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第二部
第23話 浮沈、湖に潜む魔物
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翌日の事である。一行は冒険者ギルドに顔を出す前に、朝食を取っていた。
拠点の入り口の扉を誰かがノックしてきた。訪問者が来たようだ。
「はーい」
リノは扉を開け、応対しようとするが、そこには誰もいない。
周りを見回すと、物陰に隠れていた『ヒナ』が顔を覗かせた。
「申し訳ない、また驚かされると困るので、不審者のようになってしまったようだ」
「ヒナさん、お久しぶりです、ぜひ中へどうぞ」
リノはそう言い、ヒナに席を勧め、紅茶をいれた。
「突然お邪魔して済まない」
「いいよいいよ、そんな気を使わなくても」
「そうそう、あたしらはそんなに堅苦しくないし」
「そうよね、何か面白い話でも持ってきてくれたのかしら?」
「話というのは、例の『妖刀』のことなのだが……」
「場所が見つかったとか?」
「いや、何処にも手掛りが無く、其方達なら何か知ってると思い、訪ねてきたのだ」
「今回は『妖刀』、無いと思うよ」
エリーが素っ気なく答えた。
「何っ!?」
「今回の勝利条件は、『ハッカーを倒す』だけだからね」
「ぐっ……、そうなのか……」
ヒナはがっかりして、首をうなだれてしまった。
「残念ね、ヒナっちはウチが衣装を集めてるのと同じように刀を集めてたしね」
「そうなのだ……。某は刀剣を集めるのが……。今回はどうしたらいいのだ……」
「じゃあさ、俺らのギルド入ったら?」
「そうね、ヒナなら大歓迎だよ」
「っ!? いいのか……?」
「いいと思うよ、どうせ暇なら一緒にやろうよ」
「そうですね、ヒナさんがいてくれると心強いですね」
「そうか……、皆、ありがとう……。これからもよろしく頼む……」
「じゃあ早速お化け出るとこ行こうか?」
フェイが意地悪そうな顔で言った。
「なっ!? それは……、ちょっと……」
「でもさ~、あたしらシーズン3の時、手伝ったよね~」
エリーも意地悪く微笑みながら、ヒナをからかう。
「ぐっ……、それを言われると……」
「皆さんからかうのはそれくらいにしておかないと、ヒナさん泣いてしまいますよ」
「う……、すまぬ……」
ヒナはもじもじして、困っているようだ。
「まあな、俺らこんな感じで冗談言いながら、適当に遊んでるんだ。気楽にやったらいいよ」
「そうか……、心遣い、すまぬ」
こうしてヒナは、ギルド『我々の中に裏切り者ガイル』に加入した。
この先にどんな運命が待ち受けるとも知らずに……。
五人になった一行は、冒険者ギルドへ顔を出した。
「ん~、面白そうなの、何かないかな?」
「これはどうだろ? 『泉の精霊・ネレイドが助けを求めている』、とかいうやつ」
「じゃあ、それにしよう。受付に渡してくるよ」
エリーはそう言って掲示板からチケットを取り、受付嬢へ渡した。
「次のクエストの場所は『パルス湖』ね、そこで『泉の精霊・ネレイド』を助けるみたいだね」
「じゃあ行くか!」
五人はそう話して、次のクエストの目的地『パルス湖』へ向かった。
――『パルス湖』
昔、この湖はとても美しく水は澄んでいて、この湖に浸かるだけで病気が治った、という伝説もあった。
だが今では、他の水の妖精との争いによって、水は濁り、過去の美しい湖の面影は無くなっていた。
一行は湖の淵にいるネレイド達を探し出し、詳しい話を聞いた。
「……何でも、『ヴォジャノーイ』という他の水の妖精と争いになってるらしいね」
「そうなのか?」
「うん、その『ヴォジャノーイ』ってのはヒゲの生えたカエルみたいな姿をしていて、湖の真ん中にある浮島に住んでるみたい」
「水のモンスターか……」
「船で行ったら途中で沈められそうだな」
「そうね、安全に水の上を進めるモノはないかしら?」
「フェイは『水上歩行』の魔法とか持ってないの?」
「ウチのだと、水の精霊を呼び出して、その汗を体中に塗るとか……」
「あのハゲ散らかした貧相なおっさんの汗か……」
「他に何かないのでしょうか?」
「聞いてみるよ……。……湖に『ケルピー』って馬がいて、それに乗れれば大丈夫らしいけど、気性が荒くて、下手したら湖の底に引きずり込まれるみたい」
「う~ん、怖いなぁ」
「試しに行ってみようではないか、無理なら他の手を考えよう」
「そうだな」
かくして五人は、ケルピーを探して湖を歩いた。
しばらく歩いて、一行はやっと『ケルピー』を見つけることが出来た。
その姿は、体の前半分は馬、後ろ半分は魚、という変わった生き物だった。
「これがケルピーか……」
「これに乗るの?」
「乗せてくれるかしら?」
「どうでしょうね……」
「さすがに一匹に五人は乗れまい……」
「だよね~」
そう話していると、湖の中から何者かが顔を出してきた。
ヒゲの生えた大きなカエル、これが『ヴォジャノーイ』だろうか。
それが湖の中から一匹二匹と次々浮上してきて、ケルピーを捕らえようとしたのだ。
「まずい! あの変な馬が捕まる!」
そうは言っても相手は水の中、ここからでは武器は届かない。
「氷結飛針!」
フェイが魔法を飛ばし、ヴォジャノーイ達を牽制する。
彼らはこちらに気づくと、獲物を取られまいとこちらへ襲いかかってきた。
数分の戦闘の後、半数を斬られたヴォジャノーイ達は湖の下へと逃げていった。
ケルピーはどうやら無事のようだ。
彼はこちらに近づいてきて、こちらに友好的な態度を取っている。
「う~ん、これに五人は無理だよな~?」
「一人ずつ乗るってのも危なそうだし……」
「途中で襲われてもねぇ……」
「どうしましょうか……?」
「困ったな……」
五人はそう悩んでいると、ケルピーはそれを察したのか、一度嘶いた。
するとどうだろう、辺りの水草が徐々に集まってきて、イカダのような形で目の前に浮いて来たのだ。
「これは乗れってことかな?」
「そうみたいね……」
とりあえず、エリーがそのイカダに乗ってみる。……大丈夫なようだ。
続けて二人三人と乗り、ついに五人乗っても沈まないことが分かった。
「これは……、いけそう?」
そう思っていると、ケルピーがイカダを曳いて進みだした。
その方向には、湖の中央の浮島がある。そこへ向かうのだろうか?
「おぉ、カッコイイ」
「こんなこともあるのですね」
「ふむ、珍しいこともあるものだな」
ケルピーは五人をイカダに乗せ、湖の中央の浮島へ彼らを届けた。
「お~、ありがとう!」
手を振って見送るクロウ。
ケルピーはもう一度嘶くと、湖の下へ消えていった。
一行が浮島に上がると、早速ヴォジャノーイ達が襲ってきた。
しかし五人はベテランの冒険者。特に問題なくヴォジャノーイ達を撃退した。
「浮島へ来たけど、ヴォジャノーイ達を全部倒さないと、クエスト達成できないとかじゃないよな?」
「湖の下に逃げ込まれたら追えないしね」
「ボスでもいて、それを倒すとか?」
「そうだといいのですが……」
「浮島はそう広くない、手がかりを探そう」
五人はこうして、浮島を捜索することにした。
だが浮島の捜索はすぐに終わった。
島の中央に片腕の巨大なヴォジャノーイがいたのだ。
そしてその背には、老婆の魔女が乗っていたのである。
「あれがボスかな?」
「みたいだね」
「健康分析! 彼の名は『グレンデル』よ! 背中に乗っているのが母親ね」
「母親参観?」
「どうやったらこんなでかいカエルが生まれるんだ?」
「子供の時はオタマジャクシだったのよ。二重の意味で」
「その『二重』とは何だ?」
「…………」
こうして五人は武器を構え、戦闘に入った。
一行はグレンデルと老婆の魔女と対峙し、どちらを先に倒すか決めかねていた。
すると突然彼の口が開き、長い舌がこちらへ伸びて、クロウの体に巻き付いたのだ。
「うっ、まずい!」
「クロ!」
そうは思うも、他の四人がクロウを助ける前に、彼はグレンデルの口の中へ飲み込まれてしまったのである。
……グレンデルに飲み込まれたクロウは、真っ暗な彼の胃の中でもがいていた。
どこかに剣を落としたらしく、手には何も持ってない。
何とか体を動かしてみるものの、クロウは次第に意識が薄くなっていった……。
……気が付くとクロウはどこかの泉の前に立っていた。
(どこだろう? ここは……)
ぼんやりと頭の中で考えてみる……。
すると、目の前の泉に女神のような女性が浮かび上がって来て、その彼女が両手に剣を持ち、こちらに尋ねてきたのだ。
「……あなたが落としたのは、この『雷神剣』ですか? それともこちらの『コバルトソード』ですか? それともこちらの『フルンティング』ですか? それともこちらの『ネイリング』……」
女神は次々と剣を出してきたが、剣を持つ女神の腕も同じように次々と増えていく。
頭が混乱してきたクロウ、その口から出た言葉は、
「全部くれ!」
であった。
女神にとびかかり、剣を奪おうとするクロウ。
「こらっ! ばかっ! 放しなさいっ!」
女神も剣を奪われないようにもがきだした。
「いいからよこせ!」
なんとか剣を奪おうとしたが、その時の女神の腕は十本以上になっていたのだ。
「この無礼者!!!」
女神は怒り、クロウを十数本の腕で引き剥がすと、彼に強烈なビンタを食らわせた。
その強烈な痛みに目を覚ますクロウ。
「……う……」
良く分からないまま、手に持っていた剣を前に突き出した。
グレンデルの腹から尖った剣が飛び出し、その腹を縦に斬り裂いていく。
彼は背中に乗せていた老婆の魔女を振り落とし、仰向けに倒れ、息絶えてしまった。
〝グギギァッ!〟
老婆の魔女は、我が子を斬られた怒りでクロウに魔法を放ったが、エリーの背後からの奇襲でその狙いが外れてしまった。
「完全治癒!」
「クロさん! 大丈夫ですか?」
「ああ……」
意識が朦朧としていたクロウだが、リノの回復魔法で何とか意識を取り戻した。
「氷結飛槍!」
フェイの魔法が老婆の魔女の脚めがけて飛び、彼女の動きを牽制する。
この隙にクロウは魔女から距離を取り、体勢を整えた。
そして彼は剣を構えなおし、老婆の魔女に斬りかかる。
「えっ!? 斬れない!?」
だがその剣は彼女に全く通じず、素手で受け止められてしまったのだ。
「氷結飛針!」
そこへ再びフェイの魔法が彼女の顔に当たり、怯ませる。
「そこっ!」
次にヒナが強烈な突きを放ち、彼女の肩へと突き刺す。
リノの銃撃が彼女の耳を削ぎ、次にエリーが背後から彼女の首を狙い、斬りつけた。
〝ギアァァァッ!〟
奇声を上げてもがく老婆の魔女。
クロウは再び彼女に斬りかかるも、この剣では全く歯が立たないようだった。
「あれっ!? 効いてないのか?」
〝ギッ!〟
「ぐはっ……」
彼女の強烈な魔法の一撃がクロウを弾き飛ばした。
「そこだ!」
だがヒナはそこを狙って、彼女の片腕を切り落とした。
「キエェェッッ!」
老婆の魔女の悲鳴が辺りに響き渡る。
エリーが背後から彼女の背中を斬りつけると、フェイの魔法が彼女を包む。
「霜霧凍結!」
老婆の魔女はその場に膝をつき動けずにいると、彼女の体は凍り付いていき、最後には氷柱となった。
なんとか戦いに勝った一行。その顔には疲労の色が見えていた。
「ふぅ~、カエルに食われて死ぬかと思った」
「クロが食べられた時には、カエルの尻から出てくると思ったよ」
「両生類のフンになって出てきちゃうわね」
「そこから蘇生するとなると、それを集めて教会に持っていかないといけませんね」
「もうホントに勘弁してくれ……」
「皆酷いな、もう少し労わってやると良いものを」
「あたしら、いつもこういう感じだよ?」
「クロっちは結構丈夫なのよ、あれ位じゃ死なないわ」
「そうですね、クロさんはまだ一度も死んでませんし」
「そういやカエルの腹の中から出てきたとき、いつもと違う剣持ってなかった?」
「そういえばそうね。あの剣、どこで拾ったのかしら?」
「あの剣、魔女の方には全く歯が立たなかったんだよな~」
「見た目はとても美しく、切れ味も良さそうなのだがな……」
「クロさん、顔に赤い手形がついてますよ?」
クロウは自分の顔を触り、確かめようとしたが、ここには鏡がないようだ。
「あれ? 夢じゃなかったのかな?」
「どうしたのだ?」
「カエルの腹の中で、女神みたいな人が現れて、剣を見せびらかしてきたんだ。それで女神と剣の奪い合いになって、ビンタされたような……」
「どんな夢だよ!」
「う~ん、良く分からん……」
クロウはその剣を持ち、試しに近くにあった低い木を切ってみた。
木の幹は細かったが、その剣の切れ味は鋭く、力を込めなくても斬れたのだった。
「あれ? 木は斬れる、なんだこれ?」
「それが女神から奪った剣なの?」
「そうかも? 名前は確か……、『フルティン』だったような……?」
「何そのふざけた名前……?」
「うろ覚えだしな……」
「それ、もしかしたら、水属性じゃないのかしら?」
「グレンデルってでかいカエルが水属性みたいだし、その母親も水属性なのかな?」
「とにかく、クエストは達成できたみたいだし、帰りましょうか」
「そうだな、落ちてるもの拾って、帰ろうか」
こうして、一行は街に帰ることにした。
街へ戻り、クエストを報告する一行。
ドロップアイテムは、『バイデント』という二股の槍だった。
その槍はギルド倉庫へ入れておく事にした。
こうして一行は、新たなメンバーを加え、今回の冒険を無事に終わらせた。
五人は次の冒険に備え、休息を取る事にしたのであった。
拠点の入り口の扉を誰かがノックしてきた。訪問者が来たようだ。
「はーい」
リノは扉を開け、応対しようとするが、そこには誰もいない。
周りを見回すと、物陰に隠れていた『ヒナ』が顔を覗かせた。
「申し訳ない、また驚かされると困るので、不審者のようになってしまったようだ」
「ヒナさん、お久しぶりです、ぜひ中へどうぞ」
リノはそう言い、ヒナに席を勧め、紅茶をいれた。
「突然お邪魔して済まない」
「いいよいいよ、そんな気を使わなくても」
「そうそう、あたしらはそんなに堅苦しくないし」
「そうよね、何か面白い話でも持ってきてくれたのかしら?」
「話というのは、例の『妖刀』のことなのだが……」
「場所が見つかったとか?」
「いや、何処にも手掛りが無く、其方達なら何か知ってると思い、訪ねてきたのだ」
「今回は『妖刀』、無いと思うよ」
エリーが素っ気なく答えた。
「何っ!?」
「今回の勝利条件は、『ハッカーを倒す』だけだからね」
「ぐっ……、そうなのか……」
ヒナはがっかりして、首をうなだれてしまった。
「残念ね、ヒナっちはウチが衣装を集めてるのと同じように刀を集めてたしね」
「そうなのだ……。某は刀剣を集めるのが……。今回はどうしたらいいのだ……」
「じゃあさ、俺らのギルド入ったら?」
「そうね、ヒナなら大歓迎だよ」
「っ!? いいのか……?」
「いいと思うよ、どうせ暇なら一緒にやろうよ」
「そうですね、ヒナさんがいてくれると心強いですね」
「そうか……、皆、ありがとう……。これからもよろしく頼む……」
「じゃあ早速お化け出るとこ行こうか?」
フェイが意地悪そうな顔で言った。
「なっ!? それは……、ちょっと……」
「でもさ~、あたしらシーズン3の時、手伝ったよね~」
エリーも意地悪く微笑みながら、ヒナをからかう。
「ぐっ……、それを言われると……」
「皆さんからかうのはそれくらいにしておかないと、ヒナさん泣いてしまいますよ」
「う……、すまぬ……」
ヒナはもじもじして、困っているようだ。
「まあな、俺らこんな感じで冗談言いながら、適当に遊んでるんだ。気楽にやったらいいよ」
「そうか……、心遣い、すまぬ」
こうしてヒナは、ギルド『我々の中に裏切り者ガイル』に加入した。
この先にどんな運命が待ち受けるとも知らずに……。
五人になった一行は、冒険者ギルドへ顔を出した。
「ん~、面白そうなの、何かないかな?」
「これはどうだろ? 『泉の精霊・ネレイドが助けを求めている』、とかいうやつ」
「じゃあ、それにしよう。受付に渡してくるよ」
エリーはそう言って掲示板からチケットを取り、受付嬢へ渡した。
「次のクエストの場所は『パルス湖』ね、そこで『泉の精霊・ネレイド』を助けるみたいだね」
「じゃあ行くか!」
五人はそう話して、次のクエストの目的地『パルス湖』へ向かった。
――『パルス湖』
昔、この湖はとても美しく水は澄んでいて、この湖に浸かるだけで病気が治った、という伝説もあった。
だが今では、他の水の妖精との争いによって、水は濁り、過去の美しい湖の面影は無くなっていた。
一行は湖の淵にいるネレイド達を探し出し、詳しい話を聞いた。
「……何でも、『ヴォジャノーイ』という他の水の妖精と争いになってるらしいね」
「そうなのか?」
「うん、その『ヴォジャノーイ』ってのはヒゲの生えたカエルみたいな姿をしていて、湖の真ん中にある浮島に住んでるみたい」
「水のモンスターか……」
「船で行ったら途中で沈められそうだな」
「そうね、安全に水の上を進めるモノはないかしら?」
「フェイは『水上歩行』の魔法とか持ってないの?」
「ウチのだと、水の精霊を呼び出して、その汗を体中に塗るとか……」
「あのハゲ散らかした貧相なおっさんの汗か……」
「他に何かないのでしょうか?」
「聞いてみるよ……。……湖に『ケルピー』って馬がいて、それに乗れれば大丈夫らしいけど、気性が荒くて、下手したら湖の底に引きずり込まれるみたい」
「う~ん、怖いなぁ」
「試しに行ってみようではないか、無理なら他の手を考えよう」
「そうだな」
かくして五人は、ケルピーを探して湖を歩いた。
しばらく歩いて、一行はやっと『ケルピー』を見つけることが出来た。
その姿は、体の前半分は馬、後ろ半分は魚、という変わった生き物だった。
「これがケルピーか……」
「これに乗るの?」
「乗せてくれるかしら?」
「どうでしょうね……」
「さすがに一匹に五人は乗れまい……」
「だよね~」
そう話していると、湖の中から何者かが顔を出してきた。
ヒゲの生えた大きなカエル、これが『ヴォジャノーイ』だろうか。
それが湖の中から一匹二匹と次々浮上してきて、ケルピーを捕らえようとしたのだ。
「まずい! あの変な馬が捕まる!」
そうは言っても相手は水の中、ここからでは武器は届かない。
「氷結飛針!」
フェイが魔法を飛ばし、ヴォジャノーイ達を牽制する。
彼らはこちらに気づくと、獲物を取られまいとこちらへ襲いかかってきた。
数分の戦闘の後、半数を斬られたヴォジャノーイ達は湖の下へと逃げていった。
ケルピーはどうやら無事のようだ。
彼はこちらに近づいてきて、こちらに友好的な態度を取っている。
「う~ん、これに五人は無理だよな~?」
「一人ずつ乗るってのも危なそうだし……」
「途中で襲われてもねぇ……」
「どうしましょうか……?」
「困ったな……」
五人はそう悩んでいると、ケルピーはそれを察したのか、一度嘶いた。
するとどうだろう、辺りの水草が徐々に集まってきて、イカダのような形で目の前に浮いて来たのだ。
「これは乗れってことかな?」
「そうみたいね……」
とりあえず、エリーがそのイカダに乗ってみる。……大丈夫なようだ。
続けて二人三人と乗り、ついに五人乗っても沈まないことが分かった。
「これは……、いけそう?」
そう思っていると、ケルピーがイカダを曳いて進みだした。
その方向には、湖の中央の浮島がある。そこへ向かうのだろうか?
「おぉ、カッコイイ」
「こんなこともあるのですね」
「ふむ、珍しいこともあるものだな」
ケルピーは五人をイカダに乗せ、湖の中央の浮島へ彼らを届けた。
「お~、ありがとう!」
手を振って見送るクロウ。
ケルピーはもう一度嘶くと、湖の下へ消えていった。
一行が浮島に上がると、早速ヴォジャノーイ達が襲ってきた。
しかし五人はベテランの冒険者。特に問題なくヴォジャノーイ達を撃退した。
「浮島へ来たけど、ヴォジャノーイ達を全部倒さないと、クエスト達成できないとかじゃないよな?」
「湖の下に逃げ込まれたら追えないしね」
「ボスでもいて、それを倒すとか?」
「そうだといいのですが……」
「浮島はそう広くない、手がかりを探そう」
五人はこうして、浮島を捜索することにした。
だが浮島の捜索はすぐに終わった。
島の中央に片腕の巨大なヴォジャノーイがいたのだ。
そしてその背には、老婆の魔女が乗っていたのである。
「あれがボスかな?」
「みたいだね」
「健康分析! 彼の名は『グレンデル』よ! 背中に乗っているのが母親ね」
「母親参観?」
「どうやったらこんなでかいカエルが生まれるんだ?」
「子供の時はオタマジャクシだったのよ。二重の意味で」
「その『二重』とは何だ?」
「…………」
こうして五人は武器を構え、戦闘に入った。
一行はグレンデルと老婆の魔女と対峙し、どちらを先に倒すか決めかねていた。
すると突然彼の口が開き、長い舌がこちらへ伸びて、クロウの体に巻き付いたのだ。
「うっ、まずい!」
「クロ!」
そうは思うも、他の四人がクロウを助ける前に、彼はグレンデルの口の中へ飲み込まれてしまったのである。
……グレンデルに飲み込まれたクロウは、真っ暗な彼の胃の中でもがいていた。
どこかに剣を落としたらしく、手には何も持ってない。
何とか体を動かしてみるものの、クロウは次第に意識が薄くなっていった……。
……気が付くとクロウはどこかの泉の前に立っていた。
(どこだろう? ここは……)
ぼんやりと頭の中で考えてみる……。
すると、目の前の泉に女神のような女性が浮かび上がって来て、その彼女が両手に剣を持ち、こちらに尋ねてきたのだ。
「……あなたが落としたのは、この『雷神剣』ですか? それともこちらの『コバルトソード』ですか? それともこちらの『フルンティング』ですか? それともこちらの『ネイリング』……」
女神は次々と剣を出してきたが、剣を持つ女神の腕も同じように次々と増えていく。
頭が混乱してきたクロウ、その口から出た言葉は、
「全部くれ!」
であった。
女神にとびかかり、剣を奪おうとするクロウ。
「こらっ! ばかっ! 放しなさいっ!」
女神も剣を奪われないようにもがきだした。
「いいからよこせ!」
なんとか剣を奪おうとしたが、その時の女神の腕は十本以上になっていたのだ。
「この無礼者!!!」
女神は怒り、クロウを十数本の腕で引き剥がすと、彼に強烈なビンタを食らわせた。
その強烈な痛みに目を覚ますクロウ。
「……う……」
良く分からないまま、手に持っていた剣を前に突き出した。
グレンデルの腹から尖った剣が飛び出し、その腹を縦に斬り裂いていく。
彼は背中に乗せていた老婆の魔女を振り落とし、仰向けに倒れ、息絶えてしまった。
〝グギギァッ!〟
老婆の魔女は、我が子を斬られた怒りでクロウに魔法を放ったが、エリーの背後からの奇襲でその狙いが外れてしまった。
「完全治癒!」
「クロさん! 大丈夫ですか?」
「ああ……」
意識が朦朧としていたクロウだが、リノの回復魔法で何とか意識を取り戻した。
「氷結飛槍!」
フェイの魔法が老婆の魔女の脚めがけて飛び、彼女の動きを牽制する。
この隙にクロウは魔女から距離を取り、体勢を整えた。
そして彼は剣を構えなおし、老婆の魔女に斬りかかる。
「えっ!? 斬れない!?」
だがその剣は彼女に全く通じず、素手で受け止められてしまったのだ。
「氷結飛針!」
そこへ再びフェイの魔法が彼女の顔に当たり、怯ませる。
「そこっ!」
次にヒナが強烈な突きを放ち、彼女の肩へと突き刺す。
リノの銃撃が彼女の耳を削ぎ、次にエリーが背後から彼女の首を狙い、斬りつけた。
〝ギアァァァッ!〟
奇声を上げてもがく老婆の魔女。
クロウは再び彼女に斬りかかるも、この剣では全く歯が立たないようだった。
「あれっ!? 効いてないのか?」
〝ギッ!〟
「ぐはっ……」
彼女の強烈な魔法の一撃がクロウを弾き飛ばした。
「そこだ!」
だがヒナはそこを狙って、彼女の片腕を切り落とした。
「キエェェッッ!」
老婆の魔女の悲鳴が辺りに響き渡る。
エリーが背後から彼女の背中を斬りつけると、フェイの魔法が彼女を包む。
「霜霧凍結!」
老婆の魔女はその場に膝をつき動けずにいると、彼女の体は凍り付いていき、最後には氷柱となった。
なんとか戦いに勝った一行。その顔には疲労の色が見えていた。
「ふぅ~、カエルに食われて死ぬかと思った」
「クロが食べられた時には、カエルの尻から出てくると思ったよ」
「両生類のフンになって出てきちゃうわね」
「そこから蘇生するとなると、それを集めて教会に持っていかないといけませんね」
「もうホントに勘弁してくれ……」
「皆酷いな、もう少し労わってやると良いものを」
「あたしら、いつもこういう感じだよ?」
「クロっちは結構丈夫なのよ、あれ位じゃ死なないわ」
「そうですね、クロさんはまだ一度も死んでませんし」
「そういやカエルの腹の中から出てきたとき、いつもと違う剣持ってなかった?」
「そういえばそうね。あの剣、どこで拾ったのかしら?」
「あの剣、魔女の方には全く歯が立たなかったんだよな~」
「見た目はとても美しく、切れ味も良さそうなのだがな……」
「クロさん、顔に赤い手形がついてますよ?」
クロウは自分の顔を触り、確かめようとしたが、ここには鏡がないようだ。
「あれ? 夢じゃなかったのかな?」
「どうしたのだ?」
「カエルの腹の中で、女神みたいな人が現れて、剣を見せびらかしてきたんだ。それで女神と剣の奪い合いになって、ビンタされたような……」
「どんな夢だよ!」
「う~ん、良く分からん……」
クロウはその剣を持ち、試しに近くにあった低い木を切ってみた。
木の幹は細かったが、その剣の切れ味は鋭く、力を込めなくても斬れたのだった。
「あれ? 木は斬れる、なんだこれ?」
「それが女神から奪った剣なの?」
「そうかも? 名前は確か……、『フルティン』だったような……?」
「何そのふざけた名前……?」
「うろ覚えだしな……」
「それ、もしかしたら、水属性じゃないのかしら?」
「グレンデルってでかいカエルが水属性みたいだし、その母親も水属性なのかな?」
「とにかく、クエストは達成できたみたいだし、帰りましょうか」
「そうだな、落ちてるもの拾って、帰ろうか」
こうして、一行は街に帰ることにした。
街へ戻り、クエストを報告する一行。
ドロップアイテムは、『バイデント』という二股の槍だった。
その槍はギルド倉庫へ入れておく事にした。
こうして一行は、新たなメンバーを加え、今回の冒険を無事に終わらせた。
五人は次の冒険に備え、休息を取る事にしたのであった。
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そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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