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第一章
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しおりを挟む発情期の意味を知りリンは恐ろしくなった。
「子供なんていらない」
この世に生まれたくなかった自分が子供を為す行為をするのは罪だ。
親の愛情を知らないし、生まれてきてよかったと思った瞬間もない。
何で生きているのか分からない。
子を為す行為、はどんなものか分からないが直感的に嫌悪感を感じた。まだ何も知らない無垢の魂が拒絶する。
「あなたは雌なのに珍しいですね。私に触れられた雌は幼くても本能的に身を擦り付けて甘えて子種をねだるのに」
「リンはそんなことしない!お前の子種なんていらない、触られたくない」
はしたない行為だ。
侮辱されていると感じた。
怒りと興奮でつい自分を名前で幼く呼んでしまった。
「……あなたの名前はリン、というのですね。ふむ、銀色の魔物で名前も同じ、か」
ザイは顎に長い己の指を添えて小さく呟いた。
思案する顔で双眸を伏せる。
「リンは運命を信じますか?」
ふいにザイがリンに尋ねる。
「信じない。そんなもの、自分で選んだ結果で最初から運命なんて決まっていない。神様はいい加減だし無責任。運命だ、とか諦めたり、喜んだりするのはバカみたい」
神様がちゃんと仕事しているなら、そもそもこの世界は混沌としていないし平和だろう。
もし、ここで自分が死んだのなら、神様がくれた命が尽きたのではなく、ご飯を食べないでいた自分のせいなのだ。
全ては自分が選んで行動し、もしくは行動しなかった結果だ。
神様はなにもしない。でも、全てを神様のせいにしては駄目だ。
自分がいけないのだ。
そう考えると胸が苦しくなって涙が浮かんでくる。
「あなたはまだ幼い。運命という言葉に夢を見たり甘えても良い年頃です。まあ、私は運命を信じない派ですけどね。」
リンの頭をよしよし、とザイは慰めるように撫でた。慰められたのは初めてで戸惑う。
言葉は知っている。脳裏に響く声で様々な知識を得ている。しかし、声を出して人と言葉を交わしたのは数える程度だ。経験が不足しているのを実感する。
「今日はもう寝た方がいいですねえ。おやすみなさい、子猫ちゃん」
言葉なく瞳を潤ませて元気なくうなだれているリンを見て柔らかく撫でると抱き上げて寝室へと向かう。ザイは横になり、胸元へリンを抱き寄せた。
「ひとりで寝る」
「駄目です。子猫ちゃんは今日から私とねんねこします。あなたは私の抱き猫、もう眠りなさい」
いや、とリンは布団から抜け出そうとするがザイの言葉が聞こえるなり眠くなる。目がとろん、となり一瞬で眠りに落ちる。
ザイは魔力を使いリンを眠らせたのだ。
くーくー、と安らかな寝息を立てて眠るリンの額に口づけてザイも目を閉ざした。
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