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プロローグ
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しおりを挟むあの愛おしい人に会いたい。
己の命よりも何よりも主を慕い守る運命を背負う尊いひと。
わたしは彼の世話をする者達のうちの一人だった。
両親に捨てられ、睫毛を涙で凍らせ震える力もなくし凍死寸前のところ命を彼によって拾われた。
親の顔と声はもう記憶から消え失せている。
自分の体の中にどんな血が流れているのかも知らない。
不老長寿の彼と出会った頃は、まだ成長が止まる前だ。
月夜に獣の姿になった彼を初めて見たとき、彼はとても悲しい瞳をしていた。
「私がこわいか?」
「こわくなんかないわ。むしがこわくてさわれない、クーだもん。いじわるするけどたまにやさしくしてくれるクーだってわかるもん」
思いを口に出して初めて愛おしい気持ちが生まれた。その時、わたしは自分の持ち主の事が好きだと自覚したのだ。
「……私はサラと違う。神はお前達、人間をなにも出来ぬ赤子であるように扱う。人間と我々とは、命が生まれた星が異なる。我々、神狼は高貴な存在である。だけど、私はサラと一緒がよかった」
胸がきゅんと甘く締め付けられた。
今でもこの言葉を思い出すと同じ気持ちになる。
もう2度と会えないのだ。
意識をこの世に繋ぎ止めるすべをわたしは知らない。確実に自分の肉体は空になり魂は離れてあるべき所へおさまるだろう。
もう一度、抱き締めたい。
わが子と彼を……。
わたしは静かに息を引き取った。
【プロローグ 完 第一章へと続く】
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