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「どうしたの?何があったか教えて」

二人は家に戻った。
口を固く閉ざしてうつ向いて親指をしゃぶって無言でいる悠真を抱き上げると斗真はソファに座った。
尋ねられても嫌々と首を横に振って悠真は仔犬のように低く唸りながら斗真の胸元へ顔を埋めた。
すっかり甘えん坊になってしまった。

ふと、初めて悠真に甘えられていると斗真は気づいた。弟の面倒を見てくれていたのは祖母である。その間、斗真と拓真は学生時代を楽しんで年の離れた弟とはあまり接してこなかった。
弟の誕生日をすっかり忘れて、当時付き合っていた彼女とデートしたりして。
きっと寂しい思いをさせた、とても反省している。今年の悠真の誕生日は盛大にしよう、と拓真とも話し合っている。

悠真は母親のぬくもりを知らずに育った。母親代わりの大好きな祖母も病気になってしまった。
精神的に無理をしている。

無理に心を開かせて、悠真に負担をかけさせるのはやめよう。
幼稚園も少し休ませた方がいいだろう。

「……悠真はいいこだよ。えらい。たくさん、我慢させてごめんね」

斗真は悠真の髪をゆっくりと撫でた。ソファに座ったまま抱っこした状態でゆりかごのように身体を揺らす。
うとうと、眠りへと誘われる。
斗真が眠りに落ちそうになった時、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
赤ちゃんがぐずるような声を出す悠真をいいこだから少し待っていてね、と声をかけてソファに寝かせて斗真は玄関に向かった。
ドアを開けると、小さな男の子が立っていた。

「おれ、もも組のくどうだいちっていいます。ゆうまくんにあまやりにきました!!」

手をもじもじとさせて、口ごもるが、えいと顔を上げてはっきりとした口調で大地は言った。

「そうか、君が大地君か。俺は悠真の兄の斗真です。今、悠真は寝ちゃったんだよね」

「……あした、ゆうま、ようちえんにくる?」

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