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第二部
第22話 埋没、地下墓地の老人
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――シーズン5が開幕した。
前回のシーズン4は、ハッカーによって攻略されてしまったので、シーズン5の勝利条件は『この世界の破壊を目論むハッカーを倒せ!』の一つだけとなった。
勝利報酬が五十万ドルに値上げされ、プレイヤー達は歓喜したが、この世界にいるハッカーは、どこにいて、どんな姿をしているのか、誰にも分からなかった……。
シーズン3の勝利者だった四人は、リベルタスの街の広場に集まっていた。
「今回の勝利条件、どうしたらいいんだろうね?」
エリーが皆に話した。
「そもそも、彼はまだこの世界にいるのかしら?」
フェイは疑問に思ってるようだ。
「どこかにいると思いますよ、そうでなければ、誰も勝利できませんしね」
リノが答えた。
「俺は、前みたいに適当に冒険してたほうがいいと思う。多分、ハッカーがどこかにいたとしても、プレイヤーがとても到達できない場所にいると思うな」
クロウが真面目に言った。
「う~ん、地中の奥底とか、はるか上空の空の上とかだったら、手が届かないよね」
「そうよね、このゲームの運営は何を考えてるのかしら?」
「そこまでは分かりませんが……」
「これは多分のことで、確かなことじゃ無いけど、一番の近道が遠回りの可能性があると思う」
「どういうこと?」
「仮に今すぐそのハッカーと出会っても、今の俺達が勝てるとは思わないだろ? だから、適当に冒険して、装備整えたり、職業ランクやスキルランクを上げたほうがいいんじゃないかな?」
「そうね、どこにいるか分かっても、倒せないんじゃ仕方ないわね」
「そうですね、地道にプレイしてればそのうち見つかるかもしれませんしね」
「じゃあ、あたしがギルド行って何かクエ受けてくるよ」
「久しぶりに聞いたな、そのセリフ」
「懐かしいものがあるわね」
「そうですね、こういうのが楽しいのでしょうね」
……こうして四人は、再びこの世界を冒険することにしたのであった。
――それからしばらく時が経ち、四人はSランクのベテラン冒険者となっていた。
彼らはギルド拠点や装備を再び揃え、この世界で有名な人物として知られていた。
ギルド『我々の中に裏切り者ガイル』は四人しかいないものの、最も強いギルドと思われていたのである。
だが、その内実は……。
「ぐぅ……、ろくな武器が出ない……」
クロウは嘆いていた。
彼の武器はまだ店売りのAランクの『コバルトソード』だったのだ。
「そうね……。Sランクになっても未だに店売り武器なんて……」
「ウチは『セレブA』のスキル持ってるから、オークションでも買えるよ」
「フェイは『美白の指輪』しか買ってないじゃん……」
「私もやっと銃を買えましたが、『ベレッタナノ』なので敵に当てられる自信がありませんね……」
「やっぱ、稼ぎに行くしかないか……」
「そうだね、ここでグチっても、装備は出ないからね……」
こうして四人は武器を探すため、クエストを受けに行った。
冒険者ギルドは人混みで溢れ、以前より賑わっているようだ。
エリーはこっそり冒険者ギルドに入り、目立たないようにクエストを受注してきた。
「何もそんなに隠れるようにしなくても……」
「いやさ~、変に有名なのに、装備ヘボイのはどうかな~、と」
「防具は外観オフにできるからね~」
「何も変に見栄はらなくてもいいじゃないですか」
「とりあえずクエ行こう。『地下墓地に潜むネクロマンサーを倒せ!』てやつだよ」
そんな話をして、彼らはリベルタスの地下墓地へと足を進めた。
――『リベルタスの地下墓地』
ここは古代には墓地として使われていた洞窟である。
辺りの洞窟の壁には、あらゆる所に死者の寝床となるような窪みがあり、骨となった遺体が安置されている。
骨型の魔物が多く出てくるものの、死者の副葬品として、古代の宝物が出てくるかもしれないという穴場である。
一行はここへ足を踏み入れ、何か宝物を探しながらクエストをやることにした。
エリーが先頭を進み、罠などを調べつつ進んで行く。
洞窟の通路とはいえ、罠が設置されている可能性もあるからだ。
四人は時々現れるスケルトンを倒しつつ、奥へと向かって行った。
「なかなか無いね~、宝物」
「これじゃ墓荒らしみたいだな」
「みたいじゃなくて、そのものね」
「なにか珍しいものでもあればいいのですが……」
そう話しつつも、地下一階の捜索を終え、地下二階へと足を進めた。
地下二階も大きな変化は無く、宝箱はあったものの、中に入っていたのは『穴の開いたブーツ』である。
彼ら探索を進めて、見つかったものはガラクタばかりであった。
地下三階。四人は探索しながら進んで行く。
この階には牢屋のような扉があり、その中には散乱した骨と、宝箱があった。
エリーは牢屋の鍵を開け、中を覗き込む。そして中に入ろうとすると、
「待ってください、あの骨はおかしいです」
リノが注意するように言った。
「えっ?」
エリーが驚いて、さらに骨を観察する……。
そこにあるのは、人骨らしい骨の他に、大型の魔獣の牙のような物が混ざっていた。
「あれはもしかしたら、竜の牙かもしれないわ」
と、フェイが言った。
「な~んだ、お金になりそうじゃん」
そう言いつつ、骨に近づくエリー。
だが彼女が近づくと、そのバラバラの骨はおもむろに立ち上がり、錆びた剣を振り回しつつ襲いかかってきた。
骨のモンスターの攻撃をかろうじて躱すエリー。
クロウも前に出て、剣を抜き対峙する。
「健康分析! あれは竜のキバから生まれたモンスター『スパルトイ』よ! 彼は骨密度が低く、こつしょしょーしょ? こつしょそーちょ? ええい! とにかく骨が弱い!」
「キレんなよ……」
エリーがぼやく。
「骨のモンスターで骨が弱いとか!」
クロウはそう言いつつもスパルトイに斬りかかる。
彼らが数合打ち合った後、エリーに頭蓋骨を飛ばされ、彼はその場に崩れ落ちた。
「弱かったな」
「まあね、宝箱あけちゃお~」
エリーはそう言い、宝箱に近づく。
ところが突然、その宝箱が襲ってきた。『ミミック』だったのだ。
「うわっ、あぶなっ!」
エリーは咄嗟にミミックの攻撃を躱し、距離を取った。
ミミックは狭い牢屋の中で跳躍しつつ、四人を襲う。
クロウが斬りかかるも躱され、フェイの魔法も敵が速すぎて当たらない。
そうしてバタバタしていると、突然床の一部が崩れ始め、ついには床全体が崩れ落ちてしまった。
……下の階へ落とされた一行。
辺りを見回すと、ミミックは岩に押し潰されていた。
「ふぅ、床が抜けるとはな……」
「あたしが罠解除に失敗したわけじゃないよ?」
「体重かしら?」
「オイコラ!」
「見てください、壁が!」
リノが指差した方には古いレンガの壁があり、その複数の隙間から光が出ていた。
向こうに何かあるのかと覗き込む四人。
壁の向こうはレンガ作りの部屋になっていて、そこの中央の台には、何人もの人体を繋ぎ合わせた不気味な死体が横たわっていた。
さらに見ていると、その部屋の扉が開き、魔法使い風の老人が部屋に入って来た。
床が抜けた騒音を聞きつけて見に来たのであろうか。
(あの爺さん、ネクロマンサーじゃない?)
(そうかも、死体が気にかかってるみたいだし)
(あのお爺さん、何か持ってきてるわ)
(なんでしょう? 死体の口に液体を流し込んでるようです)
(死体を復活させようとしてるの?)
(フランケンだな)
(あの体の大きさだと、動き出したら厄介ね)
(あの液体は何なのでしょうか?)
そう小声で話していると、ネクロマンサーらしき老人は、その部屋を出て行った。
その様子をみた一行は、お互い顔を見合わせて話した。
「あれがネクロマンサーっぽいけど」
「あの部屋にどうやって行きましょうか?」
「この部屋はどこかに繋がってないのかしら?」
「ちょっとあたしが調べてみるよ」
そう言って、エリーはこの空間を調べ始めた。
程なく、エリーは何か発見した。
「ここの壁、脆くて壊せそう。ちょっとやってみるね」
そう言ってエリーは、壁を短剣で何度か掘る。
すると、壁に穴が開き、その向こう側が見えてきた。
「向こうは通路みたいだね。掘る人チェンジ!」
仕方なくクロウが掘り始める……。
何度か剣を刺して、人が通れそうな穴が開くと、四人は通路へ出た。
その通路は左右に伸びていて、右は通路が折れていて先は見えないが、左の突き当りに扉があった。
一行は用心しつつ、その扉へと向かった。
エリーが扉に聞き耳を立てる……。
(中に誰かいるね……。さっきのネクロマンサーかな?)
(奇襲かけてみたら?)
(そうしようか、クロ、お願い)
(よし、やってみる)
四人は小声でそう話して、扉を開けて奇襲することにした。
クロウが勢いよく扉を蹴り開ける、はずが、彼の足は扉を突き破り、足だけが部屋に入ってしまったようだ。
「ひいっ!」
扉の中で何者かが驚き、走って逃げたようだ。
クロウは扉から足を抜こうともがいていた。
「なにやってんだよ! 奇襲が台無しだろ!」
「扉が思ったより柔かったんだよ! 今さら言うな!」
二人は言い合いながら扉から足を抜き、扉を開ける。
扉の中は誰かの部屋になっていて、机椅子、ベッド、本が詰まった棚などがあり、もう一つの扉は開いている。
中にいた人は、その扉から逃げたのだろうか。
四人は警戒しながらもう一つの扉へ向かった。
扉の先にあったものは、レンガの壁の隙間から見たフランケンのような体と、床に倒れた老人だった。
「あれ? この人、壁の隙間から見た人だね」
「倒れてますね」
リノが近づき、様子を覗う。
「死んでいるようです。心臓が止まってます」
「「「えっ?」」」
三人は驚いて、思わず声をあげた。
その倒れた老人は床にうつ伏せで倒れていて、腕には大事そうに何かの本らしきものを持っていた。
クロウは警戒しながらその本を見た。
「これは……、『エロ本』だ……」
「なんでこの爺さんそんなもの持ってるのよ!」
「エロ本持って心臓が止まって死んだのかしら?」
「これはどういう状況なのでしょうか……?」
四人は考え込んだ……。
先に口を開いたのは、クロウだった。
「分かったぞ!」
「何が?」
エリーが尋ねた。
「この爺さん、急な来客に驚いてお気に入りのエロ本を隠そうとしたけど、驚きのあまり心臓が止まってしまったんだ!」
「うわぁ、最悪だな……」
「よほど見られたくなかったのね……」
「最低ですね……」
「見てみろ……、これはセーラー服ものだ……」
「そこはどうでもいいから!」
そんな話をしていると、突然〝ズシン〟と、何か重いものが落ちる音がした。
音の方を見ると、横になっていたはずのフランケンが立ち上がろうとしていたのだ。
「こいつ……、動くぞ……」
「ヤバイ! 離れよう!」
四人は部屋から出て、部屋の外から様子を覗った。
フランケンは立ち上がり、一歩……二歩……と、ゆっくりこちらへと歩き出した。
四人は武器を構え、戦闘の準備に入る。
するとその時、
〝ズゴッ〟
と音がして、フランケンが地面に沈んでしまった。
彼は下半身が土の床に埋まってしまい、両腕で脱出しようともがいている。
「重すぎたのかしら……?」
「そうみたいですね……」
「やっちゃうか!」
これがチャンスとばかりに、四人はフランケンに攻撃をしかける。
だが、フランケンの体は鉄のように硬く、攻撃を全く受け付けない。
「くそっ、どうする?」
クロウは迷っていた。
「えっ!? やばい! ここから逃げよう!」
エリーは何かに気づき慌てて叫んだので、四人は部屋から出て通路の方へ避難した。
奥の方からフランケンがさらに地面を叩き、もがいている音が聞こえる……。
そう思っていると、突然大きな震動と轟音が彼らを襲った。
四人は危機を感じ、さらに逃げようと通路を走る。
その先には階段がって、そこを一気に駆け上がる。
……轟音が収まり、辺りに静けさが戻った。
「あのフランケン、埋まったのかな?」
「多分……、床が脆いみたいだし……」
「大きなものを作ったけれど、重すぎたのかしら……」
「……クエストは達成してますね……」
リノはメニューを開き、呟いた。
「なんかあっさり終わってしまったな……」
「そうだね……、ロクなアイテムも手に入らなかったね……」
「残念ね……、彼を倒せればいいもの落としたかもしれないのにね」
「生きて戻れるだけ良しとしましょうか……」
四人はそう話し、少し落ち込みながら地上へ戻った。
一行はクエストを報告し、報酬をもらったものの、何かやるせない気分になった。
明日こそはいいことあるさ、そう思いつつ四人は拠点に戻り、休む事にした……。
前回のシーズン4は、ハッカーによって攻略されてしまったので、シーズン5の勝利条件は『この世界の破壊を目論むハッカーを倒せ!』の一つだけとなった。
勝利報酬が五十万ドルに値上げされ、プレイヤー達は歓喜したが、この世界にいるハッカーは、どこにいて、どんな姿をしているのか、誰にも分からなかった……。
シーズン3の勝利者だった四人は、リベルタスの街の広場に集まっていた。
「今回の勝利条件、どうしたらいいんだろうね?」
エリーが皆に話した。
「そもそも、彼はまだこの世界にいるのかしら?」
フェイは疑問に思ってるようだ。
「どこかにいると思いますよ、そうでなければ、誰も勝利できませんしね」
リノが答えた。
「俺は、前みたいに適当に冒険してたほうがいいと思う。多分、ハッカーがどこかにいたとしても、プレイヤーがとても到達できない場所にいると思うな」
クロウが真面目に言った。
「う~ん、地中の奥底とか、はるか上空の空の上とかだったら、手が届かないよね」
「そうよね、このゲームの運営は何を考えてるのかしら?」
「そこまでは分かりませんが……」
「これは多分のことで、確かなことじゃ無いけど、一番の近道が遠回りの可能性があると思う」
「どういうこと?」
「仮に今すぐそのハッカーと出会っても、今の俺達が勝てるとは思わないだろ? だから、適当に冒険して、装備整えたり、職業ランクやスキルランクを上げたほうがいいんじゃないかな?」
「そうね、どこにいるか分かっても、倒せないんじゃ仕方ないわね」
「そうですね、地道にプレイしてればそのうち見つかるかもしれませんしね」
「じゃあ、あたしがギルド行って何かクエ受けてくるよ」
「久しぶりに聞いたな、そのセリフ」
「懐かしいものがあるわね」
「そうですね、こういうのが楽しいのでしょうね」
……こうして四人は、再びこの世界を冒険することにしたのであった。
――それからしばらく時が経ち、四人はSランクのベテラン冒険者となっていた。
彼らはギルド拠点や装備を再び揃え、この世界で有名な人物として知られていた。
ギルド『我々の中に裏切り者ガイル』は四人しかいないものの、最も強いギルドと思われていたのである。
だが、その内実は……。
「ぐぅ……、ろくな武器が出ない……」
クロウは嘆いていた。
彼の武器はまだ店売りのAランクの『コバルトソード』だったのだ。
「そうね……。Sランクになっても未だに店売り武器なんて……」
「ウチは『セレブA』のスキル持ってるから、オークションでも買えるよ」
「フェイは『美白の指輪』しか買ってないじゃん……」
「私もやっと銃を買えましたが、『ベレッタナノ』なので敵に当てられる自信がありませんね……」
「やっぱ、稼ぎに行くしかないか……」
「そうだね、ここでグチっても、装備は出ないからね……」
こうして四人は武器を探すため、クエストを受けに行った。
冒険者ギルドは人混みで溢れ、以前より賑わっているようだ。
エリーはこっそり冒険者ギルドに入り、目立たないようにクエストを受注してきた。
「何もそんなに隠れるようにしなくても……」
「いやさ~、変に有名なのに、装備ヘボイのはどうかな~、と」
「防具は外観オフにできるからね~」
「何も変に見栄はらなくてもいいじゃないですか」
「とりあえずクエ行こう。『地下墓地に潜むネクロマンサーを倒せ!』てやつだよ」
そんな話をして、彼らはリベルタスの地下墓地へと足を進めた。
――『リベルタスの地下墓地』
ここは古代には墓地として使われていた洞窟である。
辺りの洞窟の壁には、あらゆる所に死者の寝床となるような窪みがあり、骨となった遺体が安置されている。
骨型の魔物が多く出てくるものの、死者の副葬品として、古代の宝物が出てくるかもしれないという穴場である。
一行はここへ足を踏み入れ、何か宝物を探しながらクエストをやることにした。
エリーが先頭を進み、罠などを調べつつ進んで行く。
洞窟の通路とはいえ、罠が設置されている可能性もあるからだ。
四人は時々現れるスケルトンを倒しつつ、奥へと向かって行った。
「なかなか無いね~、宝物」
「これじゃ墓荒らしみたいだな」
「みたいじゃなくて、そのものね」
「なにか珍しいものでもあればいいのですが……」
そう話しつつも、地下一階の捜索を終え、地下二階へと足を進めた。
地下二階も大きな変化は無く、宝箱はあったものの、中に入っていたのは『穴の開いたブーツ』である。
彼ら探索を進めて、見つかったものはガラクタばかりであった。
地下三階。四人は探索しながら進んで行く。
この階には牢屋のような扉があり、その中には散乱した骨と、宝箱があった。
エリーは牢屋の鍵を開け、中を覗き込む。そして中に入ろうとすると、
「待ってください、あの骨はおかしいです」
リノが注意するように言った。
「えっ?」
エリーが驚いて、さらに骨を観察する……。
そこにあるのは、人骨らしい骨の他に、大型の魔獣の牙のような物が混ざっていた。
「あれはもしかしたら、竜の牙かもしれないわ」
と、フェイが言った。
「な~んだ、お金になりそうじゃん」
そう言いつつ、骨に近づくエリー。
だが彼女が近づくと、そのバラバラの骨はおもむろに立ち上がり、錆びた剣を振り回しつつ襲いかかってきた。
骨のモンスターの攻撃をかろうじて躱すエリー。
クロウも前に出て、剣を抜き対峙する。
「健康分析! あれは竜のキバから生まれたモンスター『スパルトイ』よ! 彼は骨密度が低く、こつしょしょーしょ? こつしょそーちょ? ええい! とにかく骨が弱い!」
「キレんなよ……」
エリーがぼやく。
「骨のモンスターで骨が弱いとか!」
クロウはそう言いつつもスパルトイに斬りかかる。
彼らが数合打ち合った後、エリーに頭蓋骨を飛ばされ、彼はその場に崩れ落ちた。
「弱かったな」
「まあね、宝箱あけちゃお~」
エリーはそう言い、宝箱に近づく。
ところが突然、その宝箱が襲ってきた。『ミミック』だったのだ。
「うわっ、あぶなっ!」
エリーは咄嗟にミミックの攻撃を躱し、距離を取った。
ミミックは狭い牢屋の中で跳躍しつつ、四人を襲う。
クロウが斬りかかるも躱され、フェイの魔法も敵が速すぎて当たらない。
そうしてバタバタしていると、突然床の一部が崩れ始め、ついには床全体が崩れ落ちてしまった。
……下の階へ落とされた一行。
辺りを見回すと、ミミックは岩に押し潰されていた。
「ふぅ、床が抜けるとはな……」
「あたしが罠解除に失敗したわけじゃないよ?」
「体重かしら?」
「オイコラ!」
「見てください、壁が!」
リノが指差した方には古いレンガの壁があり、その複数の隙間から光が出ていた。
向こうに何かあるのかと覗き込む四人。
壁の向こうはレンガ作りの部屋になっていて、そこの中央の台には、何人もの人体を繋ぎ合わせた不気味な死体が横たわっていた。
さらに見ていると、その部屋の扉が開き、魔法使い風の老人が部屋に入って来た。
床が抜けた騒音を聞きつけて見に来たのであろうか。
(あの爺さん、ネクロマンサーじゃない?)
(そうかも、死体が気にかかってるみたいだし)
(あのお爺さん、何か持ってきてるわ)
(なんでしょう? 死体の口に液体を流し込んでるようです)
(死体を復活させようとしてるの?)
(フランケンだな)
(あの体の大きさだと、動き出したら厄介ね)
(あの液体は何なのでしょうか?)
そう小声で話していると、ネクロマンサーらしき老人は、その部屋を出て行った。
その様子をみた一行は、お互い顔を見合わせて話した。
「あれがネクロマンサーっぽいけど」
「あの部屋にどうやって行きましょうか?」
「この部屋はどこかに繋がってないのかしら?」
「ちょっとあたしが調べてみるよ」
そう言って、エリーはこの空間を調べ始めた。
程なく、エリーは何か発見した。
「ここの壁、脆くて壊せそう。ちょっとやってみるね」
そう言ってエリーは、壁を短剣で何度か掘る。
すると、壁に穴が開き、その向こう側が見えてきた。
「向こうは通路みたいだね。掘る人チェンジ!」
仕方なくクロウが掘り始める……。
何度か剣を刺して、人が通れそうな穴が開くと、四人は通路へ出た。
その通路は左右に伸びていて、右は通路が折れていて先は見えないが、左の突き当りに扉があった。
一行は用心しつつ、その扉へと向かった。
エリーが扉に聞き耳を立てる……。
(中に誰かいるね……。さっきのネクロマンサーかな?)
(奇襲かけてみたら?)
(そうしようか、クロ、お願い)
(よし、やってみる)
四人は小声でそう話して、扉を開けて奇襲することにした。
クロウが勢いよく扉を蹴り開ける、はずが、彼の足は扉を突き破り、足だけが部屋に入ってしまったようだ。
「ひいっ!」
扉の中で何者かが驚き、走って逃げたようだ。
クロウは扉から足を抜こうともがいていた。
「なにやってんだよ! 奇襲が台無しだろ!」
「扉が思ったより柔かったんだよ! 今さら言うな!」
二人は言い合いながら扉から足を抜き、扉を開ける。
扉の中は誰かの部屋になっていて、机椅子、ベッド、本が詰まった棚などがあり、もう一つの扉は開いている。
中にいた人は、その扉から逃げたのだろうか。
四人は警戒しながらもう一つの扉へ向かった。
扉の先にあったものは、レンガの壁の隙間から見たフランケンのような体と、床に倒れた老人だった。
「あれ? この人、壁の隙間から見た人だね」
「倒れてますね」
リノが近づき、様子を覗う。
「死んでいるようです。心臓が止まってます」
「「「えっ?」」」
三人は驚いて、思わず声をあげた。
その倒れた老人は床にうつ伏せで倒れていて、腕には大事そうに何かの本らしきものを持っていた。
クロウは警戒しながらその本を見た。
「これは……、『エロ本』だ……」
「なんでこの爺さんそんなもの持ってるのよ!」
「エロ本持って心臓が止まって死んだのかしら?」
「これはどういう状況なのでしょうか……?」
四人は考え込んだ……。
先に口を開いたのは、クロウだった。
「分かったぞ!」
「何が?」
エリーが尋ねた。
「この爺さん、急な来客に驚いてお気に入りのエロ本を隠そうとしたけど、驚きのあまり心臓が止まってしまったんだ!」
「うわぁ、最悪だな……」
「よほど見られたくなかったのね……」
「最低ですね……」
「見てみろ……、これはセーラー服ものだ……」
「そこはどうでもいいから!」
そんな話をしていると、突然〝ズシン〟と、何か重いものが落ちる音がした。
音の方を見ると、横になっていたはずのフランケンが立ち上がろうとしていたのだ。
「こいつ……、動くぞ……」
「ヤバイ! 離れよう!」
四人は部屋から出て、部屋の外から様子を覗った。
フランケンは立ち上がり、一歩……二歩……と、ゆっくりこちらへと歩き出した。
四人は武器を構え、戦闘の準備に入る。
するとその時、
〝ズゴッ〟
と音がして、フランケンが地面に沈んでしまった。
彼は下半身が土の床に埋まってしまい、両腕で脱出しようともがいている。
「重すぎたのかしら……?」
「そうみたいですね……」
「やっちゃうか!」
これがチャンスとばかりに、四人はフランケンに攻撃をしかける。
だが、フランケンの体は鉄のように硬く、攻撃を全く受け付けない。
「くそっ、どうする?」
クロウは迷っていた。
「えっ!? やばい! ここから逃げよう!」
エリーは何かに気づき慌てて叫んだので、四人は部屋から出て通路の方へ避難した。
奥の方からフランケンがさらに地面を叩き、もがいている音が聞こえる……。
そう思っていると、突然大きな震動と轟音が彼らを襲った。
四人は危機を感じ、さらに逃げようと通路を走る。
その先には階段がって、そこを一気に駆け上がる。
……轟音が収まり、辺りに静けさが戻った。
「あのフランケン、埋まったのかな?」
「多分……、床が脆いみたいだし……」
「大きなものを作ったけれど、重すぎたのかしら……」
「……クエストは達成してますね……」
リノはメニューを開き、呟いた。
「なんかあっさり終わってしまったな……」
「そうだね……、ロクなアイテムも手に入らなかったね……」
「残念ね……、彼を倒せればいいもの落としたかもしれないのにね」
「生きて戻れるだけ良しとしましょうか……」
四人はそう話し、少し落ち込みながら地上へ戻った。
一行はクエストを報告し、報酬をもらったものの、何かやるせない気分になった。
明日こそはいいことあるさ、そう思いつつ四人は拠点に戻り、休む事にした……。
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しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
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