『そうぞうしてごらん』っていうけどさ。どうしろっていうのさ!

ももがぶ

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第一章 ようこそ、異世界へ

第三話 勇者しかいらないんだと

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鑑定した結果を見た想太がため息を吐く。
「よりによって、コイツかよ……」
想太が、そう呟くと横にいた豪太が「どうした?」と聞いてくる。
そんな豪太を想太はチラリと見るが、脳内地図では黄色のままだったので、返事も素っ気なくなる。
「別に……」
「そうか? じゃあ、行くか」
「え? どこへ?」
「さっき、おじさんが言ってただろ。聞いてないのか? どうやら、この国の王様の前に行くらしいぞ」
「へぇ、やっぱり異世界なんだね」
「想太、ホントに大丈夫か?」
「大丈夫だから。気にしないで」
豪太の気遣いも今の想太には上辺だけのものに見えてしまい、どうしても素っ気なくなってしまう。
それから会話らしい会話もなく、クラスの皆と廊下を歩き大きく豪華な扉の前に並べられる。
扉の両脇には金属鎧を身に纏い槍を持つ衛兵がいた。
「静かに! これより王の前にてお主ら召喚者を他の貴族に対しお披露目を行う。くれぐれも失礼の無いように! まずは……」
扉の前で宗太達に注意事項と王から「面を上げよ」と言われるまでは片膝を着いた状態でいるようにと言われる。
「無理矢理連れて来られてコレかよ」
「こういう時に暴れてこその龍壱だろ?」
「そういや、龍壱も委員長もいないな?」
「あれ、朝香もいない」
ここで他のクラスメイトも朝香や委員長とか何名かいないことに気付き騒つくが、すぐに「静かに!」と注意され大人しくなる。
「「開場!」」
号令と共に両脇に立っていた衛兵が重そうな扉を内側へと押し開く。
開かれた扉の先には体育館よりも広い空間で、中央に幅五メートルほどの赤い絨毯が奥まで敷き詰められ、途中には大きな柱が高い天井を支えているのが見られる。
そして、赤い絨毯の終端は一段高くなっていて、大きく豪華な椅子に太めの中年男性が豪華な服を着て、重そうな王冠を頭に載せて座っている。多分アレが王様なんだろうと誰の目にも明らかだ。
「衛兵の立つ場所まで進んだら、跪くんだ。行け!」
偉そうなおじさんに言われるままクラスメイトが整列し言われた位置まで進むと跪く。
「ふむ、そなたらが勇者の仲間か。面を上げよ」
王に命じられ想太が顔を上げると、太った王様と、その両脇に中年男性が二人、そしてその横には白い修道女の様な格好をした朝香と雰囲気魔導師な委員長に見るからに勇者といった様相の龍壱が壇上に立っていた。
クラスメイトも朝香達の姿に気付く。
「『勇者』のスキルがあれば……あそこには俺が立っているハズだったのに……」
「『魔導師』は委員長か」
「なんで『聖女』のスキルを持った私がこっちなの!」
その言葉に想太はビクッとなる。『『聖女』のスキル持ちには注意してね』と言われたのを思いだしたからだ。
想太が誰なのかを確認しようとすると、回りがワッと騒ぎ立つ。
どうやら朝香が想太に気付いたようで小さく想太に向かって手を振ると回りの貴族から歓声が上がる。そして、周りにいた貴族が騒ぎ出す。
「オ~! 聖女様がこちらに向かって手を振られたぞ!」
「あれは私にだな」
「これはおかしなことを。私に決まっているだろ」

結局、想太は誰が『聖女』なのかは確認出来なかったが朝香が困った顔をしていることに気付く。
『朝香が困っているみたいだけど、話しに行く訳にもいかないよな』
『お話になればいいでしょ?』
『無理だよ。だって、王様の横にいるんだよ。行った途端に『無礼打ち』にされるって』
『ふぅ~いいですか、ソウタは『創造』することが出来るんですよ。言い換えれば出来ないことはないんです。いい加減、自分の力に気付いて下さい』
『そうだけど、この状態で何をどうすりゃいいのさ』
『そんなの簡単です。『念話』ですよ。『念話』』
『あっ『念話』か。確かにあれば便利だね』
『だから、じゃなく、作ればいいでしょ。ってことで『念話』スキルを創造! これでソウタの言葉をアサカに伝えることが出来ますよ』
『ホントに? じゃやってみるか。朝香聞こえる?』
朝香が一瞬、ビクッと体を震わせてから想太を見る。そして、想太が頷くと朝香もブンブンと勢いよく頭を縦に振る。
『あれ? 朝香の声が聞こえないけど?』
『いいですか『念話』は相手にですから。双方向で会話するならアサカも『念話』スキルが必要になります。当たり前でしょ?』
『なら、会話なんて出来ないじゃん!』
『だから、いいだけの話でしょ。では、創造しましょう! 『付与』スキルを取得しました』
『ちょっと待って。『付与』って触って使うんじゃないの?』
『もう、本当に十六歳の若者ですか? その頭の固さはどうにかしないといけませんね。『付与』なら、その緑色の光点に触れてから『付与』スキルを使えばいいんですよ。ほら、やってみて下さい』
『分かったよ。やってみる』
脳内アシスタントに言われた通りに朝香を示す緑色の光点に触れ『念話』スキルを付与すると、朝香にもう一度念話で、声を掛けると『俺に向かって頭の中で話しかけて』とお願いする。すると、すぐに朝香から念話が届く。
『想太! 想太だよね?』
朝香が心配そうにするので、想太が朝香に対し頷いてみせる。
すると、朝香は安心したのか、少しだけ涙ぐむと想太に部屋に連れて行かれてからのことを話し出す。
想太が慌てて話を止めると、まずは今の『念話』スキルを隠蔽することを頼む。
しかし、朝香は分からないし、そんなことは出来ないと言い、また涙ぐむのが遠くからでも確認出来た。
『ここは私の出番ですね。アサカにもアシスタントを付与して下さい』
『え? 付与って……お前、スキルだったの?』
『正確には違いますが、ソウタなら可能でしょ。ほら、回りに気付かれる前にさっさとして下さい』
『分かったよ。じゃ、『アシスタント』を付与。出来れば、女性で』
緑色の光点に触れながら、念じると朝香の体が震え、視線が泳ぐ。
『そうだよね。いきなり頭の中で声がしたら驚くよね』
『分かっていたのなら、先に言ってよ! え? そんなことをしている暇はない? 向こうから送られてくるスキルを黙って受け入れろ……分かったわよ。でも、謝らないからね』
朝香から承諾とも取れる返事があったので、想太は脳内アシスタントと一緒に朝香にスキルを好き放題に付与すると、あとは朝香の脳内アシスタントに整理をお願いすることにした。
『これで朝香はとりあえず被害を受けることはないよね』
『そうですね。ですが、それはこれからのお話だと思いますよ』
『え?』
想太が脳内アシスタントの言葉にビックリしていると前を見るようにと注意される。

皆が王に注目していると玉座に座る王が想太達を一瞥し、横に立つ中年男性に何やら耳打ちする。すると、その中年男性が騎士達に命じるとクラスメイトを取り囲む。
「な、なんのつもりだ!」
一人の男子生徒が騎士が構えた槍を片手で押さえると「触るな!」と騎士が激高し、その男子生徒を持っていた槍で打ち据える。
すると周りにいた生徒から悲鳴が上がる。
朝香の顔も青ざめるが委員長と龍壱は「ふん」と鼻で笑っている。
「騒ぐな!」
別の騎士に一喝され、クラスメイト達は俯き黙る。中には泣きだしたクラスメイトもいたが、側にいたクラスメイトがなんとか宥めて静かにさせる。
『想太! だいじょうぶなの?』
『俺は大丈夫だけど……』
『私が治療出来ればいいんだけど、ゴメンね』
『それは大丈夫。死なない限りは俺がなんとか出来るから』
『え?』
『詳細は、そっちのアシスタントに聞いてね』
『出来れば、想太に直接教えて欲しかったのに……』
『でも、そんな時間は取れないよ。ゴメンね』
『そうね。そっちも気を付けてね』
朝香と念話を切ると想太達の前に偉そうなおじさんが立ち、話し始める。
「いいか、よく聞け! お前達のスキルは私達が求めた物ではない。だが、元の場所へ返すことも出来ない。なので、お前達にはこの国の民として生活してもらう。まあ、私達もいきなりお前達を城の外へ放り出すほどの冷血漢でもない。お前達がこの国で最低限の生活に困らないように貨幣価値や周りの国との状況など一般常識を教えてやろう。期間は最長で半年だ。その間、城から出て行くのとは構わんが、二度と城に入ることは出来ないし、国民であることを示す身分証も与えることは出来ないと言うことを覚えておけ。では、連れて行け!」
「「「はっ!」」」
側に控えていた衛士を先頭に謁見の間から追い出されるように出て行き、しばらく場内を歩くと小さな扉が左右に並ぶ薄暗い廊下が見えてきた。
「女は向かって右の扉の部屋だ。男は左だ。後から、お前達の面倒を見る執事長から話がある。準備が出来たら呼ぶので、部屋の中で待機しているように。俺からの話は以上だ。ではそれぞれの部屋に入れ」
衛士に言われ、クラスメイトが少しでもいい部屋をと走り出す。
想太はと言えば、慌てることなくゆっくり歩き奥の部屋を目指す。
奥の部屋に着くまでに想太が一度、振り返ると他のクラスメイトはそれぞれの部屋に入ったらしく廊下には誰もいなかったが、黙ってこっちを見ている衛士と目が合い、なんとなく会釈をしてから部屋に入る。
衛士は想太が部屋に入るのを見届けてから「アイツらも可哀想に……」と、そんな言葉を残して自分の持ち場へと戻る。

想太は与えられた奧の部屋に入ると「非道いな」と思わず零す。
ベッドはあるが、その上に載っているのは単なる布で綿が入っているとは思えないくらいに薄く固い物だった。
「コレに寝るのか……」
固いだけでなく、なんとなく虫が湧いてそうな布状の物を見てそう呟く想太に『なら、作りましょう』と脳内アシスタントが妙なことを言う。
「作るって、何を? 俺が作れるのはスキルだけじゃないの?」
『誰が『スキルだけ』といいました?』
「え?」
『はぁ~まったく……人の話を全然聞いてないんですね。いいですか? ソウタに出来ないことはまずないと言いましたよね? 覚えていますか?』
「なんとなくだけど……」
『ふぅ~入る人を間違えましたかね』
「え? 『入る人』?」
『まあ、いいです。それより普通に話していますが、大丈夫ですか?』
「何? 見ての通り部屋には俺一人だけど……」
『全く……ソウタの国が平和ぼけしていると聞いてますが、その通りですね。では、これはどう説明します?』
そう言って、想太に脳内アシスタントが地図を視界いっぱいに表示させると、想太を示す光点に一つの白い光点が重なっている。
「え? これ『だから声に出さない!』……あっ」
『じゃあ、これってやっぱり、そう言うことなの?』
『まあ、ソウタ専門の監視担当でしょうね』
『俺を監視するの? そんなことして意味があるのかな?』
『まあ、ソウタをではなく全員が対象ですからね。安全だと分かるまでは監視が付くのでしょう』
『え~もっと窮屈になるの~』
『それでどうします? このままだとベッドも作り替えることが出来ませんよ?』
『それは困るよ』
『では、始末しますか』
『始末?』
『ええ、言葉通りの意味ですよ』
『ちょっと待ってよ! それだと俺は死体の下で寝るってこと? 止めてよ、そんなの』
『ならば、寝てもらいましょ』
『そんなことしなくてもその内、いなくなるんじゃないの?』
『そうなら、いいんですけどね。私の考えでは二、三日は張り付かれると思いますよ』
『うっ……確かにそうかも』
『では、早速取得しますか。『闇魔法』スキル取得あ~んど隠蔽実行!』
『なんか楽しんでない?』
『そう思います? まあ、楽しみなんてこれくらいですから大目に見て下さいね。では、その監視者に対して『睡眠』を実行してください』
『スキルじゃないの?』
『ええ、取得した闇魔法の一つ、睡眠を実行して下さいね』
『これが初めての魔法か。魔法がスキルの一部なんてね。まあ、いっか』
想太が自分の位置と重なる白い光点に対し闇魔法の一つである『睡眠』を実行する。
『では、鑑定して確かめましょう』
『分かったよ』
想太が白い光点に対し、鑑定を掛けると『睡眠中』と表示されたのを確認出来た。
『では、今の内に作ってしまいましょう。まずは『擬態ダミー』を取得します。そして作った擬態をベッドに寝かせて下さい』
『えっとまずは『擬態』と……うわぁ!』
想太はスキルを唱えると思わず悲鳴を上げてしまう。それも無理はないだろう。スキルを実行した途端に自分と瓜二つな人形がそこに横たわっている。
それはピクリとも動かず人形とは思えないほどの質感を持ち、まるで想太の死体のようだった。
『これを持つの? いくら人形でも自分とそっくりだとイヤだな』
『早くしないと、上の奴が目を覚ましてしまいますよ』
『あ~もう』
想太が覚悟を決めたように人形を持ち上げるとベッドに横たえる。
『うわっ、こっち見るなよ』
想太は人形の目をそっと閉じ、なんとなく横向きに寝かせる。
『では、別空間を作りましょう』
『はい?』
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