夏が終わった、そのあとに〜吟遊詩人とすみれの恋〜

楢川えりか

文字の大きさ
23 / 52
【PART 2】2年生、秋

12. 一次試験結果(2)

しおりを挟む

「あー、久しぶりに喋って頭疲れたぁー」
 久しぶりにフランス語だけで会話をして、ぐったりしたおれはソファの上で伸びをした。
 おれも都真も授業のない木曜日の午後。おれたちはまた、大学近くの純喫茶で向かい合っている。
 都真は日本に帰ってきてからもずいぶん、フランス語のスピーキングが上手くなってるんじゃないか。仏文科だし、おれ以外にも練習相手はたくさんいるんだろうな。
 そんな彼に言い出しにくい話を、おれは切り出そうとしている。
「あのさ、都真」
「うん、何?」
 呼ばれた彼は、やわらかい笑顔をおれに向けてきた。それを見るだけで、胸がいっぱいになる。
 ああ、好きだ。
 なんでだろうな。都真なんて、おれが都真のこと好きだから、おれのこと好きって感じてるだけなのにな。
「おれ、決めたことがあるんだ。否定しないで聞いてほしい」
 おれが言うと、都真は少しびっくりしたような表情をした。おれの声が真剣すぎたのかも。緊張してるから。
「わかった」
 それでもそう言ってくれたので、おれは続ける。
「おれさ、交換留学に応募してみようかなって、思ってるんだよね」
 そうだ。二次試験に受かったら、おれも応募できる。交換留学は、受験見込みで申し込みができた。
「え、フランスに?」
 都真の声が堅い。強張った表情。
「そう。人数、若干名だろ」
「あの、それって……オレのせい?」
 恐る恐るといった感じで、都真が聞く。
 そうじゃない、って言ったらきみは安心できるのかな。でもたぶんそれは、嘘だからな。
「まあ、都真と一緒にいたいっていうのが理由だから、都真のせいって言われたらそうかもだけど。でも、おれが応募したいって思ってるんだから、おれのせいだよ」
 おれの答えに、都真もすごく緊張した表情をしていた。
 おれがきみのために自分の将来を変えようとしているのが怖いんだろ、わかってるよ。
「一夜。気持ちはうれしいけど、そういう、大事なことを他人のために決めない方がいいんじゃないかな」
 感情を抑えた、冷たい声。
 おれは緊張感をやわらげるように、わざと冗談めいた口調にする。
「都真。きみはやりたいことがない人間をわかってないな。おれみたいな人間はな、やりたいことができるだけでうれしいんだよ。別にフランスに行って結局都真と別れちゃったとしても、おれの中にフランスに留学したって経験が残るわけ。それで十分なんだ」
 都真は息を飲んで、気持ちを落ち着けさせるように大きくそれを吐いた。
「だけど、大きなことだよ。外国で暮らしたら外国人っていう扱いを受けるし、自分の気持ちだって思うように伝えられないんだよ。やりたいことがなきゃ、我慢できないかも」
 否定しないって約束したことを気にしているのか、曖昧に濁しながらも都真は言った。
「大げさだな。向いてなかったら帰ってくるだけじゃん」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪魔はさせない

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 病棟で知り合った2人。生まれ変わって異世界で冒険者になる夢を叶えたい!

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...