男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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両思い 3

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 移動販売車は、クレープを売っていた。

 なるほど、狸はこのクレープの匂いにつられたのかもしれない、そう思って、フェリクスは慎重に販売車に近づき、観察した。

 クレープを買っていくのは、カップルや、女性同士のグループが多かった。時間的に、制服姿の学生も多い。
 クレープを売っているのは男性一人のようだが、ここからでは顔がよく見えない。

 そんな中、若い男性が一人でクレープを買っていった。フードで顔を覆っているが、どこにでもいる少年のような、ラフな服装をしている。
 なんだか見覚えがあるような……?
 フェリクスは何となくそう感じて、少年を目で追った。

 少年はいそいそとベンチに座り、いざ、クレープにかぶりつこうとした。その瞬間、一匹の狸が、どこからともなく少年に飛びかかり、クレープを奪おうとした。

「うわあっ」と叫びながら少年がベンチに倒れる。

 狸型魔物だ、と思ったフェリクスは、浮遊魔法でベンチに飛んだ。

「こらー! これは僕のクレープだぞ!」

 ベンチの上で少年は狸とクレープを奪い合っていた。その滑稽な姿よりも、フェリクスは別のことにあっけにとられた。

「その声……ミラン殿下?」

 少年のフードがはらりと外れる。ライトブラウンの髪と、国王から受け継がれた端正な顔があらわになった。その端正な顔に王族としての気品はどこにもなく、おもちゃを取られて癇癪を起している子供のそれである。

「そういう君は……え? 誰?」

「私です、フェリクスです」

「フェリクス殿? どうしたのその恰好……あ、くそ、取られた!」

 狸は奪取したクレープを咥えて、ベンチの後ろの茂みに逃げようとした。とっさにフェリクスは魔法の鎖を出し、狸型魔物を捕まえる。

「ありがとう、フェリクス殿、僕のクレープを……」

「違います。クレープはまた買ってきますよ。私が用があるのはこの子狸のほうです。この狸は、王宮から逃げ出した魔物なんです。今回、魔法師団として、リステアード殿下から捕獲の任務を承りました」

 フェリクスは「任務」という部分をやや強調した。ミランはそれに気がつくふうもなく、ベンチに座る狸を見下ろした。

 魔法の鎖にぐるぐる巻かれて自由を奪われた狸は、クレープを咥えたまま、うなりをあげている。

「こいつ、王宮で管理している魔物なのか。おい、王子である僕を威嚇するとは、いい度胸だな」

「怯えているんですよ。あ、それに、足に怪我をしていますね」

 フェリクスは魔法の鎖を少し緩め、狸の足に治癒魔法を発動した。狸は縮こまって、後ずさりしようとした。

「大丈夫、怖くないよ。怖くない……ちょっと足を見せてね。いい子だね、いい子……うん、治った」

 フェリクスは屈みこんで視線を合わせながら、狸の頭を優しくなでた。狸はおとなしくなり、咥えたクレープをがつがつと食べ始めた。

「腹が減ってたんだな」

 ミランは怒りも収まったらしく、フードを再び被り、足を組んでベンチに座り直した。

「そのようですね。それにしてもミラン殿下、なぜこのような場所にお一人でいるんですか。しかもその恰好……護衛はどうしたんです」
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