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第二部
第33話 凝視、坑道を見る邪眼
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――翌朝。
一行は鍛冶師・ドルフの所へ来ていた。
武器の素材となる、『オリハルコン』、『アダマント』、『属性の魔石』を手に入れたので、武器を作ってもらおうと頼みに来たのだ。
「よお、手に入ったのか?」
ドルフは口元を緩ませながら、そう言った。
「属性の武器を作ってもらおうと思ってね。今回はエリーの武器を頼みに来たんだ」
「そういうことなんで、よろしくね、お爺ちゃん」
「ふむ、オリハルコンとアダマタンは結構あるな、三、四本作れそうだな……。で、どんな武器だ?」
「風属性の短剣を二本作ってもらおうと思ってるんだけど、いいかな?」
「ああ、構わんぞ。形はどういうのがいい?」
「これこれ、こういうかんじで……」
「なるほど、面白い、やってみよう」
「うん、じゃあ頼むね~」
「今晩には出来上がるじゃろ、それまで……」
ドルフは顎髭をいじりながら、何か考え始めた。
「どうしたの?」
「うむ、儂らがよく採掘しに行ってる鉱山がな、魔物が出て面倒になったとかいう話を思い出してな」
「そうなの? あ、そういえば、冒険者ギルドはまだ再開してないんだね」
「そうなんじゃよ。それで、お主らが見に行ってくれんかな?」
「うん、武器が出来上がるまでヒマだし、見てきてあげるよ」
「そうしてもらえると助かるわい」
「まあね、これは武器の製作依頼の代金だと思って」
「……まあいいじゃろ。では頼んだぞ」
「オッケー、さくっと行ってくるよ」
こうして五人は、武器が出来上がるまでの間に、ドルフの頼みで鉱山に出た魔物を退治しに行くことにしたのだ。
――『タムタス鉱山』
リベルタスの北東にある鉱山で、今でも採掘が続けられている有名な所だ。
ここの鉱山では、鉄、石炭、銅など、日常的に使われる金属の鉱石が掘られている。
本来ならば、冒険者ギルドを介して依頼が発生するはずだが、リベルタスが復興中の為、一行がこの仕事を引き受けたのだ。
五人は入り口にいた鉱夫達に中の状況を聞き、鉱山の中へ足を踏み入れた。
「第三層から魔物が出始めるらしいな」
「そうみたいね」
「ウチらで無くても出来そうな感じだよね?」
「ギルドがありませんから、私達がやるべきでしょうね」
「そうだな、困ってる人を助け、さらに修行にもなる」
「んじゃ、三層まで行こうか」
五人はいつも通り、魔物のいる場所へと降りて行った。
――第三層。
ここへ来ると、話に聞いていた通り、魔物の姿が目に入ってきた。
口が異常に大きく、体の短いトカゲのような姿をして、石や岩に齧りついている。
これが、――『ロックイーター』である。
「なんだこいつら、石を食ってるのか?」
「『ロックイーター』ね。石や岩を食べる魔物よ」
「足が短くて動きが遅いけど、噛む力はもの凄いわ」
「噛まれたら大変ですね」
「皮膚も硬そうだな」
「手始めにこいつら駆除するか」
五人はそうして、ロックイーター達を斬りながら、第三層を進む。
ここの魔物達をあらかた駆除する頃には、下へ続く道を見つけ、そこを降りた。
――第四層。
ここにももちろん魔物はいる。
この層にいるのは、翼の生えた大きな目玉。『フローティングアイ』だ。
「こんどは目玉か。どうやって浮いてるんだ? これ」
「いちおう翼はあるけどね……」
「魔法で浮いてるんじゃないの?」
「あの大きな目に睨まれると、状態異常が引き起こされるかもしれませんね」
「厄介だな……」
『フローティングアイ』は確かに面倒な敵であった。
目が合うだけで体が痺れを起こしてしまい、リノの回復魔法や薬で治療する。
しかし注意するのはそこだけで、何とか目を合わせないように戦い、駆除できた。
そして第四層の敵を大分減らしたと思っていた時、通常ではない目玉を見つけた。
その姿はフローティングアイより大きく、紫がかった体が毒々しい生き物だ。
「健康分析! 彼の名は『ゲイザー』よ! 逆さまつ毛が目に刺さって痛いらしいわ!」
「目がデカイとまつ毛も太いのか……」
「指くらいあるね……」
「見て! まつ毛に枝毛があるわ!」
「……状態異常とかかけてきそうですよね」
「それは困るな、何か情報はないのか?」
「ウチの魔法はヘルスチェックがメインだからね」
「相変わらず微妙な魔法だよね……」
「まあいい、目を合わせないように戦おうか、何とかなるだろう」
そのように彼らは、いつものように何も考えず戦闘を開始した。
目を合わせないように、機先を制し、ヒナがゲイザーに詰め寄り突きを放つ。
「!?」
だがそこには、ゲイザーは消え、何もいない空間だけがあった。
「どこだ!?」
「瞬間移動?」
五人はそれぞれ敵の姿を追う。
〝ニャー〟
不意に背後から子猫の鳴き声が聞こえた。
皆一斉に後ろを振り返る。だが、そこにいたのはゲイザーだった。
「くっ!」
「卑怯な!」
五人はすぐに目を閉じるも、ゲイザーと目を合わせてしまう。
目の前が一瞬暗闇に覆われ、再び目が見えてくる頃には敵は消えていた。
「くそっ! どこ行った?」
「クロ! 胸が!」
クロウは顔を下に向け、自分の胸を見る。
……そこにあったのは、女性のような胸の膨らみだったのだ。
「えぇっ!?」
突然女性のような姿になってしまい。驚くクロウ。
「エリっちも胸が!」
「えっ!?」
エリーも自分の胸を見ると、そこにはいつもの自分の胸は無くなっていたのだ。
「フェイさん、胸が……」
「なっ!?」
フェイも自分の胸を確認する。
胸の谷間を強調する服を着ていたはずが、そこに見えるのは厚い胸板と胸毛だった。
「いやーっ! 胸が無くなって胸毛が生えてる! それに腕や指にも毛が!」
慌てて自分の胸を腕で隠そうとするフェイ。しかし胸毛は隠しきれていない。
リノは自分の胸を触って確認するも、自分の腕が筋肉に包まれていた。
「これは……、もしかして、性転換してしまったのではないのでしょうか……?」
ヒナも自分の胸を触り、確かめる。彼女の眉毛は太くなっていた。
「そうらしいな……、いつもより肩が軽くなったようだ。だがこの股間の遺物は……」
「状態異常が『性転換』って何なんだよ!」
「イヤっ、もうあたしの胸を返して!」
「エリっちはともかく、ウチの胸が……」
五人それぞれ今の自分の姿に混乱してしまう。
そこへ先ほどまで消えていたゲイザーが現れた。
その彼の目は笑っているように見える。
五人は怒り、一斉にゲイザーを攻撃しだした。
程なくして、ゲイザーはヒナの一刀で両断され、さらに切り刻まれ、死んだ。
だが、彼を倒しても、全員の状態異常は治らなかったのである……。
途方に暮れる一行。
「これは……、どうしよう……?」
「あ~もう! 街に帰れないよ!」
「リノっち、この状態異常を治す薬は無いの?」
「私も初めてですので……」
「これは困ったな……、だがいつもより力が増えた気がする……」
「このダンジョン攻略しないと無理かな?」
「最悪だね……」
「これは人に見られたくないわね……」
「どうしましょう? これを治す魔法もありませんし……」
「奥へ進み、ここのボスを倒そう。恐らくそれで戻るはずだ」
ヒナがそう言い、五人はこの坑道の奥へと進みだした。
――第五層。
一行は自分の体に違和感を感じつつ、この層へ来た。
第五層には魔物の姿が見えず、静まり返っていた。
「魔物がいないな」
「ボスがいるんじゃない?」
「とにかく、元の体に戻りたいわね」
「そうですね……」
「どのような魔物がでるか楽しみだな」
そう話しつつ、五層の捜索を始める。
だが魔物の影すら見つからず、困惑する五人。
「ホントにいるのかな?」
「どうだろう? 今のところ見ないね」
「どうしたのかしら? ボスがいてもおかしくないのに」
「おかしいですね……」
「ふむ……」
さらに探すも、魔物の姿は見えない。
一通り五層を探し終え、引き返そうとした、その時である。
五人が振り返ると、先ほどまで無かった岩が、道を塞いでいるのだ。
「なんだ、この岩?」
クロウが足を踏み出すと、岩の表面が動き、あらゆる所から目が出てきたのだ。
岩の表面に無数の数えきれない目が開き、それぞれ動いて醜悪な形の岩となった。
「うわっ! キモっ!」
「これ、魔物?」
「そうみたいですね」
「なんだこいつは……」
すると突然、岩の無数の目が輝き、そこから細い光線が出てきたのだ。
「くそっ! 敵か!」
クロウは咄嗟に剣を振り、水しぶきでその光線を遮る。
「健康分析! 彼の名は『邪眼集岩』よ!」
「聖なる盾!」
リノの補助魔法が全員にかかる。
「やるぞ!」
ヒナの掛け声で戦闘が開始された。
ヒナが『邪眼集岩』との距離を詰め、斬り下げて岩の目を数個潰す。
フェイの魔法、リノの銃撃も加え、さらに岩の目を潰す。
岩の目から発射される光線は、一本では効果は無いものの、複数の光線が重なる所は高熱を発するようだ。
エリーがひざ下に火傷を負い、リノの回復魔法を受ける。
「あちっ! ビームが重なるとやばいね」
「水しぶきで威力は下がるみたいだけど、ずっと水を出し続ける訳には……」
「霜霧凍結!」
フェイの氷魔法が岩の周囲を凍らせ、その岩を凍結するかに見えた。
だが、凍ったのは岩の表面だけで、再び岩の瞼らしきものが開くと、中の目がこちらをじっと見つめだす。
「うそっ! 凍結が効かないの!?」
フェイが珍しく動揺する。
「ならば斬るまでだ!」
ヒナが岩の表面を斬り、その目を何個か潰したが、その岩の目は多すぎる。
斬った部分だけ封じても、他の目がこちらへ光線を発射してくるのだ。
エリーも岩を斬るのに加わり、両手の二本の短剣で斬りまくる。
岩の目が光ると後ろへ退がり、光線を回避する。
それを繰り返しているうちに、岩の目は半数近くまで減ってきた。
「このまま押せば倒せるかな?」
エリーはそう言い、再び斬り込もうとすると、岩が後転しだした。
「なっ!?」
突然の岩の動きに後ろへ下がるエリー。
岩が後転すると、そこにはさらに無数の目があったのだ。
「キリが無いな……」
珍しくヒナがぼやく。
そうは言うものの、岩の目が光り、また光線が発射され、五人はそれぞれ躱す。
皆が思案していると、魔物と地面を見ていたクロウは何か思いついたようだ。
「フェイ、床を凍らせよう!」
「……そうね、やってみるわ」
二人はそう言って、まずクロウが地面に水を撒く。
フェイは魔法で岩の魔物の後ろの地面を凍らせていった。
そして、エリー、リノ、ヒナの三人で岩の目を攻撃し、目を潰していく。
再び岩の魔物が後転しだすと、五人で岩の魔物を奥へ押し出した。
岩の魔物は地面が凍っているせいで思うように回転できず、後方へと押される。
魔物の後ろは下り坂になっていて、そこを転がって行くと徐々に回転が加速していき、ついには勢いよく壁にぶつかり、割れてしまった。
……なんとか邪眼集岩を壁に叩きつけ、岩を割って倒した一行。
彼がいた場所には、『土の魔石』が転がっていた。
それを拾い上げる頃には五人の体は元に戻ったようだ。
自分自身の体を確認し、やっと安心できた五人。
それから坑道の安全を確認すると、リベルタスに戻ったのだった。
一行がリベルタスに戻ると、ドルフが短剣を二本完成させていた。
エリーが短剣を受け取りにドルフの元へ顔を出す。
「ほれ、頼まれた風属性の短剣だ」
ドルフからエリーに新しい二本の短剣が手渡された。
「お~、カッコいいね!」
エリーは上機嫌でその二本の短剣を眺める。
「この短剣の名前は?」
「『ボレアス』と『ノトス』。儂は仮にそう名付けたが、好きな名をつけると良い」
「うん、いい名前だね。それに決めたよ。ありがとう、爺さん」
「なあに、素材を持ってきてくれたんだ、それくらい構わん。」
エリーはその二本の短剣を、試しに振ってみる。
その短剣の軌跡に風が生じ、いかにも風属性を持っているようだ。
「その短剣はな、二本の斬撃を合わせると、つむじ風を巻き起こすぞ」
「へぇ~、凄いね」
そう言って、エリーは二本の剣を同時に振ってみた。
目の前につむじ風が現れ、砂埃を巻き上げる。
「お~、凄い凄い」
そう言ってさらに二本の剣を振り続けると、つむじ風がどんどん大きくなってきた。
そのつむじ風は周囲の風を巻き込み、徐々に大きくなっていくと、もはや竜巻と呼べるような代物になってしまった。
「爺さん! これどうすんの!?」
「知らん……。まさかこんなやり方が……」
エリーはドルフの胸倉を掴み揺さぶるも、ドルフは目を背けてしまう。
仕方なくエリーは、竜巻と逆方向に『ボレアス』と『ノトス』を振りつけた。
すると竜巻は、この場を徐々に離れて行った。
街の中に被害が及ぶ前に、エリーは二本の短剣を何度か振り、竜巻を街の南の海へと追い払った。
その後、竜巻は海に出てからも成長を続け、海水を巻き上げつつ、消えて行った。
「爺さん、とんでもないのを作ったね……」
「そう褒めるな、ハッハ!」
「笑い事じゃないような……」
……その夜の事、リベルタスの街に、何か重量のあるものが降り注いだ。
その震動と音で、リベルタスの街の人が慌てて家の外へ出ると、そこには大小の海の魚が地面の上を跳ねていたのだ。
彼らが夜空を見上げると、空からさらに数多くの魚が降ってきている。
街の人はこれは何かの不吉な前兆かと恐れ、一晩中眠れなかったようだ。
この話を聞きつけたエリーは、(自分のせいじゃない、爺さんが悪いんだ)と思いつつ、明日に備え、再び眠りについたのであった。
一行は鍛冶師・ドルフの所へ来ていた。
武器の素材となる、『オリハルコン』、『アダマント』、『属性の魔石』を手に入れたので、武器を作ってもらおうと頼みに来たのだ。
「よお、手に入ったのか?」
ドルフは口元を緩ませながら、そう言った。
「属性の武器を作ってもらおうと思ってね。今回はエリーの武器を頼みに来たんだ」
「そういうことなんで、よろしくね、お爺ちゃん」
「ふむ、オリハルコンとアダマタンは結構あるな、三、四本作れそうだな……。で、どんな武器だ?」
「風属性の短剣を二本作ってもらおうと思ってるんだけど、いいかな?」
「ああ、構わんぞ。形はどういうのがいい?」
「これこれ、こういうかんじで……」
「なるほど、面白い、やってみよう」
「うん、じゃあ頼むね~」
「今晩には出来上がるじゃろ、それまで……」
ドルフは顎髭をいじりながら、何か考え始めた。
「どうしたの?」
「うむ、儂らがよく採掘しに行ってる鉱山がな、魔物が出て面倒になったとかいう話を思い出してな」
「そうなの? あ、そういえば、冒険者ギルドはまだ再開してないんだね」
「そうなんじゃよ。それで、お主らが見に行ってくれんかな?」
「うん、武器が出来上がるまでヒマだし、見てきてあげるよ」
「そうしてもらえると助かるわい」
「まあね、これは武器の製作依頼の代金だと思って」
「……まあいいじゃろ。では頼んだぞ」
「オッケー、さくっと行ってくるよ」
こうして五人は、武器が出来上がるまでの間に、ドルフの頼みで鉱山に出た魔物を退治しに行くことにしたのだ。
――『タムタス鉱山』
リベルタスの北東にある鉱山で、今でも採掘が続けられている有名な所だ。
ここの鉱山では、鉄、石炭、銅など、日常的に使われる金属の鉱石が掘られている。
本来ならば、冒険者ギルドを介して依頼が発生するはずだが、リベルタスが復興中の為、一行がこの仕事を引き受けたのだ。
五人は入り口にいた鉱夫達に中の状況を聞き、鉱山の中へ足を踏み入れた。
「第三層から魔物が出始めるらしいな」
「そうみたいね」
「ウチらで無くても出来そうな感じだよね?」
「ギルドがありませんから、私達がやるべきでしょうね」
「そうだな、困ってる人を助け、さらに修行にもなる」
「んじゃ、三層まで行こうか」
五人はいつも通り、魔物のいる場所へと降りて行った。
――第三層。
ここへ来ると、話に聞いていた通り、魔物の姿が目に入ってきた。
口が異常に大きく、体の短いトカゲのような姿をして、石や岩に齧りついている。
これが、――『ロックイーター』である。
「なんだこいつら、石を食ってるのか?」
「『ロックイーター』ね。石や岩を食べる魔物よ」
「足が短くて動きが遅いけど、噛む力はもの凄いわ」
「噛まれたら大変ですね」
「皮膚も硬そうだな」
「手始めにこいつら駆除するか」
五人はそうして、ロックイーター達を斬りながら、第三層を進む。
ここの魔物達をあらかた駆除する頃には、下へ続く道を見つけ、そこを降りた。
――第四層。
ここにももちろん魔物はいる。
この層にいるのは、翼の生えた大きな目玉。『フローティングアイ』だ。
「こんどは目玉か。どうやって浮いてるんだ? これ」
「いちおう翼はあるけどね……」
「魔法で浮いてるんじゃないの?」
「あの大きな目に睨まれると、状態異常が引き起こされるかもしれませんね」
「厄介だな……」
『フローティングアイ』は確かに面倒な敵であった。
目が合うだけで体が痺れを起こしてしまい、リノの回復魔法や薬で治療する。
しかし注意するのはそこだけで、何とか目を合わせないように戦い、駆除できた。
そして第四層の敵を大分減らしたと思っていた時、通常ではない目玉を見つけた。
その姿はフローティングアイより大きく、紫がかった体が毒々しい生き物だ。
「健康分析! 彼の名は『ゲイザー』よ! 逆さまつ毛が目に刺さって痛いらしいわ!」
「目がデカイとまつ毛も太いのか……」
「指くらいあるね……」
「見て! まつ毛に枝毛があるわ!」
「……状態異常とかかけてきそうですよね」
「それは困るな、何か情報はないのか?」
「ウチの魔法はヘルスチェックがメインだからね」
「相変わらず微妙な魔法だよね……」
「まあいい、目を合わせないように戦おうか、何とかなるだろう」
そのように彼らは、いつものように何も考えず戦闘を開始した。
目を合わせないように、機先を制し、ヒナがゲイザーに詰め寄り突きを放つ。
「!?」
だがそこには、ゲイザーは消え、何もいない空間だけがあった。
「どこだ!?」
「瞬間移動?」
五人はそれぞれ敵の姿を追う。
〝ニャー〟
不意に背後から子猫の鳴き声が聞こえた。
皆一斉に後ろを振り返る。だが、そこにいたのはゲイザーだった。
「くっ!」
「卑怯な!」
五人はすぐに目を閉じるも、ゲイザーと目を合わせてしまう。
目の前が一瞬暗闇に覆われ、再び目が見えてくる頃には敵は消えていた。
「くそっ! どこ行った?」
「クロ! 胸が!」
クロウは顔を下に向け、自分の胸を見る。
……そこにあったのは、女性のような胸の膨らみだったのだ。
「えぇっ!?」
突然女性のような姿になってしまい。驚くクロウ。
「エリっちも胸が!」
「えっ!?」
エリーも自分の胸を見ると、そこにはいつもの自分の胸は無くなっていたのだ。
「フェイさん、胸が……」
「なっ!?」
フェイも自分の胸を確認する。
胸の谷間を強調する服を着ていたはずが、そこに見えるのは厚い胸板と胸毛だった。
「いやーっ! 胸が無くなって胸毛が生えてる! それに腕や指にも毛が!」
慌てて自分の胸を腕で隠そうとするフェイ。しかし胸毛は隠しきれていない。
リノは自分の胸を触って確認するも、自分の腕が筋肉に包まれていた。
「これは……、もしかして、性転換してしまったのではないのでしょうか……?」
ヒナも自分の胸を触り、確かめる。彼女の眉毛は太くなっていた。
「そうらしいな……、いつもより肩が軽くなったようだ。だがこの股間の遺物は……」
「状態異常が『性転換』って何なんだよ!」
「イヤっ、もうあたしの胸を返して!」
「エリっちはともかく、ウチの胸が……」
五人それぞれ今の自分の姿に混乱してしまう。
そこへ先ほどまで消えていたゲイザーが現れた。
その彼の目は笑っているように見える。
五人は怒り、一斉にゲイザーを攻撃しだした。
程なくして、ゲイザーはヒナの一刀で両断され、さらに切り刻まれ、死んだ。
だが、彼を倒しても、全員の状態異常は治らなかったのである……。
途方に暮れる一行。
「これは……、どうしよう……?」
「あ~もう! 街に帰れないよ!」
「リノっち、この状態異常を治す薬は無いの?」
「私も初めてですので……」
「これは困ったな……、だがいつもより力が増えた気がする……」
「このダンジョン攻略しないと無理かな?」
「最悪だね……」
「これは人に見られたくないわね……」
「どうしましょう? これを治す魔法もありませんし……」
「奥へ進み、ここのボスを倒そう。恐らくそれで戻るはずだ」
ヒナがそう言い、五人はこの坑道の奥へと進みだした。
――第五層。
一行は自分の体に違和感を感じつつ、この層へ来た。
第五層には魔物の姿が見えず、静まり返っていた。
「魔物がいないな」
「ボスがいるんじゃない?」
「とにかく、元の体に戻りたいわね」
「そうですね……」
「どのような魔物がでるか楽しみだな」
そう話しつつ、五層の捜索を始める。
だが魔物の影すら見つからず、困惑する五人。
「ホントにいるのかな?」
「どうだろう? 今のところ見ないね」
「どうしたのかしら? ボスがいてもおかしくないのに」
「おかしいですね……」
「ふむ……」
さらに探すも、魔物の姿は見えない。
一通り五層を探し終え、引き返そうとした、その時である。
五人が振り返ると、先ほどまで無かった岩が、道を塞いでいるのだ。
「なんだ、この岩?」
クロウが足を踏み出すと、岩の表面が動き、あらゆる所から目が出てきたのだ。
岩の表面に無数の数えきれない目が開き、それぞれ動いて醜悪な形の岩となった。
「うわっ! キモっ!」
「これ、魔物?」
「そうみたいですね」
「なんだこいつは……」
すると突然、岩の無数の目が輝き、そこから細い光線が出てきたのだ。
「くそっ! 敵か!」
クロウは咄嗟に剣を振り、水しぶきでその光線を遮る。
「健康分析! 彼の名は『邪眼集岩』よ!」
「聖なる盾!」
リノの補助魔法が全員にかかる。
「やるぞ!」
ヒナの掛け声で戦闘が開始された。
ヒナが『邪眼集岩』との距離を詰め、斬り下げて岩の目を数個潰す。
フェイの魔法、リノの銃撃も加え、さらに岩の目を潰す。
岩の目から発射される光線は、一本では効果は無いものの、複数の光線が重なる所は高熱を発するようだ。
エリーがひざ下に火傷を負い、リノの回復魔法を受ける。
「あちっ! ビームが重なるとやばいね」
「水しぶきで威力は下がるみたいだけど、ずっと水を出し続ける訳には……」
「霜霧凍結!」
フェイの氷魔法が岩の周囲を凍らせ、その岩を凍結するかに見えた。
だが、凍ったのは岩の表面だけで、再び岩の瞼らしきものが開くと、中の目がこちらをじっと見つめだす。
「うそっ! 凍結が効かないの!?」
フェイが珍しく動揺する。
「ならば斬るまでだ!」
ヒナが岩の表面を斬り、その目を何個か潰したが、その岩の目は多すぎる。
斬った部分だけ封じても、他の目がこちらへ光線を発射してくるのだ。
エリーも岩を斬るのに加わり、両手の二本の短剣で斬りまくる。
岩の目が光ると後ろへ退がり、光線を回避する。
それを繰り返しているうちに、岩の目は半数近くまで減ってきた。
「このまま押せば倒せるかな?」
エリーはそう言い、再び斬り込もうとすると、岩が後転しだした。
「なっ!?」
突然の岩の動きに後ろへ下がるエリー。
岩が後転すると、そこにはさらに無数の目があったのだ。
「キリが無いな……」
珍しくヒナがぼやく。
そうは言うものの、岩の目が光り、また光線が発射され、五人はそれぞれ躱す。
皆が思案していると、魔物と地面を見ていたクロウは何か思いついたようだ。
「フェイ、床を凍らせよう!」
「……そうね、やってみるわ」
二人はそう言って、まずクロウが地面に水を撒く。
フェイは魔法で岩の魔物の後ろの地面を凍らせていった。
そして、エリー、リノ、ヒナの三人で岩の目を攻撃し、目を潰していく。
再び岩の魔物が後転しだすと、五人で岩の魔物を奥へ押し出した。
岩の魔物は地面が凍っているせいで思うように回転できず、後方へと押される。
魔物の後ろは下り坂になっていて、そこを転がって行くと徐々に回転が加速していき、ついには勢いよく壁にぶつかり、割れてしまった。
……なんとか邪眼集岩を壁に叩きつけ、岩を割って倒した一行。
彼がいた場所には、『土の魔石』が転がっていた。
それを拾い上げる頃には五人の体は元に戻ったようだ。
自分自身の体を確認し、やっと安心できた五人。
それから坑道の安全を確認すると、リベルタスに戻ったのだった。
一行がリベルタスに戻ると、ドルフが短剣を二本完成させていた。
エリーが短剣を受け取りにドルフの元へ顔を出す。
「ほれ、頼まれた風属性の短剣だ」
ドルフからエリーに新しい二本の短剣が手渡された。
「お~、カッコいいね!」
エリーは上機嫌でその二本の短剣を眺める。
「この短剣の名前は?」
「『ボレアス』と『ノトス』。儂は仮にそう名付けたが、好きな名をつけると良い」
「うん、いい名前だね。それに決めたよ。ありがとう、爺さん」
「なあに、素材を持ってきてくれたんだ、それくらい構わん。」
エリーはその二本の短剣を、試しに振ってみる。
その短剣の軌跡に風が生じ、いかにも風属性を持っているようだ。
「その短剣はな、二本の斬撃を合わせると、つむじ風を巻き起こすぞ」
「へぇ~、凄いね」
そう言って、エリーは二本の剣を同時に振ってみた。
目の前につむじ風が現れ、砂埃を巻き上げる。
「お~、凄い凄い」
そう言ってさらに二本の剣を振り続けると、つむじ風がどんどん大きくなってきた。
そのつむじ風は周囲の風を巻き込み、徐々に大きくなっていくと、もはや竜巻と呼べるような代物になってしまった。
「爺さん! これどうすんの!?」
「知らん……。まさかこんなやり方が……」
エリーはドルフの胸倉を掴み揺さぶるも、ドルフは目を背けてしまう。
仕方なくエリーは、竜巻と逆方向に『ボレアス』と『ノトス』を振りつけた。
すると竜巻は、この場を徐々に離れて行った。
街の中に被害が及ぶ前に、エリーは二本の短剣を何度か振り、竜巻を街の南の海へと追い払った。
その後、竜巻は海に出てからも成長を続け、海水を巻き上げつつ、消えて行った。
「爺さん、とんでもないのを作ったね……」
「そう褒めるな、ハッハ!」
「笑い事じゃないような……」
……その夜の事、リベルタスの街に、何か重量のあるものが降り注いだ。
その震動と音で、リベルタスの街の人が慌てて家の外へ出ると、そこには大小の海の魚が地面の上を跳ねていたのだ。
彼らが夜空を見上げると、空からさらに数多くの魚が降ってきている。
街の人はこれは何かの不吉な前兆かと恐れ、一晩中眠れなかったようだ。
この話を聞きつけたエリーは、(自分のせいじゃない、爺さんが悪いんだ)と思いつつ、明日に備え、再び眠りについたのであった。
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ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
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貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
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