このVRMMOは色々と異常な気がする

酒屋陣太郎

文字の大きさ
10 / 44
第一部

第9話 猛追、森の中の狼人

しおりを挟む
 ――翌朝。
 クロウは自室から出て、階段を降りて食堂へ向かった。
「一体どうなってるのよ! これ!!」
突然、フェイの怒った声が食堂に響く。
テーブルにはリノが作ったのであろう手作りパンが並んでいた。
クロウは三人に「おはよう」と挨拶し、空いている席に座り、フェイに尋ねる。
「何があったんだよ? そんなに怒鳴って」
「例の指輪がオークションの価格が高騰して三十倍以上になってるわ! 一個しか買えなかったのよ!!」
「なんだっけ? 『色白? 美白? の指輪?』とかいうやつだっけ?」
「そう、それよ……、いったい誰がこれを買い占めている……?」
何かに気づいたフェイは、エリーを睨んで言う。
「エリっち、その手袋、脱いでみ?」
エリーは両手を頭の後ろへ回し手を組み、フェイから目を背けつつ、
「ピーピプー~♪」
と口笛を吹いてごまかそうとした。
……ワナワナと体を震わせるフェイ。
 次にフェイはリノの方を睨んで言う。
「リノっち、指、見せてみ?」
リノは両手を腰の後ろへ隠し、よそ見して何も言わない。
……フェイはさらに体を震わせ、
「初めてですよ………ここまでウチをコケにしたおバカさん達は……」
「ぜったいに許さんぞ虫けらども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!」
と、椅子から立ち上がり、床を〝ダンッ〟と踏みしめ、大声で叫んだ。
 そのフェイの剣幕に対し、三人は無言でパンを食べ続けていた。
クロウは、エリーが二個、リノが一個指輪をつけているのを知っていたのだ。
しかし、その事を口にすることが恐ろしすぎて言えなかった。
 その後三人で機嫌の悪いフェイをなだめつつ、冒険者ギルドへと向かった。


 一行は冒険者ギルドでクエストを受注した。
Cランクの『水精霊の水晶の護衛』というクエストである。
街の商人から水晶を受け取り、それをエルフの村の老魔法使いまで届けるらしい。
しかしその水晶は狼人ウルフマンに狙われていて、恐らく襲撃を受けるだろう、との事だ。
 とりあえず一行は、街の商人からアイテムを受け取り、皆で相談し始めた。
「エルフの村まで距離ありますよね?」
「そんなに遠いのか?」
「歩いていくのはダルいね、馬車借りよっか?」
「ウチが召喚魔法で馬車を呼ぶわ」
「大丈夫? 今度は」
「任せなさい! ……召喚・かぼちゃの馬車!」
フェイがそう叫ぶと、目の前に童話のような馬二頭立てのかぼちゃの馬車が現れた。
「お~、思ってたよりまともじゃん」
「メルヘンチックですね」
「俺はちょっと恥ずかしいな」
「フフフ……、ウチが本気を出せば、この通り」
「へぇ~、普通の馬車とどう違うんだ?」
「書類を改ざんして、銀行が不正融資をすることができるわ」
「やっぱそっちの方向か……」
「それにこれ、強度大丈夫? 敵に襲われたら壊れたりしない?」
「大丈夫よ、創業家一族なら多分、逃げ切れるわ」
「またそれかよ!」
「だってウチらのギルド拠点もシェアハウスみたいなもんだし~」
「ぐ……、それは否定できない」
「さあ、御者はエリっちに任せた、乗るよ~」
フェイがそう言うと、皆で馬車に乗ってエルフの村まで行くことにした。


 馬車で進むこと数十分、街道は森の中へと入って行った。
その森の暗さはいかにも敵に襲われそうな雰囲気を出している。
「そろそろ敵出そうだな」
「敵に襲われたら、ウチは魔法で攻撃するけど、リノっちは?」
「そうですね、数が多かったら銃を使ったほうがいいですかね?」
「大丈夫? 人格変わったりしない?」
「うぅ……、多分大丈夫です……。銃の手入れをしているときは平気ですから」
「そっか、じゃあ頼むかも。俺も剣から雷撃飛ばせるように頑張ってみるよ」
「クロっち、雷飛ばせるの?」
「やったことないけどな」
「木の陰に誰かいる! 来るよ!」
エリーはそう言って、馬車にムチを与え、馬を走らせた。

 木の陰から何匹ものウルフマンが現れ、馬車に向かって弓を射始めた。
その矢は何本も馬車のかぼちゃの部分に刺さり、戦闘が開始される。
エリーは馬を急がせ、彼らを振り切ろうとしたが、その足は速く、引き離せない。
フェイは窓から上半身を乗り出し、氷の魔法を飛ばして彼らを追い払おうとしたが、それでも彼らは追いかけて来るのをやめない。
「私も戦います!」
ついにリノも銃を抜き、ウルフマンに発砲し始めた。
彼らはリノに胸を撃たれて離脱していくが、森の中からも新たにウルフマンが出てきて、減るどころか増えていくようだ。
 その時突然、馬車に爆発音と共に衝撃が走る。
「きゃっ!?」
リノが悲鳴をあげる。上を見るとかぼちゃの馬車の天井が吹き飛んだようだ。
「敵の魔法か?」
「矢も気をつけろよ!」
氷結飛槍アイスジャベリン!」
フェイの魔法、リノの銃撃で応戦する。しかし敵は全く怯まずに追いかけて来る。
 すると、クロウはおもむろに立ち上がり、剣を上段に構え、力を込めた。
「雷神剣・真空切り!」
クロウはそう叫ぶと、剣を力いっぱい振り下ろした。
……だが特に効果はなく、ただ頭上の木の枝を切り落としただけだった。
「だめか……、漫画みたいにはいかないな……」
「ちょっと期待したあたしがバカだったよ!」
「必殺技っぽく叫んだんだけどな~?」

 そうしているうちに、馬が徐々に矢を受け始め、馬車の足が落ちてきた。
「馬が持たない、そろそろやばいぞ!」
エリーはそう叫ぶ。
 クロウはふと何かを思いついたようだ。
馬車の上に立ちあがると、頭上の森の木の枝を剣で払い始めた。
彼に斬られた木の枝葉が街道に落ちて、ウルフマン達の足が鈍ってきたのだ。
それに気づいたリノもクロウに合わせ、銃で頭上の木の枝を撃ち抜いて、枝葉を街道に落とし始めた。
今度はその枝葉の多さに、ウルフマン達の足が止まってきた。
氷結吹雪フリージングブリザード!」
フェイはそのタイミングを見逃さず、広範囲の魔法をウルフマン達に放つ。
木の枝葉ごと彼らを吹雪で囲み、追いかけてきたウルフマン達を凍りつかせた。
だが、馬車の馬は徐々に速度を落とし、ついには立ち止まってしまったのだ。

 ウルフマン達の襲撃が終わったかと思ったその時、森の木の上から何者かが降って来て、馬車の馬を両断した。
四人は馬車から飛び出して、武器を構えて戦闘の態勢を取った。
そこに現れたのは、両手に曲刀を持ったウルフマンのボスのようだった。
健康分析ヘルスアナライズ! 彼の名は『双曲刀のアジム』よ! 走り疲れて足がもうパンパンよ。そろそろ限界だわ」
 フェイのセリフはともかく、クロウは剣を構えて、アジムへ向かって突進した。
敵はそれに対して双剣を重ねて息を吹きかけると、火球となってクロウへ飛ばす。
(ずるいな……)
クロウはそう思いつつも、火球を避けながら進み、アジムへ斬りかかった。
「その技俺にくれ!」
そう言いつつ、二度、三度ととアジムに斬りかかる。
アジムは彼の攻撃を打ち払うが、その足取りは鈍く、相当疲れているようだ。
そしてアジムの背後にエリーが回り込み、タイミングを計る。
氷結飛針アイスニードル!」
フェイの魔法がアジムの顔に刺さり、白いひげのように彼の顔を覆った。
彼が怯んだタイミングで、エリーはアジムの首を斬りつけた。
さらにクロウがその頭めがけて剣を振り下ろし、敵の頭上に雷撃が落ちる。
ついにアジムは叫び声を出す暇も無く、彼らに倒されてしまった。

 一行はアジムを倒して武器を収めた。
「結構歯ごたえのあるクエだったな」
「まだクエ達成してないって」
「そうですね、アイテムを届けるのでしたね」
「そうそう。まあ、敵はもう出てこないだろうけど」
「あ、ドロップアイテム拾ってこよう」
「フェイ、またさっきの馬車、出せる?」
「かぼちゃの馬車は、もう破綻したので呼べませ~ん」
「やかましいわ!」
「帽子と手袋が落ちてたから拾っておいたよ。『鷹目の帽子』と『看護師の手袋』だって」
「んじゃあたしが帽子で、リノが手袋かな」
「はい、ありがとうございます」
「フェイ、ほんとにあの馬車出せないの?」
「一回しか使えない物だったみたいなのよ。冗談じゃなくて」
「じゃあやっぱり歩きか、だるいな~」
「そうは言っても仕方ない、日が暮れる前にエルフの村に行こう」
彼らはそう話して、エルフの村へと歩いて行った。


 しばらく歩いた後、四人はエルフの村にたどり着いた。
日も暮れそうだったので、急いで老魔法使いを探し出し、このクエストを達成した。
すると、四人の職業ランクが上がり、全員Cランクとなった。

 そうしているうちに日も沈んできたので、一行はここで宿を取ることにした。
エルフの村の宿は太い木の中にあり、一階に食堂、上の階に客室と分けられていた。
四人はそこの食堂で軽く食事を取ってから、長旅の疲れを癒すため、早めに眠る事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

処理中です...