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給仕の女性の案内で、王宮内の執務室に行くと、リステアードが真面目な顔をして座っていた。
「入りなさい、フェリクス・ブライトナー魔法師団団長」
黒髪から覗く双眸は鋭くフェリクスを捉えている。ただごとじゃない、とフェリクスは感じ、気持ちを引き締めて部屋に入った。
「は、失礼します、リステアード王太子殿下」
一緒に部屋に入って来た給仕の女性が静かに部屋の隅に控えると、おもむろに、リステアードが口を開いた。
「突然呼び出して悪かったね。時間がもったいないから単刀直入に言うよ。魔法師団の活動費が結構な額なくなったんだけど、どういうことかな。預金を引き出した形跡があると報告があったよ」
フェリクスは血の気が一気に引くのを感じた。
し、失職だーー!! ミラン殿下のことを心配してる場合じゃなかった! 私がやばい!!
「フェリクス君、君、知ってて報告せずに黙ってたのかい? それとも今まで気がつかなかった?」
執務机に両手を組んで座るリステアードの表情は厳しく、いつものひょうひょうとした態度は微塵もない。
気がつかなかった、と嘘を言っても、この王太子には通用しないだろう。
フェリクスは観念して、正直に告白することにした。
「なんとか、私の給料で穴埋めしようと、今まで黙っていました。報告せずに、申し訳ありません」
自分の声なのに、どこか遠くで聞こえるかのようだ。冷汗が頬を伝う。身のすくむ思いで、リステアードの次の言葉を待った。
リステアードは組んでいた手を解くと、呆れたようにふっと息を吐いた。
「どう対処するかはこっちが決めることだよ。困るね、そんなことじゃ」
「す、すみません」
手のひらにも汗が滲みだしているのを、フェリクスは感じた。
「君の給料ですぐに穴埋めできる額じゃないけどね? 使い込んだ団員に目星はついてるの?」
リステアードはフェリクスを見据えたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「はい。彼は反省しています。ただお金は戻るあてはなくて(博打で全部スッてすっからかん)……リステアード殿下、私が団長として、責任を取ります」
フェリクスはリステアードの視線に気圧されそうになりながらも、決然と、宣言した。リステアードはフェリクスの正面に立った。
「どう責任を取るの?」
「私が、魔法師団団長を辞めます」
辞めてお金が戻るわけじゃないけど、これしかない。辞めたらもう王宮にはいられないし、今後ここを訪れることもないだろう。さようなら、ミラン殿下……。
「辞めたいのかい? 魔法師団」
「えっ」
「君は、魔法師団を辞めたいのか、と聞いてるんだ」
「や、辞めたくないです! 続けたいです。で、でも……」
次の言葉が続かず、もごもごするフェリクスを見て、リステアードは、
「じゃあ辞めなくてよろしい。君には別のやり方で責任をとってもらう」
一転、優しい声音で、にっこりと笑った。
あ、あれ? すごく怒っていたんじゃないの?
フェリクスは拍子抜けして、リステアードの顔をまじまじと見てしまった。すると、
「リステアード王太子、いい加減わざと怖がらせるようなことはやめなさい」
部屋の隅からどすの利いた声が響いた。ずっと黙って影のように控えていた、給仕の女性だ。
途端、リステアードが情けない顔つきになった。
「はいはい、分かってるよ。フェリクス君がこの世の終わりみたいな顔してるから、面白くてついね。ごめんごめん」
か、からかわれたーー!!
フェリクスはつかみどころのないこの王太子を恨めしく思った。
王太子オーラが本気で結構怖かったのに。というか、私って、そんなに絶望した顔してたの……。
対してリステアードはサラサラの黒髪をかきあげながら、
「あの女性は俺が子供のころからの世話係でね、俺はもう大人なのに、いつもうるさ……小言が多くてね。いや、フェリクス君、そんなことはいいんだ。で、君への処罰だけど」
と、一応真面目な顔を取り繕って、フェリクスに向き直った。
「はい」
フェリクスははっとして、背筋を伸ばした。別のやり方ってなんだろう。
リステアードはひとつ、咳払いをして、こう言った。
「これまで以上に魔法師団として、国に貢献すること。それと、ミランに剣術の訓練を引き続き、行うこと」
「入りなさい、フェリクス・ブライトナー魔法師団団長」
黒髪から覗く双眸は鋭くフェリクスを捉えている。ただごとじゃない、とフェリクスは感じ、気持ちを引き締めて部屋に入った。
「は、失礼します、リステアード王太子殿下」
一緒に部屋に入って来た給仕の女性が静かに部屋の隅に控えると、おもむろに、リステアードが口を開いた。
「突然呼び出して悪かったね。時間がもったいないから単刀直入に言うよ。魔法師団の活動費が結構な額なくなったんだけど、どういうことかな。預金を引き出した形跡があると報告があったよ」
フェリクスは血の気が一気に引くのを感じた。
し、失職だーー!! ミラン殿下のことを心配してる場合じゃなかった! 私がやばい!!
「フェリクス君、君、知ってて報告せずに黙ってたのかい? それとも今まで気がつかなかった?」
執務机に両手を組んで座るリステアードの表情は厳しく、いつものひょうひょうとした態度は微塵もない。
気がつかなかった、と嘘を言っても、この王太子には通用しないだろう。
フェリクスは観念して、正直に告白することにした。
「なんとか、私の給料で穴埋めしようと、今まで黙っていました。報告せずに、申し訳ありません」
自分の声なのに、どこか遠くで聞こえるかのようだ。冷汗が頬を伝う。身のすくむ思いで、リステアードの次の言葉を待った。
リステアードは組んでいた手を解くと、呆れたようにふっと息を吐いた。
「どう対処するかはこっちが決めることだよ。困るね、そんなことじゃ」
「す、すみません」
手のひらにも汗が滲みだしているのを、フェリクスは感じた。
「君の給料ですぐに穴埋めできる額じゃないけどね? 使い込んだ団員に目星はついてるの?」
リステアードはフェリクスを見据えたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「はい。彼は反省しています。ただお金は戻るあてはなくて(博打で全部スッてすっからかん)……リステアード殿下、私が団長として、責任を取ります」
フェリクスはリステアードの視線に気圧されそうになりながらも、決然と、宣言した。リステアードはフェリクスの正面に立った。
「どう責任を取るの?」
「私が、魔法師団団長を辞めます」
辞めてお金が戻るわけじゃないけど、これしかない。辞めたらもう王宮にはいられないし、今後ここを訪れることもないだろう。さようなら、ミラン殿下……。
「辞めたいのかい? 魔法師団」
「えっ」
「君は、魔法師団を辞めたいのか、と聞いてるんだ」
「や、辞めたくないです! 続けたいです。で、でも……」
次の言葉が続かず、もごもごするフェリクスを見て、リステアードは、
「じゃあ辞めなくてよろしい。君には別のやり方で責任をとってもらう」
一転、優しい声音で、にっこりと笑った。
あ、あれ? すごく怒っていたんじゃないの?
フェリクスは拍子抜けして、リステアードの顔をまじまじと見てしまった。すると、
「リステアード王太子、いい加減わざと怖がらせるようなことはやめなさい」
部屋の隅からどすの利いた声が響いた。ずっと黙って影のように控えていた、給仕の女性だ。
途端、リステアードが情けない顔つきになった。
「はいはい、分かってるよ。フェリクス君がこの世の終わりみたいな顔してるから、面白くてついね。ごめんごめん」
か、からかわれたーー!!
フェリクスはつかみどころのないこの王太子を恨めしく思った。
王太子オーラが本気で結構怖かったのに。というか、私って、そんなに絶望した顔してたの……。
対してリステアードはサラサラの黒髪をかきあげながら、
「あの女性は俺が子供のころからの世話係でね、俺はもう大人なのに、いつもうるさ……小言が多くてね。いや、フェリクス君、そんなことはいいんだ。で、君への処罰だけど」
と、一応真面目な顔を取り繕って、フェリクスに向き直った。
「はい」
フェリクスははっとして、背筋を伸ばした。別のやり方ってなんだろう。
リステアードはひとつ、咳払いをして、こう言った。
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