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第五章
アテルマ1
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ラィダはアテルマのしもべのように振る舞っているが彼は彼女の兄だった。
色彩がなく真っ白の赤子は珍しい。目一杯泣かなくても自然と空気を取り込んで肺が膨らんだ。良くない者が生まれたと占い師のババが手で顔を覆い尽くして神に助けを求めた。膨大な魔力は暴走し全てを破壊すると危惧された。
アテルマも両親によって存在を隠された子供だった。
「ラィダ、……ボクが死ぬ時が来たようだ」
アテルマは泣きつかれてくぼんだ目ともを濡らした顔を上げて掠れた声で言った。
ラィダも侵入者の気配を察知していたがアテルマの髪を撫でる手を止めなかった。
「……にーな、さま?」
忽然と空間移動魔法でティア達がニーナの生まれ変わりであるアテルマの前に現れた。
アテルマの魔力を押さえていた紋様も消えている。彼女に姿をくらます術はない、生命の灯が今にも消えようとしていた。
禁断の召喚魔法は命を削って発動させた。
最後の、八つ当たりだ。
アテルマは唇を歪めた。
レミィ、マティ、ロゼ、エメラルドの4人に守られているティアを眩しく感じる。
「……ボクはニーナの、一部でしかない。憎しみと怒りの感情……もうすぐ、お前をいじめる者はいなくなる。喜べよ」
散々駄々をこねた。悲しいだけの前世の記憶を引き継いで生まれた。
慕っていた獣人の男が自分を見る瞳が悲しかった。
命をたつほど惨めだった。
力を制御できなかった出来損ないの『神と崇められた人間の』娘は、最後の最後で魔力が暴走し人形の獣の力が半分しか目覚めない呪いの魔法を世界にかけた。
レブンだけではなく、獣の顔をして言葉を発する存在そのものを憎んだ。
その呪いは長い時をかけて薄まり、ティアは獣の全部が目覚めた姿で生まれたのだ。
「……きて!レブンにあって、ください!」
ティアはきりっ、とした勇気を振り絞った声で言った。
アテルマは目を見開いた。意外な言葉だ。
嫌悪の声色がない。緊張感はあるが、ただそれは虐げられていじめられた子猫の瞳だ。
怯えているのに真っ直ぐティアはアテルマを見た。
ティアの姿を見たら幼く可愛い妹を巻き込んだ仕返しをしてやろう、としていたマティは肩を竦めた。
「……この僕を仲直り付き合わす、なんてとんだ子猫ちゃんだね」
「怯えながらも声をかけれる、強い女性だ。最後まで付き合えよ、マティ」
「はいはい、不本意だけど了解」
双子の力が一つになると、瞬時に空間をレブンのいるところに移動させた。
一人なら不可能なことだ。命を落とす。身を滅ぼす。
色彩がなく真っ白の赤子は珍しい。目一杯泣かなくても自然と空気を取り込んで肺が膨らんだ。良くない者が生まれたと占い師のババが手で顔を覆い尽くして神に助けを求めた。膨大な魔力は暴走し全てを破壊すると危惧された。
アテルマも両親によって存在を隠された子供だった。
「ラィダ、……ボクが死ぬ時が来たようだ」
アテルマは泣きつかれてくぼんだ目ともを濡らした顔を上げて掠れた声で言った。
ラィダも侵入者の気配を察知していたがアテルマの髪を撫でる手を止めなかった。
「……にーな、さま?」
忽然と空間移動魔法でティア達がニーナの生まれ変わりであるアテルマの前に現れた。
アテルマの魔力を押さえていた紋様も消えている。彼女に姿をくらます術はない、生命の灯が今にも消えようとしていた。
禁断の召喚魔法は命を削って発動させた。
最後の、八つ当たりだ。
アテルマは唇を歪めた。
レミィ、マティ、ロゼ、エメラルドの4人に守られているティアを眩しく感じる。
「……ボクはニーナの、一部でしかない。憎しみと怒りの感情……もうすぐ、お前をいじめる者はいなくなる。喜べよ」
散々駄々をこねた。悲しいだけの前世の記憶を引き継いで生まれた。
慕っていた獣人の男が自分を見る瞳が悲しかった。
命をたつほど惨めだった。
力を制御できなかった出来損ないの『神と崇められた人間の』娘は、最後の最後で魔力が暴走し人形の獣の力が半分しか目覚めない呪いの魔法を世界にかけた。
レブンだけではなく、獣の顔をして言葉を発する存在そのものを憎んだ。
その呪いは長い時をかけて薄まり、ティアは獣の全部が目覚めた姿で生まれたのだ。
「……きて!レブンにあって、ください!」
ティアはきりっ、とした勇気を振り絞った声で言った。
アテルマは目を見開いた。意外な言葉だ。
嫌悪の声色がない。緊張感はあるが、ただそれは虐げられていじめられた子猫の瞳だ。
怯えているのに真っ直ぐティアはアテルマを見た。
ティアの姿を見たら幼く可愛い妹を巻き込んだ仕返しをしてやろう、としていたマティは肩を竦めた。
「……この僕を仲直り付き合わす、なんてとんだ子猫ちゃんだね」
「怯えながらも声をかけれる、強い女性だ。最後まで付き合えよ、マティ」
「はいはい、不本意だけど了解」
双子の力が一つになると、瞬時に空間をレブンのいるところに移動させた。
一人なら不可能なことだ。命を落とす。身を滅ぼす。
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