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第二部
第30話 炎上、リベルタス
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――一行は『イトの国』から定期船に乗り、『リベルタス』へ向かっていた。
帰りの船上では、特に魔物に襲われることもなく、平穏に進んでいる。
太陽が高いところから徐々に下がって行き、間もなくリベルタスが見える頃だろう。
そう思い、船の先頭に立ち、その先を見る。
しかし、前方に見えたものは、街からは煙が上がり、その上の何匹もの飛竜が飛んでいる、そんな光景だった。
「あの煙……、街が襲われてるのか……?」
「そう見えるけど……、ここからじゃ……」
「空に飛竜が飛んでるわね、街を襲っているのかしら……」
「そんな……、酷い……」
「一体何が起こっているのだ……?」
一行だけでなく、他の乗客も船首に集まってきた。
だが船の上からできる事は何もない。
船がリベルタスに近づくにつれ、街が炎上しているのが分かり、歯噛みする。
早く船が街に着かないかと思うも、船は定常の速度で進んで行く。
港がはっきり見える頃には、街の中でも魔物との戦闘が起こっているのが見えた。
そして船が港に着くと、一行は飛び降りるように船着き場に上がり、街の中へ向けて走り出した。
リベルタスの街の広場でも、戦闘が起きていた。
広場の周囲の建物は所々崩れ、火を出している所もあった。
辺りには倒れた冒険者や魔物が散乱し、見慣れた広場の光景はもう無かった。
中央付近には『ドラゴン』や、ゴブリン、オークなどが冒険者と戦っている。
一行は武器を抜き、手近な魔物を斬りつつ、ドラゴンへ向かう。
そのドラゴンは大きいものでは無かったが、威圧感は普通の魔物のものでは無い。
ドラゴンが口から火を吹くが、クロウの『フルティン』の水属性でそれを斬り払う。
「氷結飛針!」
フェイは魔法でドラゴンの口を封じるも、彼の口内の熱ですぐ溶かされてしまう。
「そこっ!」
ヒナの『雪食一眼』が刀から炎を発して斬りかかり、それと同時にクロウも斬りつけた。
その時、ヒナの雪食一眼がフルティンと接触してしまい、刀の炎が消えてしまう。
「何してる! 炎が消えたぞ!」
「スマン! 剣が当たった」
エリーがドラゴンの尻尾を狙い、斬りかかるも余り傷を与えられない。
「氷結飛槍!」
フェイの魔法でドラゴンの動きを止めた時、クロウがフルティンをドラゴンの口の中めがけて突き刺す。
フルティンはドラゴンのキバで咬まれるも、その度に悲鳴のように水を出し続けた。
次第にドラゴンの腹が膨らんでいき、大量の水でその腹が膨れ上がってしまう。
その腹をリノが銃で撃ち抜くと、水が噴水のように漏れだした。
「氷結飛槍!」
漏れ出した水をフェイが凍らせ、さらに動きを止める。
「もらった!」
そこを狙いヒナが下段からドラゴンの首を切り上げ、その首を落とす。
五人の攻撃によってドラゴンを倒した一行は、油断せずに周囲を警戒した。
周りに敵はおらず、強敵を倒し安堵する一行。
突然、そこへ上空から飛竜が降りて来て、女性の声が聞こえた。
「君達か! いい所に来た、手を貸してくれ!」
その声の主は『グレイス』であった。
「グレイス、何があった?」
クロウは早口で尋ねた。
「私も途中から来たので分からないが、例のハッカーが魔物を連れて来たらしい」
「そうなの!? そのハッカーは?」
「分からん、今はここにいないらしい」
「その飛竜、どうしたの?」
「近くに手頃な飛竜がいたのでな、調教して乗り物にしたのだ」
「街の皆さんは大丈夫なのでしょうか?」
「分からん。私は上から偵察しつつ戦っているが、敵の数が多すぎるのだ」
「分かった、魔物を斬れば良いのだな、任せろ!」
「頼むぞ、戦える者も少なくなってきた」
グレイスはそう言うと、飛竜を器用に操り、上空へ飛んで行った。
「よし、生き残りを助けつつ、魔物を減らそう」
クロウはそう言い、一行は魔物を斬りながら進んで行く。
街の中にいる魔物は、強い者も弱い者も混在していたが、魔物達同士で争う事も無く、次々と街の人を襲っていた。
五人は街中の魔物を斬り、怪我人を助け、街の北側の入り口へ向かった。
そこでは、大型のアイアンゴーレムと戦っている、人間の戦士とドワーフがいた。
彼らの姿は既に知っている。『ウィグラフ』と『ドルフ』だ。
五人は彼らに加勢すべく、アイアンゴーレムに斬りかかる。
「おう! お前ら、いいとこに来たな! こいつは食えんから好きじゃないんだ」
「まだ食い意地張ってんのか、アホが」
「うるせぇ、ジジイ! ポンコツ槍よこしやがって!」
「腕がヘボイんじゃ!」
ウィグラフとドルフは罵り合いながらアイアンゴーレムと戦っている。
彼らはなんだかんだ言っても、仲はいいらしい。
五人はそんな二人に加勢して、アイアンゴーレムに攻撃を加え始めた。
クロウがアイアンゴーレムの腕に斬りかかるも、腕で止められてしまう。
だがその剣から水が流れ、腕を伝って、肘の関節まで水が流れ込んだ。
フェイはそれを見て、そこをめがけて氷魔法を撃ち込む。
敵の腕が凍り付いて動かなくなった所で、ヒナが雪食一眼でその腕を切り落とした。
片腕を失いつつもさらに暴れるアイアンゴーレム。
敵の足先めがけてドルフがハンマーで叩き潰すと、エリーが敵のかかとを斬る。
よろめく敵にウィグラフが激しい突きを入れ、敵を転ばせる。
アイアンゴーレムの見た目は大きく変わらなくても、七人の攻撃によって次第にダメージを蓄積させていき、ついに倒れて動かなくなった。
「お久しぶりです、お二人とも大きな怪我が無くて良かったです」
リノはこの場の全員の手当てにかかる。
「おう、よくやったな!」
ウィグラフはこちらを見て、そう言った。
「おっさん、無事だったか!」
「まぁな、この程度じゃ死なんさ」
「でも、あたしらが来なかったらヤバかったんじゃない?」
「そん時はすぐ逃げるさ」
「アイアンゴーレムは魔法が無いと厳しいからね~」
「一応、この槍は雷属性のはずなんだがな」
「お主の腕がヘボイからじゃよ」
「ジジイ、もっとまともな武器作れって!」
「この場の敵はいなくなったが、どうする?」
「そうだな、別な所へ行こうか。他でも誰か戦ってるみたいだし」
「おう、がんばれよ! そういうのは若いやつに任せた!」
「そうじゃの、儂らは年だしの」
「都合のいい時だけ年を認めるのね……」
彼らはそう話して、クロウ達五人が他の場所の救援に向かい、ウィグラフとドルフはここの北門を守ることにした。
再び街を歩きながら魔物の掃討と負傷者の救助をする一行。
次は通りを進みながら、東門を目指すことにした。
一度広場へ出ると、そこは落ち着きを取り戻していて、魔物の姿は無くなっていた。
横たわる怪我人やそれを治療する者などがいるが、一行は彼らに任せて東へ向かう。
東門の方ではまだ戦闘が続いているようだ。五人は足早にそこへ走る。
突如、前方で爆発が起こり、視界を砂塵が遮る。
腕で砂塵から目を守るように塞ぎつつ、なんとか前を見ようとする。
そこへ誰かが吹き飛ばされ、転がってきた。――ライシスだ。
リノは倒れているライシスに回復魔法をかけた。
「……お前らか……。東門にヤバイやつがいる。彼女を助けてやってくれ」
「どうした、ライス!? レンジでチンされたのか?」
「……違う……、ヤツだ、ハッカーだ」
ライシスはツッコミをいれる余力も無いようだった。
周囲を舞っていた砂塵が晴れ、東門が見えてくる。
五人は緊張しつつそこを見つめる……。
誰かが戦っているようだ。あの服装は……。
彼らはとりあえず東門を目指し、走った。
東門にいたのは『マオ』であった。
彼女が戦っているのは誰だろうか……。 少年のようだ。
その少年は細身の銀髪で、このゲームの世界の物では無いラフな格好をしていた。
マオは無言でその少年に指を向け、光線を出す。『魔法少女ビーム』だろう。
銀髪の少年はそれを余裕で躱し、彼もまた、指先から光線を出した。
彼女はそれをギリギリで躱しつつ、距離を詰めた。
マオが銀髪の少年に掴みかかり、彼を持ち上げて宙に飛ぶ。
彼女の得意技、『魔法少女バスター』だ。
マオは銀髪の少年を逆さに肩に乗せ、その両足を引き裂きつつ、尻餅をつくように地面に着地した。
大技が決まり、これで勝負は終わったかに見えた。
だが、その少年は地面に落ちると消えてしまい、どこにも見えなくなってしまった。
一行が東門に着くと、マオはこちらに話しかけてきた。
「アンタ達、なにしに来たのよ?」
「あれ? 今回は『魔王』じゃないのか?」
「そうよ、ラスボスはさっきの子供よ。多分コピーだけどね。それに今回はアタシを倒してもムダよ、もうラスボスじゃないしね」
「子供って……、そういうマオは何でここにいるの?」
「ラスボス目当てよ、探してたの」
「あれが本当にラスボスなのかしら?」
「多分そうよ、アタシの技を盗んですぐ使ったり、魔物を集めて街を襲ったり、とても普通じゃないわ。あんな事はアタシににも出来ないわね」
「それでは、この街は大丈夫なのでしょうか?」
「そうね、あの子供が何しに来たのか知らないけど。もうここにはいないしね」
「あれが今回のラスボスか……」
「アンタ達には無理よ。大人しくお茶でも飲んでなさい。じゃ、アタシは行くから」
マオはそう言って、街を出てどこかへ歩いて行った。
きっと一人でラスボスを探しに行くのだろう……。
……リベルタスの街中の戦いは、ひとまず終わりを告げた。
街を破壊された規模は大きかったが、半数近くの冒険者は無事だったようだ。
街の中で戦った者達は、有り合わせの物資を集めて、ささやかな祝宴を開いた。
一行は早々にその場から離れ、自分たちのギルド拠点へ戻って行った。
「今回のラスボス、相当強いな……」
クロウは真剣な顔でそう言った。
「だね~、今のあたしらじゃ、勝てそうにないわね」
エリーもぼんやり考えているようだ。
「ウチらも、もっと強くならないとダメね」
フェイは自分の髪をいじりながらそう言った。
「やはり、クエストをこなすなりして、強くならなければいけませんね」
リノもやる気を見せる。
「そうだな、某ももっと強くならねばな」
ヒナは目を閉じ、何か考えているようだ。
五人はそうして考え込む……。とは言っても、すぐに強くなれる訳ではない。
そうして沈黙していると、誰かが入り口の扉を叩いてきた。
リノが扉を開け、応対する。
そこにいたのは、ウィグラフとドルフだった。
「やあ、こんばんは。暗いね~、どうしたんだ?」
ウィグラフはいつもと変わらず、皆に話しかけた。
「今回のラスボスが強そうだから、どうしたもんかと思ってたんだ」
クロウがそう答えた。
「まあな、俺は気楽に旅して回るよ。まだ食ってないもんもあるしな」
「おっさんは相変わらずそれね~」
「つーことで、俺はしばらく街に戻らないから、代わりにこのジジイ置いてくよ」
「儂はお前の置物じゃないわ!」
「じゃあ、俺は出かけるからな、後は任せたぞ」
ウィグラフはそう言って、どこかへ旅立っていった。
残ったドルフは口を開いた。
「儂はな、壊されたこの街に残り、復興の手助けをしようと思っておる」
「そうなのか、爺さん、それは助かる」
「うむ、そのうち店を構えるつもりじゃ」
「へぇ~、爺さん、本格的に商売始めるのね」
「商売というか、若い者達に武器を作ってやり、あの銀髪の小僧を倒す手助けをしようかとな」
「それは心強いわね。でも、タダではないんでしょ?」
「それはもちろんそうだ。アマダントンか、オリハルコンを持ってきてくれれば、お主らにも武器を作ってやるぞ」
「銃は作れるのでしょうか?」
「ああ、できるぞ。ただな、銃弾は無理じゃな」
「そうですか、でも素材を手に入れたら頼みたいですね」
「うむ、儂はこの街のどこかにいるから、用があったら呼んでくれ。じゃあの」
ドルフはそう言って、ひとまず去って行った。
そして再び相談を始める一行。
「となると、鉱石が必要になるわけか……」
「どっちもレアな鉱石だよね」
「簡単に採掘できる場所が分かれば、簡単なんだけどね~」
「まず、鉱石の場所の情報を集めなければいけませんね」
「そうだな、鉱石を探していれば、修行にもなるだろうしな」
こうしてリベルタスを救った一行であったが、課題は残った。
今回のラスボスとなる銀髪の少年。それに対抗する力を得られるのであろうか。
五人はそれぞれ心に何かを秘めつつ、今日は休む事にしたのであった。
帰りの船上では、特に魔物に襲われることもなく、平穏に進んでいる。
太陽が高いところから徐々に下がって行き、間もなくリベルタスが見える頃だろう。
そう思い、船の先頭に立ち、その先を見る。
しかし、前方に見えたものは、街からは煙が上がり、その上の何匹もの飛竜が飛んでいる、そんな光景だった。
「あの煙……、街が襲われてるのか……?」
「そう見えるけど……、ここからじゃ……」
「空に飛竜が飛んでるわね、街を襲っているのかしら……」
「そんな……、酷い……」
「一体何が起こっているのだ……?」
一行だけでなく、他の乗客も船首に集まってきた。
だが船の上からできる事は何もない。
船がリベルタスに近づくにつれ、街が炎上しているのが分かり、歯噛みする。
早く船が街に着かないかと思うも、船は定常の速度で進んで行く。
港がはっきり見える頃には、街の中でも魔物との戦闘が起こっているのが見えた。
そして船が港に着くと、一行は飛び降りるように船着き場に上がり、街の中へ向けて走り出した。
リベルタスの街の広場でも、戦闘が起きていた。
広場の周囲の建物は所々崩れ、火を出している所もあった。
辺りには倒れた冒険者や魔物が散乱し、見慣れた広場の光景はもう無かった。
中央付近には『ドラゴン』や、ゴブリン、オークなどが冒険者と戦っている。
一行は武器を抜き、手近な魔物を斬りつつ、ドラゴンへ向かう。
そのドラゴンは大きいものでは無かったが、威圧感は普通の魔物のものでは無い。
ドラゴンが口から火を吹くが、クロウの『フルティン』の水属性でそれを斬り払う。
「氷結飛針!」
フェイは魔法でドラゴンの口を封じるも、彼の口内の熱ですぐ溶かされてしまう。
「そこっ!」
ヒナの『雪食一眼』が刀から炎を発して斬りかかり、それと同時にクロウも斬りつけた。
その時、ヒナの雪食一眼がフルティンと接触してしまい、刀の炎が消えてしまう。
「何してる! 炎が消えたぞ!」
「スマン! 剣が当たった」
エリーがドラゴンの尻尾を狙い、斬りかかるも余り傷を与えられない。
「氷結飛槍!」
フェイの魔法でドラゴンの動きを止めた時、クロウがフルティンをドラゴンの口の中めがけて突き刺す。
フルティンはドラゴンのキバで咬まれるも、その度に悲鳴のように水を出し続けた。
次第にドラゴンの腹が膨らんでいき、大量の水でその腹が膨れ上がってしまう。
その腹をリノが銃で撃ち抜くと、水が噴水のように漏れだした。
「氷結飛槍!」
漏れ出した水をフェイが凍らせ、さらに動きを止める。
「もらった!」
そこを狙いヒナが下段からドラゴンの首を切り上げ、その首を落とす。
五人の攻撃によってドラゴンを倒した一行は、油断せずに周囲を警戒した。
周りに敵はおらず、強敵を倒し安堵する一行。
突然、そこへ上空から飛竜が降りて来て、女性の声が聞こえた。
「君達か! いい所に来た、手を貸してくれ!」
その声の主は『グレイス』であった。
「グレイス、何があった?」
クロウは早口で尋ねた。
「私も途中から来たので分からないが、例のハッカーが魔物を連れて来たらしい」
「そうなの!? そのハッカーは?」
「分からん、今はここにいないらしい」
「その飛竜、どうしたの?」
「近くに手頃な飛竜がいたのでな、調教して乗り物にしたのだ」
「街の皆さんは大丈夫なのでしょうか?」
「分からん。私は上から偵察しつつ戦っているが、敵の数が多すぎるのだ」
「分かった、魔物を斬れば良いのだな、任せろ!」
「頼むぞ、戦える者も少なくなってきた」
グレイスはそう言うと、飛竜を器用に操り、上空へ飛んで行った。
「よし、生き残りを助けつつ、魔物を減らそう」
クロウはそう言い、一行は魔物を斬りながら進んで行く。
街の中にいる魔物は、強い者も弱い者も混在していたが、魔物達同士で争う事も無く、次々と街の人を襲っていた。
五人は街中の魔物を斬り、怪我人を助け、街の北側の入り口へ向かった。
そこでは、大型のアイアンゴーレムと戦っている、人間の戦士とドワーフがいた。
彼らの姿は既に知っている。『ウィグラフ』と『ドルフ』だ。
五人は彼らに加勢すべく、アイアンゴーレムに斬りかかる。
「おう! お前ら、いいとこに来たな! こいつは食えんから好きじゃないんだ」
「まだ食い意地張ってんのか、アホが」
「うるせぇ、ジジイ! ポンコツ槍よこしやがって!」
「腕がヘボイんじゃ!」
ウィグラフとドルフは罵り合いながらアイアンゴーレムと戦っている。
彼らはなんだかんだ言っても、仲はいいらしい。
五人はそんな二人に加勢して、アイアンゴーレムに攻撃を加え始めた。
クロウがアイアンゴーレムの腕に斬りかかるも、腕で止められてしまう。
だがその剣から水が流れ、腕を伝って、肘の関節まで水が流れ込んだ。
フェイはそれを見て、そこをめがけて氷魔法を撃ち込む。
敵の腕が凍り付いて動かなくなった所で、ヒナが雪食一眼でその腕を切り落とした。
片腕を失いつつもさらに暴れるアイアンゴーレム。
敵の足先めがけてドルフがハンマーで叩き潰すと、エリーが敵のかかとを斬る。
よろめく敵にウィグラフが激しい突きを入れ、敵を転ばせる。
アイアンゴーレムの見た目は大きく変わらなくても、七人の攻撃によって次第にダメージを蓄積させていき、ついに倒れて動かなくなった。
「お久しぶりです、お二人とも大きな怪我が無くて良かったです」
リノはこの場の全員の手当てにかかる。
「おう、よくやったな!」
ウィグラフはこちらを見て、そう言った。
「おっさん、無事だったか!」
「まぁな、この程度じゃ死なんさ」
「でも、あたしらが来なかったらヤバかったんじゃない?」
「そん時はすぐ逃げるさ」
「アイアンゴーレムは魔法が無いと厳しいからね~」
「一応、この槍は雷属性のはずなんだがな」
「お主の腕がヘボイからじゃよ」
「ジジイ、もっとまともな武器作れって!」
「この場の敵はいなくなったが、どうする?」
「そうだな、別な所へ行こうか。他でも誰か戦ってるみたいだし」
「おう、がんばれよ! そういうのは若いやつに任せた!」
「そうじゃの、儂らは年だしの」
「都合のいい時だけ年を認めるのね……」
彼らはそう話して、クロウ達五人が他の場所の救援に向かい、ウィグラフとドルフはここの北門を守ることにした。
再び街を歩きながら魔物の掃討と負傷者の救助をする一行。
次は通りを進みながら、東門を目指すことにした。
一度広場へ出ると、そこは落ち着きを取り戻していて、魔物の姿は無くなっていた。
横たわる怪我人やそれを治療する者などがいるが、一行は彼らに任せて東へ向かう。
東門の方ではまだ戦闘が続いているようだ。五人は足早にそこへ走る。
突如、前方で爆発が起こり、視界を砂塵が遮る。
腕で砂塵から目を守るように塞ぎつつ、なんとか前を見ようとする。
そこへ誰かが吹き飛ばされ、転がってきた。――ライシスだ。
リノは倒れているライシスに回復魔法をかけた。
「……お前らか……。東門にヤバイやつがいる。彼女を助けてやってくれ」
「どうした、ライス!? レンジでチンされたのか?」
「……違う……、ヤツだ、ハッカーだ」
ライシスはツッコミをいれる余力も無いようだった。
周囲を舞っていた砂塵が晴れ、東門が見えてくる。
五人は緊張しつつそこを見つめる……。
誰かが戦っているようだ。あの服装は……。
彼らはとりあえず東門を目指し、走った。
東門にいたのは『マオ』であった。
彼女が戦っているのは誰だろうか……。 少年のようだ。
その少年は細身の銀髪で、このゲームの世界の物では無いラフな格好をしていた。
マオは無言でその少年に指を向け、光線を出す。『魔法少女ビーム』だろう。
銀髪の少年はそれを余裕で躱し、彼もまた、指先から光線を出した。
彼女はそれをギリギリで躱しつつ、距離を詰めた。
マオが銀髪の少年に掴みかかり、彼を持ち上げて宙に飛ぶ。
彼女の得意技、『魔法少女バスター』だ。
マオは銀髪の少年を逆さに肩に乗せ、その両足を引き裂きつつ、尻餅をつくように地面に着地した。
大技が決まり、これで勝負は終わったかに見えた。
だが、その少年は地面に落ちると消えてしまい、どこにも見えなくなってしまった。
一行が東門に着くと、マオはこちらに話しかけてきた。
「アンタ達、なにしに来たのよ?」
「あれ? 今回は『魔王』じゃないのか?」
「そうよ、ラスボスはさっきの子供よ。多分コピーだけどね。それに今回はアタシを倒してもムダよ、もうラスボスじゃないしね」
「子供って……、そういうマオは何でここにいるの?」
「ラスボス目当てよ、探してたの」
「あれが本当にラスボスなのかしら?」
「多分そうよ、アタシの技を盗んですぐ使ったり、魔物を集めて街を襲ったり、とても普通じゃないわ。あんな事はアタシににも出来ないわね」
「それでは、この街は大丈夫なのでしょうか?」
「そうね、あの子供が何しに来たのか知らないけど。もうここにはいないしね」
「あれが今回のラスボスか……」
「アンタ達には無理よ。大人しくお茶でも飲んでなさい。じゃ、アタシは行くから」
マオはそう言って、街を出てどこかへ歩いて行った。
きっと一人でラスボスを探しに行くのだろう……。
……リベルタスの街中の戦いは、ひとまず終わりを告げた。
街を破壊された規模は大きかったが、半数近くの冒険者は無事だったようだ。
街の中で戦った者達は、有り合わせの物資を集めて、ささやかな祝宴を開いた。
一行は早々にその場から離れ、自分たちのギルド拠点へ戻って行った。
「今回のラスボス、相当強いな……」
クロウは真剣な顔でそう言った。
「だね~、今のあたしらじゃ、勝てそうにないわね」
エリーもぼんやり考えているようだ。
「ウチらも、もっと強くならないとダメね」
フェイは自分の髪をいじりながらそう言った。
「やはり、クエストをこなすなりして、強くならなければいけませんね」
リノもやる気を見せる。
「そうだな、某ももっと強くならねばな」
ヒナは目を閉じ、何か考えているようだ。
五人はそうして考え込む……。とは言っても、すぐに強くなれる訳ではない。
そうして沈黙していると、誰かが入り口の扉を叩いてきた。
リノが扉を開け、応対する。
そこにいたのは、ウィグラフとドルフだった。
「やあ、こんばんは。暗いね~、どうしたんだ?」
ウィグラフはいつもと変わらず、皆に話しかけた。
「今回のラスボスが強そうだから、どうしたもんかと思ってたんだ」
クロウがそう答えた。
「まあな、俺は気楽に旅して回るよ。まだ食ってないもんもあるしな」
「おっさんは相変わらずそれね~」
「つーことで、俺はしばらく街に戻らないから、代わりにこのジジイ置いてくよ」
「儂はお前の置物じゃないわ!」
「じゃあ、俺は出かけるからな、後は任せたぞ」
ウィグラフはそう言って、どこかへ旅立っていった。
残ったドルフは口を開いた。
「儂はな、壊されたこの街に残り、復興の手助けをしようと思っておる」
「そうなのか、爺さん、それは助かる」
「うむ、そのうち店を構えるつもりじゃ」
「へぇ~、爺さん、本格的に商売始めるのね」
「商売というか、若い者達に武器を作ってやり、あの銀髪の小僧を倒す手助けをしようかとな」
「それは心強いわね。でも、タダではないんでしょ?」
「それはもちろんそうだ。アマダントンか、オリハルコンを持ってきてくれれば、お主らにも武器を作ってやるぞ」
「銃は作れるのでしょうか?」
「ああ、できるぞ。ただな、銃弾は無理じゃな」
「そうですか、でも素材を手に入れたら頼みたいですね」
「うむ、儂はこの街のどこかにいるから、用があったら呼んでくれ。じゃあの」
ドルフはそう言って、ひとまず去って行った。
そして再び相談を始める一行。
「となると、鉱石が必要になるわけか……」
「どっちもレアな鉱石だよね」
「簡単に採掘できる場所が分かれば、簡単なんだけどね~」
「まず、鉱石の場所の情報を集めなければいけませんね」
「そうだな、鉱石を探していれば、修行にもなるだろうしな」
こうしてリベルタスを救った一行であったが、課題は残った。
今回のラスボスとなる銀髪の少年。それに対抗する力を得られるのであろうか。
五人はそれぞれ心に何かを秘めつつ、今日は休む事にしたのであった。
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そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
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勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
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彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
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かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
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