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第一章
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しおりを挟む地上を見守り照らす光が月から太陽へと交代する。
リズが眠ると大きな獣の姿から人間の子供の姿に戻った。ふらり、と力を失い倒れそうになると師匠は優しく抱き止めた。
「……師匠、怒っている?」
眠るリズを背負って歩く師匠に緊張で掠れた声でロジはおずおずと後ろから尋ねた。
知らなかったとはいえ、ロジは人間の女の子の顔に傷付けて右目を奪ったと自責の念にかられていた。
獣の姿の時は罪悪感など胸にわかなかったが、今はすごく心が苦しい。
魔獣に殺された妹と同じ年頃で、「おかあさん」と泣きながら親指をしゃぶって眠る姿を見るとロジはあーー!と喚いて自分の頭を地面に打ち付けのたうち回りたくなる。
「……お前は俺を怒らせるようなことをしたのか」
淡々とした静かな声だ。
「だって僕はその子の目を……」
罪の意識からロジは視線を地面に落として唇を噛み締めた。
「ここは人里ではなく森だ。空腹を満たすため、獣も人間と同様に飢えを感じたら獲物を見つけ肉を獲る。……ロジよ、お前の境遇は悲惨であるがゆえ、だろう」
獣が人間を襲い殺すのはロジは我慢できない。
ロジの家族は獣によって食い殺された。
師匠の声は淡々としているが責める口調ではない。
「俺が怒るとしたら、食わずに獣を狩ろうとして憎しみにお前が喰われることだ」
なんてことしやがる!と怒鳴られて拳で殴られた方が楽になるのに、とロジは眉を下げた。
師匠の言葉が痛くて身にしみた。
人里に戻るとその足でまっすぐ医者のもとへと向かった。
木の屋根の小さい病院を訪ねると年老いた医者が白衣の姿で庭に咲く花に水をやっていた。
師匠の古くからの知り合いでジンという。
リズを見ると痛ましそうに目を細めた。
「ジン先生!この子の目はまた見えるようになる?」
「傷が深く眼球の損傷が激しい。残念だが光が戻ることはない」
よく通るはっきりとした声だ。
病状の説明を患者が納得するまでこれまで幾度もした口調。
「……代わりの眼球があればなおる?それならっ、僕の目を使って!!頼むよ、ジン先生!!」
ロジは地面に頭を擦り合わせて医者を拝んだ。
厳しい顔のジンは首を横にふった。
神をこえる技術を持つことは禁忌とされている。
治療は許させるが蘇生は許させない。
項垂れるロジの肩に師匠は大きな手のひらを置いた。じんわりとぬくもりが伝わる。
リズの損傷した眼球がなかで腐って悪さをしないように取り除き、水晶玉を眼球の代わりにうめた。空洞を好み巣くう魔物が入り込まないようにするためだ。
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