猫と暮らす日々

ももがぶ

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語呂は大事です

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「ありがとうございました。本当に助かりました」
「いえいえ、また何かありましたらお気軽にお訪ね下さい」
「はい!」

女性が一礼すると、手に持っていたバッグから熨斗袋を取り出し、側にいた女性に差し出す。

「ありがとうございます」
「では……」

女性が立ち上がり、扉を開け退室すると奧に座っていた神主の格好をした男が漏らす。

「なあ、さっきのってネコの話だよな?」
「ええ、そうですけど? それが何か?」
「何かってお前……ここにサテライトを出すって言ったのはお前だろ。確かに人は来るけど、来るのはネコのことの悩みばかりだ。一体、何がどうしてこうなった……」
「ハァ~今更何を言うのかと思えば……いいですか? 山奥の神社に人が来ないからどうにか出来ないかってことで、知り合いの大家さんに頼んで、ここを借りたんでしょ。忘れたの?」

女性が言うようにここは商業施設の中のビルの一室で、知り合いの大家から格安で借り受け、山奥の神社のサテライト施設を用意したと言う訳だ。

「でもよ~なんでネコばっかりなんだ?」
「あ~それ。それはね、これのせいじゃないかな?」

女性がそう言って取り出したのは、ここを開設するに当たり作ったチラシだった。

そのチラシには『悩みごと引き受けます』と書かれていた。

「これが?」
「分からない?」
「全く……」
「この番号は分かる?」
「確か、ここの番号だろ?」
「そうよ。読んでみて」
「読む?」
「番号を登録した時の語呂があるでしょ。それを口に出して読んでみてよ」
「え~と、確か……250783不幸お悩み……だったよな」
「そうよね。なら、なんでそれをチラシに書かなかったの?」
「いや、確かそう言うのは書いちゃダメだと聞いていたから……」
「そうね。でも、それはこの場合ケースには適用されないから」
「え、そうなの?」
「そう。それで、この番号がなんて呼ばれているかと言えば……250783ニャンコのお悩み……って読まれているの」
「ハァ~なんでだ?」
「なんでって、それはコレのせいでしょうが! コレ!」

女性が怒気を抑えながらチラシの一点を指す。そこにはクロネコの猫耳と尻尾を着けた巫女服姿の女性だった。

「我ながら、良い写真を用意出来たと思っているんだけどな。ダメなのか?」
「ダメに決まっているでしょ! なんでよりによってこの写真を使うのよ! 誰にも見せないって言うから、撮らせてあげたのに……」
「そりゃ、悪かったよ。でも、なんでコレが原因なんだ?」

女性はハァ~と短く嘆息すると、男性を睨み付ける。

「いい! このネコのコスプレにニャンコの語呂合わせ。これだけで、ネコのことを相談する場所だと思うでしょ!」
「え~まさか……」
「そうね。まさかと思いたいけど、次の人が待っているわよ。呼ぶわね」
「ああ……」

女性が扉を開けると高齢の女性が入ってくる。

「お願いします」
「はい。今日はどうしました?」
「はい、ネコが粉薬を飲んでくれなくて……」

男性はまたネコのことかと一瞬天を仰ぐが女性を真っ直ぐに見据えると口を開く。

「いいですか。粉薬は水で溶いてスポイトを使って飲ませるのがよいでしょう」
「はぁ……ですが、それだと全部飲ませるのに時間が掛かるのでは……」
「そうですか……ならば、粉薬をオブラートで包んで飲ませて下さい。それならばどうでしょう?」
「オブラートですか。確かにそれなら、出来そうですね。分かりました。やってみます!」
「はい。頑張って下さい」
「はい。ありがとうございます」

女性は立ち上がり、バッグから熨斗袋を取り出すと女性に差し出し退室する。

「やっぱり、ネコのことだったな~」
「そうですね。でも、ちゃんと解決しているじゃないですか」
「それもそうだな。よし、次だ次!」
「はい。じゃあ次もよろしくね」

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