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「どうかな。悠真が幼稚園を休みたいって言ったら休ませるつもりだよ」

まだ悠真の意思を確認していない。大地と悠真との間に何があったのか知らない。
どういう言葉をかけていいか分からず、斗真は大地が胸のなかにためている考えを口に出す時までなにも言わず待った。

「……おれ、ゆうまにはおもってることと、いうことが、はんたいになる」

「反対って?」

「……かわいい、が、ブスとか」

大地が困ったように眉を下げる。その言葉をきいて、斗真は思わず噴き出して笑った。ようやく話が見えてきた。

「なるほどね」

大地は斗真に笑われて顔を赤らめた。
大人は子供のことを何でもお見通し、しちゃうから話したくない。
今回だって、大地が幼稚園から傷だらけで帰ってきて事情を問いただした兄が一言。

「お前、好きなこに意地悪してんじゃねぇよ」

好きなこ、という言葉に大地は衝撃を受けた。
悠真のことを好きという自覚はなかった。
だけど、悠真と目が合うと胸がドキン、と大きく脈打ち視線を外せない。誰にでも見せる顔よりも、大地だけに見せる色んな表情が見たい。
泣かせたい。涙で濡れた悠真の瞳はとても綺麗だった。
迷子のお婆さんを悠真と一緒に探したことを覚えていないのがモヤモヤして素直になれない一因でもある。

「……ねえ、このおばあちゃんみなかった?」

ある日、いぬの散歩を母親から言いつけられ大地はチビというポメラニアンのリードを掴んで引っ張りながらスマートフォンを弄っていた。
一旦、街角に止まると架空のモンスターを捕獲する。くうん、とチビが鼻を鳴らす。くいくいとリードを引っ張って先を促す。
そんな時に話しかけられ大地は顔をあげたら、物凄く可愛い女の子がいた。
心臓がどきどきどき、と早く脈打ち身体が火照った。

悠真を見て、一目惚れというものを大地はしたのである。
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