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「おまえ、おとこのクセにピンク色のカバンつかってるのかよ!きもちわるやつ!」

知らない子から初めまして、の挨拶よりも先に悪口を言われた。
悠真は驚いて口がぽかんと中途半端に開いてその子を凝視していたが、お気に入りのカバンを馬鹿にされた事に気付くと不快な気持ちが胸に広がって幼い眉を寄せた。

「なんだよ!おとことかおんなとかかんけいないだろ!おまえこそ、脳ミソ昭和で時代についていけてねぇな、ばーーーか!」

大人しそうな外見の悠真に言い返されて大地は一瞬怯んだ。
悠真は肌が白くて二重瞼で瞳が薄い茶色。大きめな目とバランスが取れた鼻、桜の花弁のような唇。そこら辺の女の子よりも可愛らしい。
眠たげな垂れ目をしておりのんびりな性格を持っていそうだが、口は達者で頭の回転が早くて兄からはくそ生意気な弟という扱い方をされている。

「はぁ?おまえ、かげでわらわれてたぞ!おとこのクセにピンク色のカバンなんかさげてきもちわるいってな」

大地は負けじと悠真をにらみ返して言い返した。

その言葉に思わず悠真は周囲を見渡した。確かにピンク色やら赤やら、華やかな色合いのモノを使っている男の子はいなかった。

それが幼稚園の初日の出来事で、家の外に出て家族以外の人間と数時間過ごした。帰る間際で嫌な気持ちになった。
祖母が手作りしてくれたピンク色のカバンを馬鹿にする奴らが通う幼稚園が嫌いになった。大地の顔を見たくない。明日、仮病を使ってサボろう。

(あいつ、ムカつく!!)

大地の言葉が頭から離れない。
家に帰ってもムカムカと腹の虫が治まらない。大学生でアルバイトから帰ってきた双子の上の兄、斗真を捕まえてお馬さんごっこに付き合わせた。
ズレた眼鏡を指で押し上げて直すと悠真を抱き上げた。

「もうおしまい。悠ちゃん、お風呂入ってねんねしよ」

「やだ。まだ、とうまとあそぶ!」

お風呂好きな悠真はいつもなら素直に言うことをきくが、駄々を捏ねて困らせたい気分だったので嫌々と首を横に振った。

「おい、幼稚園で何があったか知らねえけど八つ当たりして斗真を困らせんなよ」

見かねた拓真が横から口を出して悠真を斗真から受け取ると米俵を担ぐようにして浴室へと運んだ。
湯がたまった浴槽に悠真が気に入っている入浴剤を入れた。桃ミルクの香りが鼻を擽り少しだけ気が治まった。
髪と身体を洗ってもらうと二人で湯船に入った。心地がよくはぁ~~と5歳らしくない声が洩れる。

「おっさんかよ」

拓真は可笑しそうに喉を震わせ笑った。
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