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プロローグ
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わたしの娘は耳がいい。
森の中ならば獣が寿命を全うして大地に倒れ付した音がきこえる。
とさ、という微かな音を耳が拾うとわたしの娘のリズはわたしの服を引っ張って教えてくれる。
わたしは他の獣に拐われる前に急いで幼いわが子、リズの手を繋いでそちらへと向かった。
地面に倒れ付したまだぬくもりを残す野うさぎの死骸の前に膝をついて座り祈る。
となりで祈るリズも神妙な顔をしている。
「……どうか、あなたの魂をうしなった器がわたしと娘、リズの血と肉にすることを許してください」
綺麗な布に包んで胸に抱くと家に戻った。
そして野うさぎを肉にして夕飯のスープを作った。
「おかあさん、すき!」
わたしの太腿に抱きついてリズが甘えにきた。
柔らかく丸み帯びたピンク色に染まるリズの頬が可愛らしい。
舌足らずが抜けきれずゆったりとした幼い口調で『おかあさんの事が大好き』という気持ちを何とかして伝えようと必死だ。
求愛する猫のように纏りついてわたしを円らな瞳で真剣に見つめている。
「リズ、わたしもリズの事がすきよ」
柔らかな優しい微笑みを浮かべてリズを抱き上げると夕飯のスープで汚れた娘の口元をハンカチで丁寧に拭いた。
リズはわたしも自分と同じ気持ちだと知り安堵して笑った。
じっくりコトコト煮込んで作ったスープが美味しくて作ってくれた事を感謝して『すき』の感情が暴れ出たのだろう。
「リズも大人になったらじょうずにお料理作れるようになる?」
「もちろんよ。教えてあげるから、一緒に作りましょうね」
希望に満ちたリズのいつも輝いている丸く大きな瞳がよりいっそう期待と喜びに光り輝いた。
わたしは楽しくなってつい声をあげて笑うと頭を優しく撫でて愛する娘を抱っこすると椅子に腰掛けた。
「でもね、リズ。大人になったらなんでもできるようになるんじゃないのよ。わたしはなにもできなかったの。いっぱい練習していっぱい失敗して、何とか作れるようになったのよ」
「……おかあさんんいっぱい、しっぱいしたの?」
何でも出来る母親が失敗したなんて信じられずリズは目を大きくして丸くして驚いている。
「ええ。おいしくないご飯を作って泣きながら食べたことあるわ」
「え!おかあさんもないたことあるの?」
「そうよ。おかあさんは泣き虫だったのよ。でもね、リズをうんで色んな痛みに強くなったの」
子供の前で母親は泣かない、と思う。
泣きたい時も堪えてきた。
リズはわたしの話に耳を傾けて真剣にきいてくれる。
出来なかったことが出来るようになった、それは幼心にも凄いことだと分かったのか尊敬の眼差しを素直に向ける。
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