乙女よ、翔べ。

遊虎りん

文字の大きさ
上 下
6 / 14
第一章

しおりを挟む
鬼という生き物は、元々人間であったものだ。
この世界では家族や親しい友人に囲まれて亡くなり、地に亡骸を残して火で土に返されたものの魂は人間の界へとめぐる。

一方、鬼は命を他者に奪われて、孤独に亡くなり亡骸が腐り、干からびて消滅したものの魂は鬼の界へ押し込められる。
神を憎んで絶望して救われなかった哀れな人間の成れの果てが鬼であることを神と一部の人間しか知らない。
神によって臭いものには蓋をされるのだ。

この世界での神は、救うことなど希である。
神はこの世界に5体降りてきた。
ただ、人々が溢れないように調節し気まぐれに構うだけのお方達。人間の声に耳を傾けて下さる神はお一人だけ。そのお方は消えるのが近々で力が弱い。
人間は危険に晒されている。

鬼として目覚めたひとは飢餓を感じ、人間の界へと下り、自分と同じ血の匂いがする血肉をまず始めに食べる。
それから、血肉の味をしめて他の人間を襲い恐怖されるのを楽しみ、優越感にひたる。

刀の心は病んでおり、鬼を人間への界へといき、暴れよ、と命じる。
それを止めるために、刀がまつられているほこらへといき、心をなだめて眠るよう子守唄をうたう。
その時は無防備であり、暴れたい鬼が一ノ瀬の者に襲いかかる危険があるため守る役目が必要なのだ。

鬼を倒せるものはそういない。鬼以外にいるとしたら、強靭な身体とあらとあらゆるものに深い愛情を持つ人間だけである。
しおりを挟む

処理中です...