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両思い 4
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フェリクスは狸を撫でながらミランに問うた。ミランは悪びれもせずこう返した。
「マルガレーテの一件があって以来、貴族学校での目が厳しくてね……自分のせいとはいえ、たまには息抜きしたかったんだよ」
「護衛をまいて、変装してまで、クレープが食べたかったんですね」
ミランが甘いものに目がない、ということは、フェリクスも知っている。
「あの移動クレープ屋はとてもうまいと貴族学校で評判なんだ。この公園に今日来てると聞いて、いてもたってもいられなくて」
フェリクスにずばりと指摘され、ミランはバツが悪そうに白状した。だがすぐにフェリクスに顔を向けるとこう言った。
「変装してるのは君も同じじゃないか。はじめ、誰だか分からなかったよ」
フェリクスは魔法師団の制服ではなく、一般の成人男性の恰好をしていた。さらに帽子と眼鏡をつけ、束ねた長い金の髪をジャケットの中にしまいこんで隠していた。
「国民に気がつかれないように、速やかに魔物を捕獲せよ、と言うリステアード殿下のお達しなので」
「ふうん」
ミランはそう言っただけだった。子狸は、クレープを食べ終えて、すやすやとベンチの上で眠ってしまっていた。
「これなら、鎖を外しても大丈夫そうですね。ミラン殿下、この魔物を見ていてもらえないですか。私、代わりのクレープを買ってきますよ」
フェリクスは子狸から魔法の鎖を外し、立ち上がった。
ちょうど客が途切れたときで、クレープはすぐに買うことができた。
店主は二十代前半くらい、かなりの男前だった。その辺にそうそういないくらいの美形である。女性に人気の秘密はこれかな、とフェリクスは思いながらクレープを作る男性を見た。
ほんの少し、男性から魔力を感じた。魔力持ちか、とフェリクスは思う。
「はい、クレープ二つ、お待ちどおさまです」
狸相手にムキなって格闘するミランよりも、よほど王子らしい爽やかな笑顔で、出来上がったクレープを渡してくれた。
フェリクスははっとした。
公園のベンチに並んで、ミラン殿下とクレープを食べる……恋人同士みたいじゃない?
今の自分の恰好を思い出して、落胆した。
だめだ、全然恋人同士になんて見えないよ……兄弟に見えるのが関の山。男装してなかったら、マルガレーテ嬢を介抱した、いつかの日みたいに、ワンピースを着ていたら、恋人同士に見えるかな。
ミランと並んでクレープを食べられる、という事実に、心を少しだけときめかせ、フェリクスはベンチを振り返った。
ベンチには誰もいなかった。
「フェリクス殿! すまない! 狸が逃げたー!!」
そう叫びながら公園を駆け出していくミランの姿がどんどん小さくなっていく。
フェリクスも両手にクレープを持ったまま、ミランを追いかけた。
――眠っていると思って、油断した――。
フェリクスは自分の浅慮を悔いたが、とにかく追いかけるしかない。
ほどなくして、わき道で猫とにらみ合っている最中の狸を、ミランがタックルして捕まえた。
「殿下、お見事」
「申し訳ないフェリクス殿。僕が『狸鍋もうまそうだな』って寝てるこいつに冗談を言ったら、飛び起きて、逃げ出した。狸寝入りだったんだな」
「クレープのことをいつまでも根に持たないで下さいよ。はい、買ってきました」
フェリクスは再び狸型魔物を魔法の鎖で捕らえたあと、ミランにクレープを差し出した。
「マルガレーテの一件があって以来、貴族学校での目が厳しくてね……自分のせいとはいえ、たまには息抜きしたかったんだよ」
「護衛をまいて、変装してまで、クレープが食べたかったんですね」
ミランが甘いものに目がない、ということは、フェリクスも知っている。
「あの移動クレープ屋はとてもうまいと貴族学校で評判なんだ。この公園に今日来てると聞いて、いてもたってもいられなくて」
フェリクスにずばりと指摘され、ミランはバツが悪そうに白状した。だがすぐにフェリクスに顔を向けるとこう言った。
「変装してるのは君も同じじゃないか。はじめ、誰だか分からなかったよ」
フェリクスは魔法師団の制服ではなく、一般の成人男性の恰好をしていた。さらに帽子と眼鏡をつけ、束ねた長い金の髪をジャケットの中にしまいこんで隠していた。
「国民に気がつかれないように、速やかに魔物を捕獲せよ、と言うリステアード殿下のお達しなので」
「ふうん」
ミランはそう言っただけだった。子狸は、クレープを食べ終えて、すやすやとベンチの上で眠ってしまっていた。
「これなら、鎖を外しても大丈夫そうですね。ミラン殿下、この魔物を見ていてもらえないですか。私、代わりのクレープを買ってきますよ」
フェリクスは子狸から魔法の鎖を外し、立ち上がった。
ちょうど客が途切れたときで、クレープはすぐに買うことができた。
店主は二十代前半くらい、かなりの男前だった。その辺にそうそういないくらいの美形である。女性に人気の秘密はこれかな、とフェリクスは思いながらクレープを作る男性を見た。
ほんの少し、男性から魔力を感じた。魔力持ちか、とフェリクスは思う。
「はい、クレープ二つ、お待ちどおさまです」
狸相手にムキなって格闘するミランよりも、よほど王子らしい爽やかな笑顔で、出来上がったクレープを渡してくれた。
フェリクスははっとした。
公園のベンチに並んで、ミラン殿下とクレープを食べる……恋人同士みたいじゃない?
今の自分の恰好を思い出して、落胆した。
だめだ、全然恋人同士になんて見えないよ……兄弟に見えるのが関の山。男装してなかったら、マルガレーテ嬢を介抱した、いつかの日みたいに、ワンピースを着ていたら、恋人同士に見えるかな。
ミランと並んでクレープを食べられる、という事実に、心を少しだけときめかせ、フェリクスはベンチを振り返った。
ベンチには誰もいなかった。
「フェリクス殿! すまない! 狸が逃げたー!!」
そう叫びながら公園を駆け出していくミランの姿がどんどん小さくなっていく。
フェリクスも両手にクレープを持ったまま、ミランを追いかけた。
――眠っていると思って、油断した――。
フェリクスは自分の浅慮を悔いたが、とにかく追いかけるしかない。
ほどなくして、わき道で猫とにらみ合っている最中の狸を、ミランがタックルして捕まえた。
「殿下、お見事」
「申し訳ないフェリクス殿。僕が『狸鍋もうまそうだな』って寝てるこいつに冗談を言ったら、飛び起きて、逃げ出した。狸寝入りだったんだな」
「クレープのことをいつまでも根に持たないで下さいよ。はい、買ってきました」
フェリクスは再び狸型魔物を魔法の鎖で捕らえたあと、ミランにクレープを差し出した。
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