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第一章 ようこそ、異世界へ

第五話 黙って掛かりますから

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想太が鑑定してみて豪太が『詐欺』スキルを持っているのが分かった。
『私が思うには、彼がこの異世界で生きていくために必要だと思ったのでしょうね』
『どうして?』
『ソウタは異世界についてラノベで知識を蓄えたのでしょ。その世界では『人権』はありましたか? 『犯罪』についてはどうですか?』
『あ~そういうこと。腕っ節に自信がないのなら、口で勝負ってことなのかな』
『まあ、そうなんでしょうね。そしてスキルレベルを上げるには嘘を付きまくるしかない。その為には騙しやすいソウタはいい的なんでしょうね』
『そんな……』
『で、どうします?』
アツシがどうするかと想太に確認するが、想太はアツシが何を言いたいのか理解したが口に出すのがイヤなのか、惚けてみる。
『え? どうするってのは?』
『ふぅ~相変わらず反応が鈍いですね。仕返しに決まっているでしょ。いいんですか? 仕返ししなくても?』
『いいよ、面倒だから』
『それだと、面白くないんですけどね。まあ、いいです。別の機会に取っておきましょう』
アツシが言った『面白くない』に想太は引っ掛かりを覚える。『面白くない』のは想太にとってではない。なら、アツシにとってなのか? それとも、あの手紙の差出人にとってなのかと考えてみるが、今の段階では結論を出せるはずもないので、今は仕返しする気はないと断る。
『いや、しないから』
『でも、気変わりするかもしれないですし。私の心のメモに『ゴウタ+1』としておきます』
『心って』
『失礼な! 私をなんだと思っているんですか』
『何ってなんなの? 姿も見えないし』
『それもそうでした。では、私のことはいいので目の前の食事を済ませましょう』
『え? いつの間に』
想太が頭の中でアツシとの会話に夢中になっていた間に配膳された夕食が目の前に並んでいる。
「……」
『食べないんですか?』
『食べようとしたんだけど……ちょっとね』
『ふむ、では鑑定してみましょうか』
『え?』
『ふぅ~いいですか? 相手はあなた達を拉致した人達ですよ。なぜ、安心だと信用出来るんですか?』
『そうか。そう言われればそうだよね。よし、『鑑定』……えっ? マジで』
『ふふふ、私のお陰ですね』
「どうしました? お気に召しませんか?」
「あ、すみません。そういう訳ではないのですが、お昼を食べ過ぎたみたいで……」
「そうですか。ですが、無理はよくありませんね。食べられないのなら、残してもいいですよ」
「ありがとうございます」
目の前に並ぶ料理に手をつける素振りを見せない想太に気付いたメイドの一人が想太に近付き声を掛ける。想太は満腹を理由に断るが、本当は料理の中に弱毒性のマヒを起こす何かが含まれていたからだ。
『これって、絶対にあとで面倒事が待ってるよね』
『そうでしょうね。一服盛ってマヒさせて何をするつもりなのかは不明ですが、このまま食事に手もつけずにいると、痛い目にあいそうですね』
『え~それはイヤだな』
『それがイヤなら、目の前の食事を食べた方がいいでしょう。体内に入った毒なら無効に出来ますから。遠慮なく食べなさい』
『でも、それだとマヒしないんじゃないの?』
『そこはソウタの演技力に掛かってますね』
『なら、ダメじゃん』
『その辺は私の方で処理しますので、食事を済ませて下さい』
『分かった。頼むね』
『賜りました。さて、ソウタが食事している間に必要なスキルを取得しますね。まずは『精神耐性』に『魔法攻撃耐性』『物理攻撃耐性』『毒物耐性』とこれだけあれば対応可能でしょう。あ、忘れてました。ソウタの演技力では看過されないでしょうね。なので、『演技』スキルも取得しておきましょう』
食事を取りながら想太は自分の頭の中でウィンドウショッピングをするような感覚で色んなスキルを取得していくアツシを思い、自分がどんな風に改造されるのか少しだけ不安になる。
想太はあまりおいしいとも言えない食事を済ませると、回りの様子を確認する。
そして、クラスメイトがパタリパタリとまるでドミノの様に順番に倒れていくのを目にしてしまったことで想太は緊張してしまい心臓が今まで経験したことがないくらいに早鐘を打つ。
『来た来た~』
ドミノの順番がついに想太の隣に迫って来て、想太は緊張からガチガチになっている。
『そんなに緊張していると、失敗しますよ。ほら、力を抜いて、深呼吸しましょうか。はい、吸って~吐いて~。うん、いい感じにリラックス出来た様ですね。では『演技』スキルを有効にしましょう』
『え、『演技』スキルって?』
『はい、順番が来ましたよ。はい、寝る!』
『あ、うん』
その言葉を切っ掛けに想太がガクッと寝落ちした……ように見せ掛ける。
「最後の子は反応が遅かったようだけど、ちゃんと効いたのか?」
「心配はいりませんよ。最初はなかなか食事に手を着けなかったのでどうしたものかと思いましたが、匂いに食欲が刺激されたのかキレイに平らげましたから」
「そうですか。では、手筈通りにお願いしますね」
「分かりました。お任せ下さい」
「頼みましたよ」
トーマスがメイドに後を任せて食堂から出て行く。
「さてと、運び出しますか。誰か、衛士を呼んで来て」
「はい」
一人のメイドが食堂の外で待機していた衛士を呼びに行き、他のメイドは椅子に座ったままぐったりしているクラスメイトを椅子から降ろし、衛士が用意した担架の様な物に乗せられる。そして、そのまま食堂の外へと運び出される。
『まだですよ。まだ動かないで下さいね』
『分かってるよ。でも、本当に大丈夫なんだよね?』
『今の所は……ですが、万が一の時はお願いしますね』
『何それ?』
『あくまでも万が一ということですから』
そんな会話をしている内にいよいよ想太の番になる。想太は寝たふりの為、体の力を抜き運びだそうとする相手に身を委ねる。
『どこに連れて行かれるんでしょうね。私、ドキドキしてきました!』
『俺は不安でしかないけどね』

担架に乗せられて、どこに連れて行かれるのかと想太は自分の視界に表示される地図で確認していた。
やがて、廊下の奥にある講堂の様な場所に他のクラスメイトと一緒に担架のまま床に置かれる。
『今から何が始まるんでしょうね。ワクワクしません?』
『しないから!』
『あ、ほら、始まるみたいですよ。誰か入って来ました』
目も開けられない想太は、地図スキルに表示される五つの赤い光点を黙って見詰める。
「では、これより『隷属化魔法』を行使する」
「「「「はっ!」」」」
一人が声を掛けると残りの四人がクラスメイトを囲むように四隅に散らばる。
『何が始まるんだろう? 隷属化って言ってたけど……』
『ワクワクしますね。ね?』
『しないから!』
それでも想太は老人らしい男の声が言った『隷属化魔法』のことが気になる。
『隷属化って、やっぱりアレだよな』
『ええ、アレです。奴隷として扱う……そういうことですね』
『ねえ、それってどうにか出来ない?』
『どうにかとは?』
『だから、その魔法の影響を受けないようにしたいってこと』
『ああ、そういうことですか。心配しなくてもソウタには無効ですよ。ちゃんと耐性系のスキルを取得しておきましたから』
想太がアツシに隷属化魔法を無効に出来ないかと聞くと想太自身には無効になるとアツシに言われ一瞬ホッとするが想太はそうじゃないと否定する。
『違うんだ。俺だけじゃなくて、皆を助けたいんだ』
『本気ですか?』
『うん、本気だよ』
『助ける価値があると本当に思っています?』
『そりゃ、中には仲がよくない子も……正直、気に入らない子もいるけどさ。今は助けたいって気持ちの方が大きいんだ。それに朝香が知ったら泣くだろうし、怒ると思う』
『日本人だからクラスメイトだから助けたいと言うんですね。ですが今からそんな気持ちではいつか痛い目に遭うかもしれませんよ』
アツシに言われ、想太は自分がどれだけ甘いことを考えているのかを改めて思う。それにクラスメイトを助けたとしても誰にも知られることはないし、誰かが感謝してくれることもないのも分かっている。それにもし、助けたことがばれたら今度は想太自身が危うくなる。
だが、それでも構わないと想太がアツシに訴える。
『分かってる。自分が甘いと思われることをしようとしているのは十分に分かっている。でも、ここにはまだ朝香もいるんだ。それに朝香は俺がどうにか出来る手段を持っていることは知っている。それなのに何もしなかったことが朝香に知られたら、俺は朝香に軽蔑されるだろう。それだけは避けたい』
『分かりました。ですが、今はそのまま魔法に掛かりましょう』
アツシに訴えた想太だがアツシには『そのまま』と暗に断られる。
『どうして?』
『どうしてって、もしここで隷属化が成功しなかったらどうなると思いますか?』
『どうなるって……どうなるの?』
『最悪、全員始末される可能性があります』
『え~いくらなんでもそこまでは……』
『ないと言えますか』
『そうだった。ここは日本とは違うんだよね』
『そういうことです』
アツシからなんでこのまま何もせずにこのまま隷属化魔法にかかるのか説明を求めると、逆にアツシから魔法に掛からなかった場合の話をされる。
それに対し想太は反論しようとするが、ここは日本とは違うことを思い出し、ないとは言えないと理解する。
『分かったよ。でも掛かったフリなんて俺に出来るかな』
『そこは『演技』スキルに身を委ねなさい』
『そうだね』
『さあ、お待ちかねの魔法の行使の時間ですよ。それにしても詠唱が長過ぎです。では、ソウタ。ここからはあなたの『演技』スキル次第です。バレないようにするのはもちろんですが、『演技』スキルに逆らって不自然にならないようにお願いしますよ』
『……分かったよ』
「……隷属せよ!」
「「「「隷属せよ!」」」」
『来ました! いいですね、自然体ですよ。自然に』
『分かってるから、あまり言われると体に力が入るから止めてよね』
『これは失礼しました。では、私は観客者に徹しましょう』
『ちょっとは助言してもいいんだよ?』
『それは状況次第で。ほら、ビクッとしないと』
『頼んだよ『演技』スキル!』
その願いが叶ったのか、想太の体がビクッと跳ねる。
『ちょっと、演技過剰じゃないですか?』
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