如何にもなヒール役の悪役令嬢が大変なことになるお話です(仮)

黒住八雲

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悪役令嬢と三枚のお札~その2~

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「えっ? い、いやいやいや。俺が知ってる限り、うん。とりあえず今、
本物のお姫様は元気なわけですし、もう今は学校も関係ないんですよね。
あくまでも世界観と名前に共通点が多いだけで、直接の関係は無いのかも
しれないかな。何か、変なこと言ってすいませんでした」

そのように仰ったユーマさんに対して、どのように私は相槌を打ったのか
はっきりと覚えていません。少し黙りがちになってしまいました馬車での
移動を終えると、私の部屋でのお茶の時間が始まりました。今日は遠出が
ありました代わりに、謁見の間での公務はお休みです。今はもう日常的に
なりつつある至福の時間ですけれど、今日のユーマさんの話題が明らかに
私を気遣ってくださるものであることに気付くと同時に――私の気持ちは
つい上の空になってしまうのでした。心が勝手に、過去へ過去へと遡って
しまうのです。体も口も、一応はここに置いてあるのですけれど。

「いやぁ。俺、お茶の味とか全然分かんないほうなんすけど、今日実際に
作っているところを見て色々教えてもらったら、不思議とすげー美味しく
感じますね」
「分かります~。あ、でも今は二番茶の一番美味しい時期かもでしたね。
もう二ヶ月前くらいの、一番茶の最初は本当に美味しいって言われている
んですよ」

あの頃の私は、突然母を失った上に……トゥローテから婚約を破棄されて
気持ちの整理がつかないままでした。でも折角、父に続いての公爵家継承
となったのですからと、気を奮い立たせて全力で取り組んだつもりです。
体を動かす課題だけは少し遅れをとったこともありましたけれど、学術で
数字を競う場合は常に一番二番の数字をとっていました。学業に専念する
あまり、他の方との交流をおろそかにしていました嫌いはありましたけど
……それでも最初の一年目は問題なく過ごせたのです。現在よりもずっと
余裕のある毎日とも言えました。

「でも一番茶の後ろのほうと、三番茶の最初のほうとでしたら、実際には
どっちが美味しいんでしょうね~? 一度残しておいて、飲み比べてみる
のも良いかもしれませんねっ」
「それは、馬鹿ですわね……残しておいたほうが不利に決まってますわ。
そもそも、加工の過程で水を飛ばしてから発酵させて、また乾燥させたり
するのですから、葉の柔らかさが味の良さにつながるというのもあくまで
はっきりとしない俗説ですのよ」

でも二年目、一番最初のきっかけなら確かに私にあったかもしれません。
他の人の課題の不出来に、思わず笑ってしまったのでした。人体の仕組み
を復習する内容だったのですけれど「あなたの目と脳は、一体どのように
つながっているのかしら」なんて不用意な軽口をついてしまったことには
反省もしています。けれど、その相手でしたミューテリの新公爵の下衆は
あまつさえ授業とは関係のないところで私の悪口を言い返してきて、私は
かっときて醜い言い争いをしてしまいました。

「そういえば、ええと。俺がお城におじゃましてから最初の、求職者面接
のときにいたイズラギスさんと偶然この前会ったんすけど……何だか苦労
していたみたいっすね」
「あ、ええ。ちょうど、昨日再び求職に来てましたわね。何でも、全ての
大工の組から試験を通れずお断りされてしまったとか……もうそれなりの
お年ですし、そう仕事に躍起にならずしばらくはのんびりと過ごされては
いかがかしらって今回は言ってしまったのですけれど、彼には彼の矜持きょうじ
あるみたいでしたわ」
「矜持、ですか」
「ええ。どうしても、弟さんには負けたくないとか。でも、そういうのは
焦るほどに良くないといいますし、とりあえず庭師に打診する体で保留に
してあるのですよね。また考えておかないといけませんわ」

あれからの一年は、毎日が憎しみと争いの心に支配されていました。朝に
自室で目覚めてすぐに考えることは、今日はどのように相手をぎゃふんと
言わせることができるかなんてことばかりで――その実際は泥沼のような
汚い言葉の応酬になりました。あまりに低俗な嫌がらせをするミューテリ
のアホ……いえ、下衆のせいであるのは明らかだったのですけれど、私も
どんどん暴力的になってしまったのです。それと同時に、他の人々までも
私からは距離を置くようになってしまって……。暗黒の日々、でした。

「信用札、でしたっけ。この世界にも、やっぱり色々あるんすね。あっ!
えっと。自分の話で恐縮なんすけど、俺、三日後に例の、文字の試験って
やつを受けることになったんです。何かアドバイスとかありませんかね」
「試験……担当の賢者によって変わりますでしょうし、的確なアドバイス
はできませんわね。ごめんなさい」
「う~ん、えーと。でしたら気合ですよ! とにかく何か書けば、点数を
もらえるかもしれないって手を動かすんです!」
「クロナって、学術系のステータスどうだったかしら?」
「全般微妙でした。えへへ」
「ですわよね。そういうときは、下手に口出ししないのが一番ましです」

そして、私は負けました。最後の一年を耐え切ることなく、逃げるように
王立魔法大学院を後にしたのでした。いえ、逃げるようにというか完全に
脱走劇だったかもしれませんけど。でもあれは、あれは……私は悪くない
と思うのです。ついに下衆が、身体的な嫌がらせをしてきたあの日。私は
自分の手を汚してしまってから、全力で逃げました。逃げるのに遅かった
ことだけが失敗だったと今でも思ってます。嫌なことや怖いことを避ける
ためには……誰かに嫌われたり、誰かを傷つけたりしないためには、早く
逃げるのが一番だったのです。でも――

「あのっ」

世の中の、全てのことには意味がある……前に誰かがそう言ってました。
私は王立魔法大学院を脱走したあと、なぜか何の処分を受けることもなく
公爵として仕事をすることなって今に至ります。でも本来ならば、確かに
首をスパッとされても不思議ではなかった気もします中、誰もそのことを
問題にする者もいなかったのですよね。ただ代わりに……私は帰ってきた
その日に、天から"泣きっ面に蜂"といえる罰をいただいたわけですけれど。
まあ、もうそれも良いですわ。今大事なのは、ユーマさん――異世界から
いらっしゃった彼は、ゲームの中の世界として、この世界のことをご存知
みたいでした。これには、必ず意味があるに違いありません。

「ユーマさん。やっぱり、私達の世界があのゲームと同じ、というお話を
もっと詳しく教えていただけないかしら。代わりに……私の通ってました
王立魔法大学院のお話も、させていただきますから」

逃げるだけでは手に入らないものもあると、どこかには書かれてました。
隠したままいつまで経っても距離が縮まらないよりは、たとえ嫌われても
全てをお話して未来を模索した方が――それが、何かの意味につながるの
ではないかしら。だって、何もしなくてもユーマさんはもうすぐ、離れて
いってしまわれるのですから……大丈夫、そこそこ婉曲的えんきょくてきに表現すれば
きっとユーマさんのこと、私を分かってくださるはずですわ。

私は、王立魔法大学院での四年間――実際には三年と半分のあの日々を、
掻い摘みながらユーマさんにお話ししてゆきました。

「――それで私、あんまり頭にきてしまって……振り返りざま、手にして
いました分厚い本をミューテリの公爵にポカっと当てたのです。すると、
ぱたりと倒れました彼の頭からは間もなくジュワァと大量の血が広がって
しまって……ああ、私もうここにはいられないわと学校を出たのでした。
そこで卒業への最終課題として既にほぼ完成してました馬無し車を暴そ、
何とか操作して、ドーンとミューテリの砦門を突っ切ってブレイパスへと
帰ってきたのですわ」

そのように一気に事の顛末までにお話し終えたとき、私がちらっと様子を
確認しましたら――口を半開きになさっていたユーマさんは、次のように
一言だけ仰いました。
「うわぁ……」
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