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第1章

30 屋敷

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美しい屋敷だ。屋敷を取り囲むように様々な色合の花に囲まれて蜜の甘い香りに包まれている。
白く壁が塗られていて苺のショートケーキのようであり、よく絵画等で外国の風景で描かれる純粋な洋館という風貌だ。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま。お客様をお連れしたわ。歓迎してちょうだいな」

メリンダが戻るとたくさんの召使いに出迎えられた。
立派なソファが置かれた寛げるスペースに案内された。

「お腹が空いたでしょう。今、簡単に食べられる物をつくってもらっているわ。」

「!それは、すごく助かります!」

朝ごはんはしっかりと食べてきたが、昼ごはんはあの騒動があり食べていない。
お腹の虫がぐーっとなった。取り合えず空きっ腹はつらいだろう、とミルクティを出してくれた。
可愛らしい花柄の優雅なティカップだ。いただきます、と少し緊張して翠はお茶を飲む。仄かな甘さが染み渡る。ほお、っと息をゆっくりと吐いた。

ふと、男子を見るとマドカが花柄のティカップで紅茶を飲む姿は何の違和感もないし、ライゼは生まれながらの品の良さが醸し出されているようで絵になっていた。

(……王子様、か。ライゼ様に助けてもらったお礼まだ言ってないな)

あの時、ライゼの言葉がなかったら、翠は動けないでいた。

「…そういえばまだあなたのお名前を聞いていなかったですわね」

メリンダに名前を尋ねられて翠はえと、と一瞬口ごもる。ライゼとゴブタンには自分は男だと言っている。

「翠っていいます。あの、私は今、男の子の服を着ているけど女です…ごめんなさい、嘘をついてました」

どんな嘘でもやはり友達になりたい人に嘘をついて騙していては駄目だと考え直した。翠はライゼに向き直ると頭を下げて謝った。

「お前が女だってことは最初から分かってる…男と女とじゃ骨骼が違うだろ」

「え、骨骼ってそんなに違いますか?」

「…全然違うだろ。ほら、…」

ライゼは翠の腕に自らの腕をくっつけた。純粋に比べて教えようとしただけだが、その間にマドカが割って入る。

「ミドリに触らないでよ、すけべ王子」

不機嫌な感情を隠そうとしていない。むす、と目が細くなり塀から人間を見下ろしている人になつかない猫のような表情をしている。

「はあ?何だと!もう一度言ってみろよ、くそ猫」

子供の喧嘩か。二人の様子を呑気に見ていたが、ふとリュカが怖がらないか、と心配になる。腹部を撫でて様子を見るがすやすや、と安らかな寝息が聞こえて安堵した。

「…ミドリ、…聞いてもよろしいか分からないのですけれどあの竜はなんですの?」

メリンダは口に出した。気になるのは当然のことだ。
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