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【PART 2】2年生、秋
12. 一次試験結果(3)
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「でも」
まだ反論したそうな都真が今にも泣きそうな子供に見える。
「都真。きみは自分がおれの人生に影響を与えるのが怖いんだ」
たぶん、それを重いって感じてる。
「そうだよ、みんなそうだ」
おれはそっと手を伸ばして、握りしめられている都真の拳を撫でる。寂しくて、かわいそうな都真。
「違うよ、人間はみんな、出会った人間に何かしら影響を受けるよ。影響を受けず、与えない関係なんて、人間関係じゃない。きみだって、映画を見て吟遊詩人になりたいって思っただろ。映画の向こうだって、映画を作っている人がいて、その人から影響を受けたんだ。度合いの問題だよ、誰からも影響を受けないで生きていくことなんてありえない」
「それはそうかもしれないけど、そうだとしても影響の度合いが大きいよ」
声が大きくなりそうになった自分に気づいたのか、途中で彼は声を落とした。
「都真。それを判断するのはきみの傲慢だよ」
びくりと力が入った都真の手の緊張をやわらげようと、おれは両手で握りしめた。
「影響はさ、与える側が選べるわけじゃないんだ。受け取る側の問題なんだよ。些細なことでも一生心に残ることもあれば、何度言われても心に残らないこともあるだろ。影響の大小はおれが決める。きみじゃない。大丈夫、どんなにおれの人生が変わっても、きみを責めない覚悟はできてる」
都真は、追いつめられた子供みたいな顔をしている。なんとしても逃げたいのに、なんにも手段が思いつかないみたいな。おれだって、いじめたいわけじゃないんだけどな。
「一夜。正直な話をすると、オレはきみのそういう情熱はうれしいよ。だけどやっぱり怖い。オレはきみほどに変われない。……変わりたくない」
変わりたくない。
やっと、都真が本当のことを言ってくれた気がした。おれのためじゃない。恋をして、自分が変わってしまうのが怖いんだよな、わかるよ。
だってきみはずっと、自分の世界に閉じこもることで、幼い自分を守っていたんだもんな。
「わかってるよ、都真。きみはおれが変わったのと同じだけ、おれに自分が変えられてしまうことの方が怖いんだろ? もらったら、返さないといけない気がしてる」
「……」
彼は相変わらず、途方に暮れている様子だった。いつものかっこよくて、頭が良くて優しい都真じゃなくて、弱くて、かわいい都真。
だけど、そういう都真もおれは好きだから、困っちゃうよな。
「大丈夫、きみは変わらなくていい。きみはおれに、きみの人生から、何も返す必要はないんだよ」
おれは都真に向かって微笑んだ。握りしめた彼の手を、そっと、繰り返し撫でる。なんだか、子供をあやすみたいな気分だ。
「おれはきみが好きなんだ、どんなきみでも。だからきみは変わらなくてもいいし、変わってもいい。おれは全部、受け入れるから。遠距離恋愛でも、寂しくても大丈夫だよ。だから都真、怖いのは諦めて、おれと愛し合おうよ」
都真は、なんて言ったらいいのかわからないけど、すごく強い表情をしていた。全力で拒否したいような、でも全力ですがりつきたいような。
迷ってるんだよな。
わかるよ。恋愛って、しょうもないイベントだよな。自分がほしいものを手に入れるのに、自分の一番弱い部分をさらして、一番大切なものを失うリスクを負わなきゃいけないとかさ。トレードオフがやばい。
都真には時間が必要そうだった。
おれは彼の手を撫でていた自分の手を離すと、すっかり冷え切っていたコーヒーを飲み干して、おかわりを新しく注文する。
「……あのさ、時間。もらえないかな」
どのくらい経ったんだろう。新しいコーヒーもぬるくなったころ、都真がそう言って、おれはうなずいた。
まだ反論したそうな都真が今にも泣きそうな子供に見える。
「都真。きみは自分がおれの人生に影響を与えるのが怖いんだ」
たぶん、それを重いって感じてる。
「そうだよ、みんなそうだ」
おれはそっと手を伸ばして、握りしめられている都真の拳を撫でる。寂しくて、かわいそうな都真。
「違うよ、人間はみんな、出会った人間に何かしら影響を受けるよ。影響を受けず、与えない関係なんて、人間関係じゃない。きみだって、映画を見て吟遊詩人になりたいって思っただろ。映画の向こうだって、映画を作っている人がいて、その人から影響を受けたんだ。度合いの問題だよ、誰からも影響を受けないで生きていくことなんてありえない」
「それはそうかもしれないけど、そうだとしても影響の度合いが大きいよ」
声が大きくなりそうになった自分に気づいたのか、途中で彼は声を落とした。
「都真。それを判断するのはきみの傲慢だよ」
びくりと力が入った都真の手の緊張をやわらげようと、おれは両手で握りしめた。
「影響はさ、与える側が選べるわけじゃないんだ。受け取る側の問題なんだよ。些細なことでも一生心に残ることもあれば、何度言われても心に残らないこともあるだろ。影響の大小はおれが決める。きみじゃない。大丈夫、どんなにおれの人生が変わっても、きみを責めない覚悟はできてる」
都真は、追いつめられた子供みたいな顔をしている。なんとしても逃げたいのに、なんにも手段が思いつかないみたいな。おれだって、いじめたいわけじゃないんだけどな。
「一夜。正直な話をすると、オレはきみのそういう情熱はうれしいよ。だけどやっぱり怖い。オレはきみほどに変われない。……変わりたくない」
変わりたくない。
やっと、都真が本当のことを言ってくれた気がした。おれのためじゃない。恋をして、自分が変わってしまうのが怖いんだよな、わかるよ。
だってきみはずっと、自分の世界に閉じこもることで、幼い自分を守っていたんだもんな。
「わかってるよ、都真。きみはおれが変わったのと同じだけ、おれに自分が変えられてしまうことの方が怖いんだろ? もらったら、返さないといけない気がしてる」
「……」
彼は相変わらず、途方に暮れている様子だった。いつものかっこよくて、頭が良くて優しい都真じゃなくて、弱くて、かわいい都真。
だけど、そういう都真もおれは好きだから、困っちゃうよな。
「大丈夫、きみは変わらなくていい。きみはおれに、きみの人生から、何も返す必要はないんだよ」
おれは都真に向かって微笑んだ。握りしめた彼の手を、そっと、繰り返し撫でる。なんだか、子供をあやすみたいな気分だ。
「おれはきみが好きなんだ、どんなきみでも。だからきみは変わらなくてもいいし、変わってもいい。おれは全部、受け入れるから。遠距離恋愛でも、寂しくても大丈夫だよ。だから都真、怖いのは諦めて、おれと愛し合おうよ」
都真は、なんて言ったらいいのかわからないけど、すごく強い表情をしていた。全力で拒否したいような、でも全力ですがりつきたいような。
迷ってるんだよな。
わかるよ。恋愛って、しょうもないイベントだよな。自分がほしいものを手に入れるのに、自分の一番弱い部分をさらして、一番大切なものを失うリスクを負わなきゃいけないとかさ。トレードオフがやばい。
都真には時間が必要そうだった。
おれは彼の手を撫でていた自分の手を離すと、すっかり冷え切っていたコーヒーを飲み干して、おかわりを新しく注文する。
「……あのさ、時間。もらえないかな」
どのくらい経ったんだろう。新しいコーヒーもぬるくなったころ、都真がそう言って、おれはうなずいた。
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