男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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両思い 5

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 ベンチに並んでではなく、立ち食い状態になってしまうが、仕方ない。狸型魔物のことを考えると、寄り道せずにこのまま王宮に戻ったほうがいいのかもしれない。

 自分だけ先に帰ってもいいけど……ミランと二人きりで(正確には狸がいるが)王都を歩くことがはじめてなので、フェリクスは逡巡していた。

「フェリクス殿、狸はまたおとなしくなったようだし、二人でゆっくり王宮へ戻ろう」

 ミランがフェリクスの心中を見透かしたようなセリフを言うので、クレープを口にしていたフェリクスは、危うくむせるところだった。

「はい、そうしましょう」

 二人で並んでクレープを食べながら、王宮に向かうことになった。

「フェリクス殿は甘いものが苦手じゃなかったのか?」

「わさび味のクレープがあったんですよ」

「わさび味!」

 フェリクスの答えに、ミランははしばみ色の目を丸くした。「それじゃあ僕はひと口貰うわけにはいかないな」
 ミランはチョコとクリームをふんだんに使ったマシュマロ入りクレープをかじりながら、残念そうに言った。
 ミランは甘いものに目がないが、辛い物は苦手である。

 えっ。ミラン殿下が私のクレープを一口? わさび味なんて買うんじゃなかった……。
 フェリクスはちょっと……いや、かなりがっかりして、クレープを見つめた。
 
 クレープを持つ手と反対の、左腕の中では、狸が魔法の鎖で固定されたまま、再び眠っていた。フェリクスが「狸鍋なんかにしないよ、大丈夫だよ」と優しく語りかけた成果である。

「狸はフェリクス殿に懐いたみたいだな。まったく世話の焼ける狸だ。王宮から脱走するなんて」

 ミランは横目で狸を見ながら、口についたクリームを舐めとった。その所作は成人男性とは思えないほど可愛らしい。

「まだ子供の魔物ですから、仕方ないですよ」

 フェリクスがそう返すと、ミランは、思い出したように言った。

「その狸型魔物は、たしか、隣国から期間限定で貸し出されたんじゃなかったかな。リステアード兄貴が、そんなこと言ってた気がする。使える魔法が珍しいから、仕込めば、パフォーマンスに生かせるとか言って」

「そこまでは、リステアード殿下に聞いてませんでした。隣国の魔物だから、リステアード殿下はあんなに困って、焦っていたんですね。この子狸、ホームシックになっちゃったのかな……」

 フェリクスは、腕の中の狸を見下ろす。寝息を立てる子狸は、安心しきっているようだ。

 可愛いいなあ。

 あたたかくて、ふわふわしている。フェリクスは自然と目を細める。
 視線を感じて、横に目をやると、ミランがフェリクスを見つめていた。

「? ミラン殿下?」

「前に、君は笑うと可愛い、って言ったことがあるけれど、やっぱり可愛いな」 

「え……」

「いや、大人の女性に可愛いは、失礼だったか」

 ミランは誤魔化すように、急いで残りのクレープを食べつくした。

「い、いえ……、ありがとうございます」

 フェリクスは、熱くなった顔を隠すように、わさびクレープを食べた。もう胸がいっぱいで、わさびの辛さなんて、全然分からなかった。

 このままずっと、王宮にたどり着かなければいいのに。
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