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結局、兄達に迷惑をかけたくないと考え直し悠真は気乗りしない気分だったが幼稚園に来た。
それぞれ遊具で思い思いに遊んでいる。
ただ、遊んでいればいいだけなのに憂鬱なのは嫌な事を言われるからだ。

「おまえ、ばかなのか?また、ピンク色のカバンもちやがって、きもちわるい」

大地が悠真が持っているカバンを見て呆れたような顔で近寄ってきた。
目付きの悪い薄汚い野良犬を追い払うようにしっしっ!と払う。

「うるさい。おまえに関係ないだろ。あっちいけよ。おまえこそ、きらいなやつに話しかけるとかばかなのか?」

祖母と二人で過ごしてた時間は穏やかで優しかった。だけど、幼稚園で突っかかってくる大地の相手をするのは苛々として不穏な気持ちになる。ザラザラと心に細やかな傷がついていく。

「……おまえ、おとこなのにおんなの服きてただろ!へんたい!!」

しばらく口を閉ざしていた大地が悠真の堪忍袋を切らすような事を叫んだ。
気がついたら悠真は大地に掴み掛かり床へと押し倒していた。

一度だけ、家から居なくなった祖母を探すため女の子の服を着たまま慌てて外に出たことがあった。
それをよりにもよって大地に見られていたとは。物凄く恥ずかしくて嫌だった。
羞恥と屈辱で顔が真っ赤になった。
悠真は15才も年が離れた兄と喧嘩をしたことがない。本気で腹を立てたのがこの時が初めてだ。

「うるさい!おまえなんかきらいだ!!」

「おかま!へんたい!!」

悠真と大地が大声を出して叩き合い、引っ掻きあった。

「悠真君、大地君!2人ともやめなさい!」

騒ぎに気がついたもも組担当の先生が慌てて悠真を大地から引き離す。
悠真は大地を睨み付け威嚇するように低く唸った。心底、大地が嫌いだ。大嫌いだ。

「おまえなんか、だいっっっきらい!!」

喧嘩両成敗の方針であり、2人から事情を聞こうとするが悠真も大地も口を閉ざして黙っていた。謝りなさい、と先生が怖い顔で言ったが悠真は絶対に謝らなかった。
幼稚園に悠真を迎えにきた斗真が先生から悠真と大地が喧嘩して、頬に引っ掻き傷や脛に擦り傷が出来てしまったことを説明された。こちらの不手際ですみませんと先生は斗真に謝罪をしていた。

(……先生がとうまにあやまっている、先生はわるくないのに)

ちくり、と小さな胸が痛んだ。
しかし今は口を開きたくない。悠真は口をへの字に曲げた。
斗真は悠真の様子を見て困惑していた。
口達者でくそ生意気であるが、素直に謝れる聞き分けのいい弟が黙りを決め込むのは初めてでどう対応していいか斗真には分からなかった。
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