、ずっと寝てたんですか? ここは一体……」

 フェリクスが横になったまま聞くと、リステアードは、

「ああ、もう夕刻だ。ここは城内の救護室だよ。君用に個室を用意した」

 申し訳なさそうな声音で答えた。
 いつもの澄ました気障な顔ではなく、どこかしゅんとしているその表情が、普段より幼く見える。
 フェリクスはまだぼんやりする頭で、記憶を辿った。

「私、攻撃魔法を使ったあと、倒れてしまったんですね」

「そう、気を失ったんだ。……悪かった、無茶をさせて。まさかあんな展開になるとは思わなくて……式を中断させるべきだとは思ったんだけど」

 どうだか。
 最後の最後まで魔法師団のパフォーマンスにこだわったじゃないか。
 無茶させて、なんてよく言えるな、とフェリクスは言ってやりたかったが、しょんぼりする王太子の顔を見ていると、言えなくなってしまった。
 代わりに、一番気になっていたことを聞いた。

「リステアード王太子、就任式はどうなったんですか?」

 ミラン殿下は大丈夫だったのだろうか。
 すると今まで気落ちした顔をしていたはずの王太子は顔をぱっと輝かせ、

「就任式は、大・成・功だよ! 招待した貴族婦人たちはアクシデントじゃなくて、粋なパフォーマンスだと思い込んだみたいだ。近々この就任式の様子を好きなときに再生して観ることのできる魔道具を作ろうと思ってね。売れるぞー。君は気絶しちゃったから知らないだろうけど、あのあと、ホール内は大盛り上がりだったんだよ。貿易商の女性も『ブラボー!!』って、叫びまくりで、もちろん魔道具の取引も成立」

 と、一気にまくし立てた。
 実に嬉しそうだ。さっきまでの殊勝な態度は何だったんだ……。

「さすがに親父……国王ちちうえにはやりすぎだって注意くらったけどね。ミランがあそこにいなければ、俺が浮遊魔法で君を助けに行くつもりだったんだよ」

「あの、ミラン殿下は……」

 フェリクスは何でもないようなふうを装って、さり気なく聞いた。

「ミラン? あいつはなんともないよ。怪我したのは魔物に尻尾で吹っ飛ばされた団員数名と、頭にたんこぶつくったユリアンだけだ。いずれもたいしたことなくて、すでに回復してるよ」

 ユリアン……私が突き飛ばしたからだ、とフェリクスは思い返した。
 ――会話が途切れ、少しの間を経て、リステアードが唐突に言った。

「フェリクス君は最近ミランと仲がいいよね」
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