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しおりを挟む「ボランティア 金にはならぬ 貯金だよ」
「ほほう。人との絆や愛を貯金しているんですね」
「積み重ねって大切ですよ。目に見えないものだけどね。大切なものって形がないものが多い」
高校野球の武治はしんみりとした顔で悟りめいたことを言った。
何があったのだろうか。姉として気になる。
「どんな人に来てほしいのよ?」
マンゼはキラキラと期待に輝いている瞳で夢子と武治を見ている。
「わたくしの世界に住んでくださるなら年齢、種族、性別、世界は気にしません。魂がくさっているならわたくしがその根性魂を鍛え直します」
貪欲だな。幅広くばっちこい。
「マンゼ、私は夢子だ。夢子様とお呼び」
マンゼにまだ名前を教えてなかった、と夢子は思いつん、と顎をわざとらしく上げて偉そうな態度で名乗った。
「武治様、夢子様、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
マンゼは恭しくこうべを垂れた。
「いや、私と武治は世界おこし協力隊として頑張るのでやっぱり呼び捨てでいいよ。様付けされんのは違った」
「んだ。俺もそう思うっす。姉ちゃんの言う通りっす」
武治はシスコンと人懐っこい犬属性が備わっている。
世渡り上手になるだろう。
年上に可愛がられるタイプだ。長いものには巻かれておけ。
「とりあえず、お前のしょぼい世界を私らに見せてみろよ」
世界から人がいなくなる、とは。
どんなつまらない世界なのだろうか。
何が原因なのだろう。
素人であるが、引き受けたことだ。出きる限り頑張ろう。
オフは予定がないし、ボランティアしても支障がなかった。
もう恋人とは別れるし。
夢子はスマホを取り出すと岩村充という連絡先をブロックした。拒絶。勤め先は知っているが、あいつはスマートな男で争い事を嫌う。ブロックされた時点で察して、別れを受け入れるだろう。
ばいばい、人生で初めての恋人よ。
もう好きだ、とか告白されても舞い上がって即オッケーなんかしない。
煙草を吸う充の横顔が脳裏によぎる。
胸がきゅん、と痛んでさくらんぼのような唇を夢子は噛み締めた。
「では、わたくしの世界を武治と夢子を招待いたします。お足に気をつけてお越しください」
マンゼは胸元から赤い葉っぱのようなものを取り出した。それを受け取るとびびーーーん!!と身体に電流のバチバチが走り抜けて目の前が暗くなった。
パッチン!と意識が飛ぶと一瞬にしてマンゼが住む世界へと意識と身体が転送される。
いざ、異世界へ。
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