VRゲームの世界から出られない話

酒屋陣太郎

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第五話

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 三人は互いに顔を見合わせ、沈黙してしまう。
皆、混乱してしまって、どうしたらいいのか分からないのだ。
「ねぇ……、どうしよう……」
ファルはここにきて、やっと顔に怯えた色を出した。
「ここって本当にゲームの中なのかな……」
ルウラはそう言っているが、それは願望というか、祈りに近いものだった。
「……脱出しよう!」
沈黙していたライが口を開いた。
「でも、どうやって?」
「木造のIDカードを使う」
そう言ってライは、木造の所へ向かう。
木造は未だに胸から血を流して死んでいた。
その彼の血は、その死体の周りに池のように溜まっている。
木造は死んだら生き返らないのだろうか、そう思ったが、ライは木造の首にかけられた社員証からIDカードを抜き取ると、ファルとルウラの所へ戻った。
二人はまだ動揺を隠せなかったが、
「ここを出るぞ!」
と、ライに言われ、覚悟を決めたようだ。

 三人が廊下へ出ると、エレベーターが上昇してきているのが見えた。
昇ってくるのは、下にいた兵士達だろうか。
そう思っていると、ルウラがバズーカらしき物を肩に担ぎ、突然エレベーターに向けて発射した。
 エレベーターのあった場所が爆音と爆風と炎に包まれ、その機能を停止してしまったようだ。
「こうなったらヤケよ!」
ルウラはもう吹っ切れたようだ。
 ライはエレベーターと反対の方向、資料室のさらに先を見ると、非常口のマークを見つけた。
「あっちだ!」
ライはそう言って、非常口のマークを指差し、そこへ向かった。
そこにはIDカードを差すところがあり、そこに木造のIDカードを通し、扉を開けた。
 扉の先は殺風景な階段になっていて、ここを降りて行けば一階に出られるようだ。
三人はそう思って、階段を降りて行った。
階段を三十階から一番下まで降りるのは大変なことだ、とは思ったが、兵士と銃撃戦をするよりはマシか、と思いつつ、三人は降りて行った。
 幸いにも、この非常階段から昇ってくる兵士はおらず、何とか十階まで来れた。
「一階まで降りたら兵士がいるだろうから、二階から廊下に出て、そこからどこかに出よう」
ライはそう言って、二人はそれにうなずいた。

 そして三人は二階へ着いた。
二階の非常扉をそっと開けて覗き込むと、どうやらここには兵士はいないようだ。
「まず、そこのトイレまで行こう」
ライはそう言って、トイレの入り口まで走った。
 彼がトイレの入り口に着くと、廊下に銃声が鳴り響いた。
驚いて後ろを振り返ると、ルウラが撃たれて血を流し、倒れていた。
ファルは無事にトイレの入り口まで来れたようだが、その顔は生気を失い真っ青になっていた。
 だが、二人に迷っている暇は無かった。
再び銃声が鳴り響き、廊下で倒れているルウラに一発二発と撃ち込まれたのだ。
彼女はもう微動すらせず、何も言わぬ物体になってしまったようだ。
ライはファルの手を引いてトイレの中に駆け込む。
 そして窓から外を見て確認すると、トイレにあったトイレットペーパーをありったけ窓から投げ捨てた。
「なにをするの……?」
ファルは生気を失ったような表情で聞いてきたが、
「ここから飛び降りる」
ライはそう言って、再びトイレットペーパーを窓から投げ捨てた。
「大丈夫なの……?」
「……」
ライは無言であった。
 そのトイレにあったトイレットペーパーを全て投げ捨てると、
「どっちが先に降りる?」
と、ライがファルに聞いた。
「一緒に……」
ファルがライの手を握った。
ライはファルの目を見てうなずくと、彼女の手を握りしめ、二人で二階の窓から飛び降りて行った……。



 場面は変わり、そこはどこかの町の中のホームセンターになっていた。
そのホームセンターには、立てこもっている二人がいた。
――ライとファルである。
ライとファルがいるホームセンターは、周囲を数えきれないほどのゾンビに囲まれていて、二人はバリケードを作り、ゾンビに向かって発砲を繰り返していた。
 ……彼らはまだ何かのゲームをやっているのだろうか。
それとも、永久にゲームの中から出られないのだろうか……。
二人を知る者は、皆、そう思うだろう。
ただ、二人はひたすらに、懸命に戦っていたのだ……。

 そして、ライの後ろで、銃声と誰かが倒れる音がした。
彼が後ろを振り向くと、そこに見えたのは怪我をしたファルだった。
ライはファルを怪我を見て、この傷はゾンビに噛まれたのか、と思った。
この世界のゾンビに噛まれると感染してしまい、自分もゾンビになってしまうのだ。
ファルはゾンビに噛まれてしまい、もう助からないかも知れない。
ライの頭に浮かんだのは最悪の事態であった。
 だが、ファルは自分がゾンビに噛まれたのを自覚していて、ライに懇願するような目で、か細い声で呟いた。
「おねがい……、うって……」
ライはファルの手を握りしめ、目を閉じると、発砲した……。



 再び場面は変わり、そこはどこかの森の中の丸太小屋になった。
その小屋には老人と、アンドロイドのような召使いがいた。
その老人はどこかで見た事がある……。その顔は、何となくライに似ているようだ。
 彼は、機械のように同じ事しか喋らない、固い召使いと一緒に暮らしていた。
そして彼は、一度遠くを見るような目をすると、そのマネキン人形のような召使いの頭を撫でてから、ベッドに入り、眠りについた……。



 三度みたび場面は変わり、どこかの研究室のような場所になった。
その研究室には白衣を着た男女二人がいて、モニターと窓の先を交互に見ていた。
「主任、プライムデータが規定値を超えていますが、どうしますか?」
女性の研究員が質問した。
「ん~、そろそろ限界かな、次の検体を準備しておこうか」
主任と呼ばれた男性はそう答えた。
「はい、分かりました。先方に伝えておきます」
女性の研究員はそう答えて、モニターを見ながら手元のキーボードを叩いた。
主任と呼ばれた男は、ただ研究室の窓の外をじっと見つめていた。

 その窓の先は殺風景な小部屋になっていて、そこには椅子に拘束された人がいた。
頭には何かの機械らしきものが被せられていて、その顔は見えない。
首から下も拘束衣らしき服を着ていて、性別も分からない。
その椅子に拘束された人は、何の動きも見せずに、ただ、座り続けていた……。
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