この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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明日に向かって

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仕事終わりの定食屋。

妻「今日は違うメニューにしなさいよ」

私「わかったよぉ」

美奈「お決まりですか?」

私「おぉ!美奈ちゃん助けてくれよ!みんなが唐揚げ定食を選ばせてくれないんだよぉ」

美奈「言われてみれば、Kさん唐揚げ定食ばかりですよね?ダメですよ、栄養偏っちゃいますよ」

妻「ほらぁ!同じ事言ってるじゃない!」

私「....わかったよぉ」

妻「声が小さい!」

私「はい!わかりました」


FとYが隣で爆笑してる。

F「いくら喧嘩が強くても奥さんには頭が上がらないんだな」
Y「こんなシーン、なかなか見れないわね」

私「おいおい、見世物じゃないぞ」

F「ところでJは?」

私「今日は病院の日だって、Mが付き添いで一緒に行ってるよ」

F「あ、そうだったね」

妻「まだメニュー決まらないの?」

私「うーん....これは人生の中でベストスリーに入るくらい難しいもんだ...」

妻「じゃあ、私決めちゃうわよ!」

私「いやいや、それは待ってくれよ。ここは慎重に」
私の言葉を遮り注文をする妻。
妻「美奈ちゃん、うちの人はこれね!」

美奈「いいんですか?」

私「いや、ちょっ....」

妻「うん!これ!うちの人を待ってると明日の朝になっちゃうから」

F「たしかにもう三十分以上悩んでるもんな」

私「それだけ重要な問題なんだよぉ」

Y「そろそろ観念しなさいって」

私「ちょっとごめん、電話だ」


店の外に出て電話に出る。

妹「あ、ごめんねこんな時間に」

私「いや大大丈夫、ところでどうした?」

妹「頼まれてたお使い、買ってこれたよ」

私「おぅ!さんきゅう!」

妹「お昼からのんびり行こうと思ったのに朝から並んだんだからね」

私「朝から並ばないと買えなかったのか?」

妹「知らないの?グッズ販売なんてどの会場でも開場してから三十分掛からないで完売しちゃうんだよ!」

私「すげぇ人気なんだな!」

妹「ほんとに何も知らないんだから」

私「いやぁ、俺写真に興味ないもんさぁ」

妹「ほんとにもう」

私「じゃあ、大変ついでにそれを大至急宅急便で送ってくれ」

妹「宅急便じゃ配送料高くついちゃうから、レター便で送るね。速達扱いにも出来るし。レター便なら二日以内に届くよ」

私「あぁ、じゃあ速達で頼むよ」

妹「うん、あ!CD忘れないでよ!」

私「わかってるよ、買ってきたらすぐに送るよ」

妹「わかった、じゃあ明日速達で送るね」

私「わかった、頼むよ」


電話を切って店内に戻る。

妻「もう!ご飯冷めちゃうじゃない!」



.....今日はよく怒られる日だ。

妻「電話誰?」

私「あぁ、妹だよ」

Y「妹さんいるの?」

私「うん、五つ下の妹がいるよ」

F「二人兄弟なんだ?」

私「うん、そうだよ」

若干ぬるくなってしまった味噌汁を口に運ぶ。

妻「今朝何か頼んでたよね?」

私「あぁ、うん。今日の長野じゃ手に入らない物を頼んでた」

妻「何?」

私「来週頭に速達で届くよ、それまでのお楽しみ。うん、鯖味噌美味かった!ごちそうさま」

妻「たまには違うメニューもいいものでしょ?」

私「でも唐揚げ...ぐふっ」

妻の肘打ちだ。

私「....最近は肘打ちが流行りなのか?」

Y「知らない」

妻「知らない」

F「僕が知ってる訳ないでしょ」


私「ビールお代わり頂戴、これ飲んだら今日は帰るよ」


....ビールのお代わりが来ない。

私「あれ?美奈ちゃんトイレかな?」


「あんた!忙しいんだから自分で出来る事は自分でやりな!」
おねーさん、そりゃ殺生だわ。

ビールを注いでると、美奈ちゃんが戻ってきた。

美奈「あ、すいません」

私「自分で出来る事は自分でやれ!」

美奈「え?」

私「....って世界最強に言われちゃった、あはは」

美奈「それにしても、注ぎ方綺麗ですよね」

私「そんな事ないよ。ところで来週の誕生日はバイト?」

美奈「えぇ、バイトですよ」

私「友達とパーッとカラオケとかしないの?」

美奈「今年はしません、貯金を最優先してますから」

私「お父さんにおねだりとかしないの?」

美奈「あの写真集だけはどうしても自分だけの力で手に入れたいんです。まだまだ全然届いてないですけどね」

私「コツコツやればいいさ」

美奈「そうですね、ありがとうございます」

私「あの写真家って東京で今日から個展やってるみたいだね、妹が言ってたよ」

美奈「私も行きたいんですけどね、東京じゃちょっと遠いですよ」

私「たしかにここからじゃ遠いな」

美奈「長野に来てくれたら学校サボってでも絶対に行くんですけど」

私「それはさすがにお父さんの前じゃ言えないな」

美奈「えぇ、もちろん言えないですね」

ビールを注ぎ終わった。
私「じゃあ伝票付けといてね」

美奈「はーい」

テーブルに戻りビールをひとくち。
妻「美奈ちゃんと何話してたの?」

私「誕生日の話。当日もここでバイトだってさ」

妻「そうなんだ、がんばり屋さんだね」

Y「ねぇねぇ、ここでミニパーティーとか出来ないかな?」

私「現実的には難しいだろうね、ここは飲食店だから持ち込みとか出来ないし」

Y「あ、そうか....」

F「でも何かしてあげたいね」

私「それだけどさ、みんなに提案があるんだけど.....」


ヒソヒソ.....


Y「それいいね!」

私「だろ?名案とは言いがたいけど」

妻「それでも喜ぶと思うよ、私もその提案に賛成」

F「んで、誰が用意する?」

私「いいよ、言い出しっぺの俺で」

Y「え?いいの?」

私「うん、任せて」

妻「私手伝おうか?」

私「いや、大丈夫だよ。黙ってたけど実はもう着手してるんだよ」

Y「えー、何?勿体ぶって」

私「当日のお楽しみにしてくれないかな。みんなが納得できる物を必ず用意するよ」

F「ほんとに?」

私「うん、間違いないよ」

妻「相当な自信ね」

私「まぁね、んじゃそろそろ帰ろうか」

妻「そうね」

Y「もうこんな時間なんだ、帰ろうよ」

私「美奈ちゃん!お会計して!」

美奈「はーい!」
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