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転生勇者と魔剣編
第十三話 ブルードラゴンという魔物(1)
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ブルードラゴンの住み処は、森を抜けて山を登り、中腹辺りに開いた洞窟のさらに奥にあるという。
案内されて向かうレッドたち勇者パーティであるが、当然のことながら和気あいあいといった雰囲気ではなく、殺伐として今にも戦闘が始まりそうな様子だった。
「…………」
「…………」
終始無言である。アレンなどは漂う空気にいたたまれない気持ちになり話題を振ろうとか考えて、しかしどうしても言いだせずやっぱり黙るを何度も繰り返している。傍目からして哀れだ。
レッドとしても嫌な空気だが、仕方ないと思っていた。ほとんど脅しとハッタリで同行させたようなもの、彼らがこちらを招かれざる客と認識しているのは変化が無い。一触即発の状態を維持しているのはどうしようもないのだから、と。
しかし、その最悪な場の沈黙を破ったのは、普段は口を開かないラヴォワだった。
「……この森、おかしい」
ポツリと呟いた言葉に、同行していた者たち全員がラヴォワに視線を集める。
「どうした? ラヴォワ」
「静かすぎる……魔物の気配が全然無い……」
そう言われてみて改めて周囲を確認すると、確かに森に入ってから魔物に襲われるどころか、獣の声一つ鳥の羽ばたき一つ聞こえない。あるのは風と木々のざわめきくらいである。
「アレン、何か索敵魔術で反応はあるか?」
「い、いえ、それが全然……」
アレンも戸惑っている様子だ。普段森で暮らす種族にとって、こんな静寂に支配された森は異質なのだろう。
「なあ、この森ていつもこんな感じなのか?」
「え、あ、いや、そんなことは……」
同行した兎族の男は妙に歯切れが悪かった。彼にとっても異常事態なのか、と思ったが、ふと引っかかるものを感じて聞いてみた。
「――なあ、もしかしてブルードラゴンが暴れるようになってからこうなのか?」
「っ!!」
勘で言ってみたが正解だったようだ。兎族の男のみならず他の奴らまで慌てだした。
「なるほど――そういやブルードラゴンの被害は村の家畜に限らず森の魔物も襲われているんだっけ。魔物たちも怖がって逃げ出したってとこかな」
「……違う。多分そうじゃない」
「うん?」
ラヴォワに速攻否定された。気が付くとラヴォワは足を止め、ブツブツ呪文を呟いている。
呟いていくと、ラヴォワの周囲に青白いオーラが浮かび上がり、彼女を取り囲むように文字が浮かび上がってきた。魔術師が使う専門の、古代文字だ。
「ラヴォワ、お前何を……」
「しっ、黙ってなさい」
ロイが声をかけようとしたのを、マータが制止した。
アレンの万能さで忘れそうになるが、ラヴォワも魔術連盟が寄越した腕利きの魔術師なのだ。魔術に関する技術や知識ならアレンよりはるかに上である。
その幻想的な光景がいつまで続いたか、青白い光が消えていくと同時に古代文字も消え、やがてラヴォワが口を開いた。
「……やっぱり。この森……違う、この近辺はマナが異常に不足してる。そのせいで魔物たちはみんな逃げてしまった……」
「マナだって?」
ラヴォワの解析に眉をひそめた。
レッドもマナくらいは習って知っている。マナとは要するに魔力、それも自然界に存在する魔力の事だ。
魔力とは魔物や人族や亜人だけに存在するわけでなく、全ての動植物、そして自然界にもどこにでも存在する。大地や風、水にも当然の如くあり、魔術師は自ら持つ魔力と自然界にあるマナを魔力として吸収し魔術を行使する。
そのマナが、こんな自然あふれる森の中で切れるなんてあり得ないことだった。ラヴォワのいう通り異常事態としか言えない。
「全然無いって、どういうことだ? 理由は分かるか?」
「……はっきりとはまだ断言できないけど、多分……」
「おい! いつまで駄弁ってんだ! とっとと行くぞ!」
話を途中で遮られた。魔術を苦手とする亜人族にとって、意味の分からない与太話にしか聞こえなかったのだろう。ただでさえ悪い機嫌をより損ねてしまった。
ラヴォワの話は気になったが、これ以上刺激するのはまずいと判断し、先を急ぐことにした。
***
案内された洞窟は、入り口が意外に小さく二、三人が横並びで歩くのがせいぜいに見えた。
「この中にブルードラゴンが入って来るのか?」
「んなわけねえだろ。ブルードラゴン様はもっと山の上にある大穴から入るのさ。もっとも、人が入れるような深さじゃないけどな」
つまりこの山には酒瓶のような空洞が中にあり、ブルードラゴンはその空洞を通って地下にある住み処に飛んで入るそうだ。角度が急すぎてとても人間が降りれる穴ではなく、別の小さな抜け穴から入る必要があるという。
「なるほどね。しかし狭い穴だな……ゴブリンとか小型の魔物が住んでたりしないよな」
「笑わせるな。ブルードラゴン様の住み処だぞ? そんなチャチな魔物、こんなところに住んだりするもんかい」
また馬鹿にされた。いい加減敵意剥き出し過ぎてムカつきすら湧かなくなってしまった。レッドは「はぁ……」とため息をつきつつパーティの仲間に指示をする。
「まあとりあえず入ることにしよう。食料は一応あるし話の限りではそこまで深くないだろうから大丈夫かな。光源の魔道具はあるし光魔法は二人が使えるが、松明用の薪も用意した方が……」
「そんなもんいらねえよ」
なんて横から嗤われた。兎族だけでなく、アレン以外の亜人たちが全員にやけ面でこちらを見下している。
「は? いやそりゃ亜人は夜目がいいから別に大丈夫だろうが……」
「そうじゃねえ。ナヨっちい人族でもこの洞窟で松明も何もいらねえさ」
「……なんだと?」
意味が分からなかったが、促されるので仕方なく勇者パーティのたちは入ることにした。
そして少し洞窟を進んでいくとすぐ、亜人たちの言葉の意味を理解した。
「うわあ……」
アレンが思わず感嘆の息を漏らす。幻想的な光景に、レッドも思わず魅せられてしまった。
洞窟の中は、緑色に輝いていた。松明かランプが置かれているというのではなく、洞窟の壁面自体が輝いているのだ。
「凄いです……ヒカリゴケでしょうか。僕の故郷には無かったので初めて見ました」
「いや、ヒカリゴケって青っぽく光るんじゃなかったかな……俺も見たことは無いが」
ヒカリゴケとは洞窟や湿地帯などに多く生息する苔の一種で、発育の時に淡い光を放つ性質がある。暗い洞窟などでは光源代わりになるとして、わざと生やしているところもあるという話は聞いていた。
が、二人の会話にラヴォワは首を横に振って否定する。
「そうじゃない……これは魔光石の一種……この山の土には魔光石が含まれている……」
「魔光石だと?」
魔光石の名も授業で習ったことがあった。魔力を流すと、それに反応して光を放つ鉱石。魔力さえあればかなりの時間輝いていられるので、実のところ今持っている光源用の魔道具たちにも組み込まれている。つまりこの光は魔光石の原石たちが輝かせているわけだ。
「しかし、ずいぶんと爛々と輝いているな……魔光石の光なんて大したこと無いと思ってたけど、自然界ではこんなに強烈な光なのか?」
レッドは大して疑問に思ったわけでなく、つい口に出してだけのつもりで言ったのだが、ラヴォワはその発言に首を傾げてしまった。
「ラヴォワ?」
「……やっぱり変。自然界にもマナはあるから魔光石が輝いているのは変じゃないけど、ここまで強く光ったりしないはず……」
「なに、そうなのか?」
言われてみれば、先ほどこの近辺のマナは信じられないほど不足していると語られたばかりだった。その減少しているはずのマナが、この洞窟には多すぎるほど存在している。つまりこの美しい輝きも、この森が陥っている異常事態の一つなのだ。
これもブルードラゴンの狂暴化と関係あるのか、と言いたかったが、そんなことを言えばまた亜人たちを怒らせるだけだと黙っておいた。
そうして沈黙の中洞窟内を進み、ようやく開けたところに出た。
「ここは……」
そこは洞窟内に出来た大空洞であり、魔光石もあちらこちらで輝いて全体を照らしていた。
しかし、この大空洞においてそんなものは気にならなかった。
大空洞の中心にて寝そべっている、巨大なトカゲがに目が行くからである。
いや、それはトカゲではなかった。
体長は十メートルはゆうに有り、背中には大きな背びれと、畳まれてはいるが大きな羽を生やしている。
長い口に生えた牙は大きく鋭く尖り、三か月前に倒したシャドウウルフなどまるで比べ物にならない。もう一つ大きな特徴として、頭部から天を突くように伸びた二本の角もある。
体全体は、緑色の魔光石が輝く中でも分かるほど澄んだ、雲一つ無い空を思わせる青色――間違いなく、伝説のブルードラゴンであった。
「これが、ブルードラゴン様……」
その壮言たる様に、アレンのみならず同行した他の面々も飲まれていた。まさに神として崇められるだけのことはある。そう実感させる姿だった。
「……お前ら、気を付けろよ」
しばらくの間ブルードラゴンの雄々しさに圧巻させられていたが、兎族のリーダーに小さく釘を刺された。
「下手に騒いだり、魔法でも放ってみろ。ブルードラゴン様を怒らせるかもしれねえ。発情期以外は大人しいったって、警戒しないことに越したことは無いからな。普段は俺たちだって滅多に来ねえんだ。お前らも死にたくなかったら……」
なんて注意されていたその時、地面がグラグラと振動し始めた。
「地震か?」
「いや、ちょっとおかしいわよこれ!」
マータの発言通り、振動はどんどん強くなっていき、また揺れが上下左右とメチャクチャに荒れ狂っていく。まるで周囲の地面を何かが這いずり回っているようだった。
「お、お前ら、やっぱり何かしたんじゃないだろうな!」
「なわけねーだろ! 知らねえよ俺たちは!」
リーダーに胸倉を掴まれている時にも揺れは強さを増し、ついには空洞の壁が次々と割れていった。
割れた壁の中から、巨大な筒のような黄土色のものが飛び出してくる。
「あれは……!」
レッドたちは目を見開いた。
飛び出してきたのは、筒のような形をした大型の魔物だった。
ビッグワーム。その名の通り巨大なミミズ型の魔物であり、大きい種だと五メートルまで成長する。基本的に地底で生活する魔物で、地下に潜らない限りまず出会うことは無い。
「嘘でしょ、なんでこんなところにビッグワームが出てくるのよ!」
マータが動揺して叫ぶ。無理もない。
実はビッグワームは光を嫌う性質があるといい、明かりさえ持っていれば襲われない。人間が餌食になるのは、光源を絶やしてしまった時だけ。ましてや、こんな魔光石に包まれた場所に自分から出てくるなんてあり得ない。レッドも勉強した時にそれを覚えていた。
「話は後だっ! 全員気を付けろ!」
ビッグワームは何匹も現れてきた。ビッグワームは餌を見つければ容赦なく食らいついてくる獰猛な魔物だ。人間など一飲みで喰われてしまう。皆に警戒させる。
ロイは斧を構え、マータは懐から何らかの魔道具だろう棒状の武器を取り出した。ラヴォワも杖をビッグワームに向ける。
アレンは戦えないが、亜人たちを庇うように立ち塞がった。アレンも身を守ることくらいは出来るので、大丈夫だろうとレッドは判断する。
レッドも聖剣を抜いて両手に強く握る。聖剣から自身に力が注がれていき、恐れが消えていく。いつもの感覚であった。
「来るぞっ!」
その叫びに呼応するように、ビッグワームたちはその巨躯で飛びかかってきた。
案内されて向かうレッドたち勇者パーティであるが、当然のことながら和気あいあいといった雰囲気ではなく、殺伐として今にも戦闘が始まりそうな様子だった。
「…………」
「…………」
終始無言である。アレンなどは漂う空気にいたたまれない気持ちになり話題を振ろうとか考えて、しかしどうしても言いだせずやっぱり黙るを何度も繰り返している。傍目からして哀れだ。
レッドとしても嫌な空気だが、仕方ないと思っていた。ほとんど脅しとハッタリで同行させたようなもの、彼らがこちらを招かれざる客と認識しているのは変化が無い。一触即発の状態を維持しているのはどうしようもないのだから、と。
しかし、その最悪な場の沈黙を破ったのは、普段は口を開かないラヴォワだった。
「……この森、おかしい」
ポツリと呟いた言葉に、同行していた者たち全員がラヴォワに視線を集める。
「どうした? ラヴォワ」
「静かすぎる……魔物の気配が全然無い……」
そう言われてみて改めて周囲を確認すると、確かに森に入ってから魔物に襲われるどころか、獣の声一つ鳥の羽ばたき一つ聞こえない。あるのは風と木々のざわめきくらいである。
「アレン、何か索敵魔術で反応はあるか?」
「い、いえ、それが全然……」
アレンも戸惑っている様子だ。普段森で暮らす種族にとって、こんな静寂に支配された森は異質なのだろう。
「なあ、この森ていつもこんな感じなのか?」
「え、あ、いや、そんなことは……」
同行した兎族の男は妙に歯切れが悪かった。彼にとっても異常事態なのか、と思ったが、ふと引っかかるものを感じて聞いてみた。
「――なあ、もしかしてブルードラゴンが暴れるようになってからこうなのか?」
「っ!!」
勘で言ってみたが正解だったようだ。兎族の男のみならず他の奴らまで慌てだした。
「なるほど――そういやブルードラゴンの被害は村の家畜に限らず森の魔物も襲われているんだっけ。魔物たちも怖がって逃げ出したってとこかな」
「……違う。多分そうじゃない」
「うん?」
ラヴォワに速攻否定された。気が付くとラヴォワは足を止め、ブツブツ呪文を呟いている。
呟いていくと、ラヴォワの周囲に青白いオーラが浮かび上がり、彼女を取り囲むように文字が浮かび上がってきた。魔術師が使う専門の、古代文字だ。
「ラヴォワ、お前何を……」
「しっ、黙ってなさい」
ロイが声をかけようとしたのを、マータが制止した。
アレンの万能さで忘れそうになるが、ラヴォワも魔術連盟が寄越した腕利きの魔術師なのだ。魔術に関する技術や知識ならアレンよりはるかに上である。
その幻想的な光景がいつまで続いたか、青白い光が消えていくと同時に古代文字も消え、やがてラヴォワが口を開いた。
「……やっぱり。この森……違う、この近辺はマナが異常に不足してる。そのせいで魔物たちはみんな逃げてしまった……」
「マナだって?」
ラヴォワの解析に眉をひそめた。
レッドもマナくらいは習って知っている。マナとは要するに魔力、それも自然界に存在する魔力の事だ。
魔力とは魔物や人族や亜人だけに存在するわけでなく、全ての動植物、そして自然界にもどこにでも存在する。大地や風、水にも当然の如くあり、魔術師は自ら持つ魔力と自然界にあるマナを魔力として吸収し魔術を行使する。
そのマナが、こんな自然あふれる森の中で切れるなんてあり得ないことだった。ラヴォワのいう通り異常事態としか言えない。
「全然無いって、どういうことだ? 理由は分かるか?」
「……はっきりとはまだ断言できないけど、多分……」
「おい! いつまで駄弁ってんだ! とっとと行くぞ!」
話を途中で遮られた。魔術を苦手とする亜人族にとって、意味の分からない与太話にしか聞こえなかったのだろう。ただでさえ悪い機嫌をより損ねてしまった。
ラヴォワの話は気になったが、これ以上刺激するのはまずいと判断し、先を急ぐことにした。
***
案内された洞窟は、入り口が意外に小さく二、三人が横並びで歩くのがせいぜいに見えた。
「この中にブルードラゴンが入って来るのか?」
「んなわけねえだろ。ブルードラゴン様はもっと山の上にある大穴から入るのさ。もっとも、人が入れるような深さじゃないけどな」
つまりこの山には酒瓶のような空洞が中にあり、ブルードラゴンはその空洞を通って地下にある住み処に飛んで入るそうだ。角度が急すぎてとても人間が降りれる穴ではなく、別の小さな抜け穴から入る必要があるという。
「なるほどね。しかし狭い穴だな……ゴブリンとか小型の魔物が住んでたりしないよな」
「笑わせるな。ブルードラゴン様の住み処だぞ? そんなチャチな魔物、こんなところに住んだりするもんかい」
また馬鹿にされた。いい加減敵意剥き出し過ぎてムカつきすら湧かなくなってしまった。レッドは「はぁ……」とため息をつきつつパーティの仲間に指示をする。
「まあとりあえず入ることにしよう。食料は一応あるし話の限りではそこまで深くないだろうから大丈夫かな。光源の魔道具はあるし光魔法は二人が使えるが、松明用の薪も用意した方が……」
「そんなもんいらねえよ」
なんて横から嗤われた。兎族だけでなく、アレン以外の亜人たちが全員にやけ面でこちらを見下している。
「は? いやそりゃ亜人は夜目がいいから別に大丈夫だろうが……」
「そうじゃねえ。ナヨっちい人族でもこの洞窟で松明も何もいらねえさ」
「……なんだと?」
意味が分からなかったが、促されるので仕方なく勇者パーティのたちは入ることにした。
そして少し洞窟を進んでいくとすぐ、亜人たちの言葉の意味を理解した。
「うわあ……」
アレンが思わず感嘆の息を漏らす。幻想的な光景に、レッドも思わず魅せられてしまった。
洞窟の中は、緑色に輝いていた。松明かランプが置かれているというのではなく、洞窟の壁面自体が輝いているのだ。
「凄いです……ヒカリゴケでしょうか。僕の故郷には無かったので初めて見ました」
「いや、ヒカリゴケって青っぽく光るんじゃなかったかな……俺も見たことは無いが」
ヒカリゴケとは洞窟や湿地帯などに多く生息する苔の一種で、発育の時に淡い光を放つ性質がある。暗い洞窟などでは光源代わりになるとして、わざと生やしているところもあるという話は聞いていた。
が、二人の会話にラヴォワは首を横に振って否定する。
「そうじゃない……これは魔光石の一種……この山の土には魔光石が含まれている……」
「魔光石だと?」
魔光石の名も授業で習ったことがあった。魔力を流すと、それに反応して光を放つ鉱石。魔力さえあればかなりの時間輝いていられるので、実のところ今持っている光源用の魔道具たちにも組み込まれている。つまりこの光は魔光石の原石たちが輝かせているわけだ。
「しかし、ずいぶんと爛々と輝いているな……魔光石の光なんて大したこと無いと思ってたけど、自然界ではこんなに強烈な光なのか?」
レッドは大して疑問に思ったわけでなく、つい口に出してだけのつもりで言ったのだが、ラヴォワはその発言に首を傾げてしまった。
「ラヴォワ?」
「……やっぱり変。自然界にもマナはあるから魔光石が輝いているのは変じゃないけど、ここまで強く光ったりしないはず……」
「なに、そうなのか?」
言われてみれば、先ほどこの近辺のマナは信じられないほど不足していると語られたばかりだった。その減少しているはずのマナが、この洞窟には多すぎるほど存在している。つまりこの美しい輝きも、この森が陥っている異常事態の一つなのだ。
これもブルードラゴンの狂暴化と関係あるのか、と言いたかったが、そんなことを言えばまた亜人たちを怒らせるだけだと黙っておいた。
そうして沈黙の中洞窟内を進み、ようやく開けたところに出た。
「ここは……」
そこは洞窟内に出来た大空洞であり、魔光石もあちらこちらで輝いて全体を照らしていた。
しかし、この大空洞においてそんなものは気にならなかった。
大空洞の中心にて寝そべっている、巨大なトカゲがに目が行くからである。
いや、それはトカゲではなかった。
体長は十メートルはゆうに有り、背中には大きな背びれと、畳まれてはいるが大きな羽を生やしている。
長い口に生えた牙は大きく鋭く尖り、三か月前に倒したシャドウウルフなどまるで比べ物にならない。もう一つ大きな特徴として、頭部から天を突くように伸びた二本の角もある。
体全体は、緑色の魔光石が輝く中でも分かるほど澄んだ、雲一つ無い空を思わせる青色――間違いなく、伝説のブルードラゴンであった。
「これが、ブルードラゴン様……」
その壮言たる様に、アレンのみならず同行した他の面々も飲まれていた。まさに神として崇められるだけのことはある。そう実感させる姿だった。
「……お前ら、気を付けろよ」
しばらくの間ブルードラゴンの雄々しさに圧巻させられていたが、兎族のリーダーに小さく釘を刺された。
「下手に騒いだり、魔法でも放ってみろ。ブルードラゴン様を怒らせるかもしれねえ。発情期以外は大人しいったって、警戒しないことに越したことは無いからな。普段は俺たちだって滅多に来ねえんだ。お前らも死にたくなかったら……」
なんて注意されていたその時、地面がグラグラと振動し始めた。
「地震か?」
「いや、ちょっとおかしいわよこれ!」
マータの発言通り、振動はどんどん強くなっていき、また揺れが上下左右とメチャクチャに荒れ狂っていく。まるで周囲の地面を何かが這いずり回っているようだった。
「お、お前ら、やっぱり何かしたんじゃないだろうな!」
「なわけねーだろ! 知らねえよ俺たちは!」
リーダーに胸倉を掴まれている時にも揺れは強さを増し、ついには空洞の壁が次々と割れていった。
割れた壁の中から、巨大な筒のような黄土色のものが飛び出してくる。
「あれは……!」
レッドたちは目を見開いた。
飛び出してきたのは、筒のような形をした大型の魔物だった。
ビッグワーム。その名の通り巨大なミミズ型の魔物であり、大きい種だと五メートルまで成長する。基本的に地底で生活する魔物で、地下に潜らない限りまず出会うことは無い。
「嘘でしょ、なんでこんなところにビッグワームが出てくるのよ!」
マータが動揺して叫ぶ。無理もない。
実はビッグワームは光を嫌う性質があるといい、明かりさえ持っていれば襲われない。人間が餌食になるのは、光源を絶やしてしまった時だけ。ましてや、こんな魔光石に包まれた場所に自分から出てくるなんてあり得ない。レッドも勉強した時にそれを覚えていた。
「話は後だっ! 全員気を付けろ!」
ビッグワームは何匹も現れてきた。ビッグワームは餌を見つければ容赦なく食らいついてくる獰猛な魔物だ。人間など一飲みで喰われてしまう。皆に警戒させる。
ロイは斧を構え、マータは懐から何らかの魔道具だろう棒状の武器を取り出した。ラヴォワも杖をビッグワームに向ける。
アレンは戦えないが、亜人たちを庇うように立ち塞がった。アレンも身を守ることくらいは出来るので、大丈夫だろうとレッドは判断する。
レッドも聖剣を抜いて両手に強く握る。聖剣から自身に力が注がれていき、恐れが消えていく。いつもの感覚であった。
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