Ωの魔王の溺愛姫。

遊虎りん

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第一章

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ずきん、ずきん、と心臓が重く脈打ち生命を刻むのが痛い。
自分は何のために生きているんだろう、と魂が迷子になっている。
涙を流したせいで酷く眠い。リンを優しく起こしてくれる者はこの世に誰一人いないのだ。

寂しい世界におやすみ、を言おう。

生まれた時、側から離れた両方の親はリンを置き去りにして何処かに身を隠している。
今更、恨みことをぶつけてもむなしいだけじゃないか。
寂しかった時間は埋まらないし癒えない。
リンの心はすっかり弱気になっていた。
周囲に他人がいないと、自分以外のひとがいないと強がれない。一人になると途端にリンは弱くなる。

ああ、もう頑張れない。

目を閉ざして体の力を抜いた瞬間

不意に新鮮な生肉の匂いがした。
ひくん、と鼻を鳴らして目の前の肉塊にリンは本能的にかじりついた。その瞬間、沈んでいた身が水上へと引き上げられた。
目に入ったのは釣竿だ。
肉を餌に釣られてしまったらしい、とリンは状況を把握した。

「おや、活きのいい猫が釣れてしまった」

男の呑気な声が聞こえた。
暇潰しに釣竿の先に生肉をつけて餌にして、湖の底に住む魚竜を釣り上げようとしたのだ。
しかし、釣れたのは銀色の毛並みした獣だった。もう絶滅してしまった愛玩動物の猫という小動物に似ている、と物珍しそうに男はつり上げたリンをまじまじと獣耳のてっぺんから爪先まで眺めた。
猫はもうこの世界に存在しないが書物や絵本などにその愛らしい姿を人々に伝えられていた。
ぬいぐるみ等で姿を復元され今も愛されている動物である。

(なに、こいつ。猫、じゃないけど。まあ、いいや)

否定の声を上げたり、口を開いて喋る気になれない。
無言で食らいついていた肉塊からリンは口を離して男から離れようとした。
しかし、それは叶わなかった。

「何処に行くんです?魔蛙を殺したのはあなたでしょう。勇敢な猫ちゃんだ。あいつの唾液をここで洗い流していたでしょう、お利口さんですね。よしよし」

横を通りすぎようとするリンの首根っこを掴まえて自分の腕の中へと招き入れて喉元を擽る。
男の声は猫なで声だ。

猫は伝説の愛らしい動物で今もなお、絶大な人気があり愛猫家も多い。
この、男も恐らくその一人なのだろう。
声の調子は優しく赤子に話しかけるようなものになっている。

嫌悪感はその声に滲んでおらず少しだけリンは安堵した。
初めてリンが獣の姿になった時、育ててくれていた優しい老婆は拒絶し悲鳴をあげたのだ。
その記憶を消したいが、何度も思い出してしまう。
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