男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 リステアードの言葉の意味を、すぐに理解できなかったフェリクスは、ただただ、リステアードを見つめて、間抜けにぽかんとしてしまった。
 そんなフェリクスの頭を、子供にするように、リステアードはわしゃわしゃとかき回した。

「わっ。ちょっと、リステアード殿下」

「いいかい、覚悟しなさい。これからは、魔法師団を国のPRのために、もっともっとこき使っていくからね。それこそだらける暇もないくらい。使い込んだ金は、魔法師団全員の給料から等分に差し引く。それと」

 リステアードはフェリクスの頭に手を乗せたまま、優しく微笑んだ。

「もう知ってるかもしれないけれど、ミランがマルガレーテ嬢と婚約を解消することになった。ミランに非があるということで、あいつは現在無期限の謹慎中だ。自由はない。だけど一日中部屋に閉じ込めておくのも健康上よくない。というわけで、毎朝、君が、ミランに引き続き、剣術の稽古を付けてやってくれ。いいかな」

 ぽんぽんと、手毬みたいにフェリクスの頭を叩いた。
 フェリクスは黙って叩かれながら、リステアードの言葉を心の中で反芻した。
 また、ミラン殿下にお会いできる。
 ――今まで通り、会えるんだ!

「ん? どうしたの、なにか不満がある?」

「い、いいえ、滅相もございません! このフェリクス・ブライトナー、謹んでお受けいたします。あ、あの、ありがとうございます、リステアード殿下」

「俺は国のことを考えているだけだよ。師団人気上位の君に辞められちゃ困る。ミランも、今回のことを教訓にして、挽回の余地はあるだろう。マルガレーテ嬢は気の毒だったが」

 リステアードの言葉に、フェリクスははっとした。
 
 マルガレーテ嬢……愛する恋人と引き裂かれ、心を痛めるあまり、体調を崩してしまった、あの可愛らしく、儚げな少女。
 改めて考えると、そんな少女に惚れ薬を飲ませようとしていたなんて、とても残酷な行為に思える。

 私も同罪だ……。

 フェリクスは嬉しさに舞い上がった浅はかな自分に罪悪感を覚えて、とぼとぼと、自室に戻った。そして「惚れ薬の作り方」の書物を取り出し、破棄してしまおうと考えた。これは、使ってはいけない魔法だ。
 ……そういえば、汚れて読めない最後の部分に、汚れを取り除く魔法をかけていたんだっけ。
 フェリクスはどうなったか気になって、最後の部分のページをめくった。
 汚れは魔法により、きれいにとりさられていた。そこには、

『〇×魔法学校 創作魔法同好会 〇〇年△月×日発行』

 と書かれていた。

 そ、創作魔法? 同好会!?
 ……ということは、これは、昔の魔法学校の生徒が趣味で作った、なんちゃって魔法? 本当の魔法じゃないの?

「う、嘘でしょ……」

 書物から魔力を感じていたのは、魔法学校にあったものだったからだったのだ。
 どういう経緯で王宮の書庫室に保管されたのかは謎だが、これでは本当に、ユリアンが言っていたとおり、おまじないの類いの本である。
 魔法学校の一生徒が、本当の魔法を新たに生み出せるとは思えない。
 こんな魔法あったらいいな、てきなノリで作ったのだろう。
 フェリクスはすっかり拍子抜けして、脱力した。

 ミラン殿下には、言わないでおいた方が、いいだろうな……。
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