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予章
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リンの小さな体から熱が引き赤みも薄まり自然な肌色に戻りつつある。
規則正しい寝息を洩らして眠るリンの額に柔らかく唇を押し当ておやすみのキスをしてから寝室からリュウは出た。
「私が首筋を噛んだ痕がなくなっています。リンを産み直す際に貴方が消したんですか?」
不機嫌な顔のザイは今までリュウに詰め寄り問い質したかった事を淡々とした声で尋ねる。
声が荒くなりそうな衝動を意識して抑えた声だ。
「…意図して消したわけではない。お前とリンとの魂の繋がりが解消された、のは俺にとって計算外あるが両手で万歳ものだ。」
あの時は知らなかった。
リンとザイが出会っていたことを。
あの時はまだ、自分を取り巻く環境は散らかっていた。
ゆっくりと様々な事に向き合えていなかった。
親としても不十分であり、魔王としても中途半端だった。
「リンはリンです。また、私の番にする」
「いや、リンは一度死に生まれ変わった。もう二度と悲しく忌まわしい運命を歩ませない。お前にリンを愛せるか。リンを失望させたお前に、……いや、お前のせいばかりではない、な」
リュウか首を横に振りため息を洩らした。
椅子に腰掛けてテーブルの上で剣を肩に下げて微笑むアイナの写真へと視線を向けた。
「以前のリンはアイナのように強い騎士になると言っていた。しかし、今は絵を描くことを好む。魂は同じだが、あのリンではない。俺にとってはどちらも愛しいリンであることは代わりないが。お前を愛していたリンはもう、いない」
「リンは私を愛していませんよ」
「……お前、そんな事を言うから!」
くわ、と怒りに目を見開いて勢い良く立ち上がるとリュウはザイの胸ぐらを掴んで詰め寄る。
鋭くリュウはザイを睨み付けた。
睨まれるザイは忌々しそうに舌打ちをした。
「私もリンを愛してなどなかった。貴方の複製で厭わしい存在だと思っていました、最初は……。魂が引き寄せられる、あの感覚が嫌で嫌でたまりませんでした。認めなくなどなかった。」
苦渋に満ちた顔。苦しかった胸の内を始めてザイは吐露する。
それは、苦い記憶。過ち、いい思い出とは言えないが忘れられないもの。
誰にでもある。
ザイにとって自分の考えが間違っていた事に気付かされた瞬間であった。
そして、自分以上に愛せるものを見つけた瞬間でもあった。
規則正しい寝息を洩らして眠るリンの額に柔らかく唇を押し当ておやすみのキスをしてから寝室からリュウは出た。
「私が首筋を噛んだ痕がなくなっています。リンを産み直す際に貴方が消したんですか?」
不機嫌な顔のザイは今までリュウに詰め寄り問い質したかった事を淡々とした声で尋ねる。
声が荒くなりそうな衝動を意識して抑えた声だ。
「…意図して消したわけではない。お前とリンとの魂の繋がりが解消された、のは俺にとって計算外あるが両手で万歳ものだ。」
あの時は知らなかった。
リンとザイが出会っていたことを。
あの時はまだ、自分を取り巻く環境は散らかっていた。
ゆっくりと様々な事に向き合えていなかった。
親としても不十分であり、魔王としても中途半端だった。
「リンはリンです。また、私の番にする」
「いや、リンは一度死に生まれ変わった。もう二度と悲しく忌まわしい運命を歩ませない。お前にリンを愛せるか。リンを失望させたお前に、……いや、お前のせいばかりではない、な」
リュウか首を横に振りため息を洩らした。
椅子に腰掛けてテーブルの上で剣を肩に下げて微笑むアイナの写真へと視線を向けた。
「以前のリンはアイナのように強い騎士になると言っていた。しかし、今は絵を描くことを好む。魂は同じだが、あのリンではない。俺にとってはどちらも愛しいリンであることは代わりないが。お前を愛していたリンはもう、いない」
「リンは私を愛していませんよ」
「……お前、そんな事を言うから!」
くわ、と怒りに目を見開いて勢い良く立ち上がるとリュウはザイの胸ぐらを掴んで詰め寄る。
鋭くリュウはザイを睨み付けた。
睨まれるザイは忌々しそうに舌打ちをした。
「私もリンを愛してなどなかった。貴方の複製で厭わしい存在だと思っていました、最初は……。魂が引き寄せられる、あの感覚が嫌で嫌でたまりませんでした。認めなくなどなかった。」
苦渋に満ちた顔。苦しかった胸の内を始めてザイは吐露する。
それは、苦い記憶。過ち、いい思い出とは言えないが忘れられないもの。
誰にでもある。
ザイにとって自分の考えが間違っていた事に気付かされた瞬間であった。
そして、自分以上に愛せるものを見つけた瞬間でもあった。
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